第191話 正体
誰なんだ?
なあ!
その時だった。
「その話、余も混ぜてもらおう」
空間感知が反応する。俺は無意識に剣の柄へと手をかけた。
黒い穴が出現し、中から小柄な人物が出てくる。全身を黒いローブで隠し、狐のお面をつけた女性。声だけでその美貌に魅了される者だっているのだから、本当美人は恐ろしい。
……この部屋に美人が4人もいる。
「なんのつもりですか? 死神?」
戦闘態勢をとった。ミィトは唯一ベッドに座っている。サンカーが居合斬りを叩き込もうと、前項姿勢になる。
「余は争うつもりで来ているわけではない。落ち着け」
確かに、テズからは敵意が感じられない。俺は大きく息を吐き、手でその場を制す。
「自慢じゃないが、俺は感知に優れている。お前から敵意も殺意も微塵と感じられない。本当に話し合いに来たってわけだ。……そうだろ?」
「ふむ。流石は悟だ。そこら辺にいる脳筋とは違うな」
脳筋と言われ、ライラが顔を顰めた。しかしそこは剣士の意地なのか、憤りを行動に表そうとはしない。
「……ライラは他のギルドマスターを呼んでくれないかな? 僕たちだけじゃ、あの子たちも後でなんか言うかもしれないし。……お願いできるかな……?」
「はい。ミィト様が望むなら」
既に騎士団を脱退しているのに、ミィトには忠実だ。
ライラさんはそう言うなり部屋から出て行った。
「さて。部外者は追い出したようだ。話の続きをするがよい」
「部外者、ですか?」
シーファは怒りの表情を露わにする。
「ライラさんを部外者!? ライラさんは立派な騎士です! 人間です! なのに、貴方は! 貴方というやつは!」
「シーファ、落ち着いてくれ。頼む」
彼女は俺に矛先を向け、怒鳴ろうとしたのだろう。けれども、その口は俺を見るなり塞がってしまう。
「……分かりました」
それほどまでに追い込まれた目をしていたのか。シーファは黙り、俯いた。
「ごめんな」
鑑定さん。
鑑定さんがいなくなってーー敵だとわかって、俺の思考は正常に機能しなかった。
とにかく辛い。
転生当初からずっとずっっっと一緒にいた。初めて声を聞いたのも、鑑定さんだった。
灯台下暗し。
こんな身近に敵が潜んでいたなんて。
盲点だ。
いや、気付けない。
逆立ちしたって、スキルが敵なんて発想は絶対に思いつかない。
巧妙だ。
当たり前のところに潜んでいる、ハンターだ。
その何処かで今までの意見を否定する心もある。
嘘だ。
鑑定さんがそんなことするはずがない。
彼女は俺のスキルだ。
俺裏切るなんてこと絶対にできない。
理屈なんてない。
俺は少なからず、鑑定さんを信じている。
「相当迷っているみたいだな」
テズはそんな俺を嘲笑うかのように、おどけた様子で言ってのけた。
「……ああ。複雑だよ」
「む。怒りはしないのだな」
「俺がそんなに器の小さい男に見えるか?」
「ほう? それではその顔を怒りに染め上げるとしようではないか」
テズは顔を見回す。ミィトが乾いた笑みを漏らした。テズからは尋常ではない量の殺気が放たれる。
「やってみろ。俺が叩きのめしてやる」
対抗するかのように威圧と殺気を出す。
「……くくく。やはり悟は面白いな」
テズはあれほどの量の殺気を瞬時に引っ込め、笑った。表情は見えないが。
見ててヒヤヒヤするのはミィトたちだ。心臓に悪いはずなので、もうやめておこう。
「最初に言ったはずだ。余は戦争を持ちかけに来たのではない」
信じられないのも普通だよな。
「では、余から話を進めよう。其方等が言っていた『声』というのはきっとヤツのことだ」
「ヤツ? 誰だ? というか、お前は何か知っているのか?」
代表して俺が聞く。
「知っている。ヤツとは昔拳を交えたことがあるからな……。結界で追い出されたが、そもそもこの話は関係ない。其方等は『声』について知りたのであろう?」
俺たちが頷くと、テズは仮面の目の部分を指でなぞった。
「その様子だと、本当に知らないようだな。此奴等はともかく、悟は知っていると思ったが」
「何が言いたい? 早く言え」
こいつは敵だ。
俺は考えた末、その結論に辿り着いたのだ。今更その考えを曲げる必要性はない。
「知らない方がいいということだ。……それよりも、余は悟に言いたいことがあってきた」
「……俺に?」
「む。不満か?」
俺に対してじゃない。ミィトたちに向けて放たれた言葉は虚しく宙を舞う。
「異論はないようだ。……余にとっては其方等も部外者だ。出て行ってくれぬか?」
ミィトとサンカーが動く。ただ一人、シーファがテズのことを睨みつけながら魔法陣へ歩いて行った。
全員が退出したことを確認し、テズは仮面越しにこちらを見た。
「それで? 俺を一人にしたところで倒すっていう算段かな?」
「それもまた一興。だが、何度でも言ってやろう。余は争うために来ていない」
「ああ。知ってる」
「ふ、この余を弄ぼうとでも?」
テズは肩をすくめる。話を変えるらしい。
「さて。其方が言う、『鑑定さん』のことについてだ」
テズはゆっくりと、静かに言った。
「これはただの憶測だ。そして、やつの正体はーー」
俺はただひたすらに、驚いた。




