第189話 僕の過去2
「失礼します」
ライラが一礼し、影の中のカゲマルと共に入ってきた。
「ミィト様。ご体調はいかがでございますか?」
「う、うん。大丈夫だよ」
本当は頭痛が止まなくて、顔をしかめたかったが僕は我慢した。
十分弱いことはわかっている。
私は滲んだ涙を気がつかれないようにそっと拭い、無理矢理の笑みを見せた。
自分で望んだわけではないが、「様」付けされているものだ。それ相応の対応を見せなければいけない。涙なんか、みっともない。
「よかった。ミィト様に何かあったと聞きつけて、すごい心配だったんです」
ライラは心底ホッとした表情を見せた。こんな引きつった笑みでも安心してくれたらしい。
「して、ライラ。お主がそれだけのためにここにはこないだろう?」
サンカーが鋭く聞く。ライラは笑いながら頷いた。
「よくお見通しで」
そして、真剣な顔つきになる。キリッとしていて、男と間違えられてもいいほど格好よかった。
「サトルが戻ってきた」
……漸くだ。
それと同時に安堵の息を吐く。
ライラは僕のため息を勘違いしたのか、体を硬くした。今度は自然に微笑む。
「僕が稼いだ時間は無駄じゃなかった……」
どさりとベッドに倒れ込む。
「よかった」
「……ミィト様」
顔だけをそちらに向け、僕は声を出さずに態度で疑問を表した。
「何かお悩みで?」
僕は上体を起こし、呟く。
「ちょっと」
普段そんな様子を見せない僕が吐いた弱音に、ライラは驚いたのか一瞬目を見開いたが直ぐに元に戻った。
僕は自嘲したくなった。
最初、あれほど弱いところを見せないように我慢したはずなのに、僕はもう折れてしまっている。なんていくじないんだろう。
……僕は元々気弱な性格だった。
でも、何故だろうな。
あの人と会ってから変わったんだ。
《強くなってもらわなければ困るんですよ》
上から目線で、その時は憤りが隠せなかった。しかし、後から考えてみれば彼女の言うことは正しかった。
僕は強くならなければいけない。
そのためにはまず地位を確立しなければいけない。
二度と虐められないように。二度と暴力を受けないように。
《貴方たちはこの世の生き様を目に焼き付けておくといい。そして、ミィト。貴方はーー》
結局なにを言った?
いや、別にいいか。
このことに関してはなんども考えた。けれども、その部分には濃い霧が立ち、全く思い出せない。だから無駄に刺激せず、ゆっくりと記憶が蘇ってくるのを待ったらいい。
話は戻る。
僕は彼女の生き様に励まされた。
僕と同じ末路を辿っているのに、生き生きとしていて未来に希望があるようだった。
そんな彼女が羨ましかったのだ。
だから力をさらに鍛え、僕はギルドマスターに立候補した。
こんな性格、誰が信じてくれるのだろう?
当初は不安ばかりだったが、僕は見事ギルドマスターに当選した。
強さが認められたんだ。
自身の強さの在り方が分かったような気がして、すごく嬉しかった。
それが僕の辿った道。
落ちこぼれだった僕が成り上がった日々だ。
…………僕は、強気な性格ではない。
本当の性格が、これだ。ただ一人称が「私」から「僕」に変わっただけで。
他の二つは僕ではない、別の誰か。けれども、それらは僕。
矛盾しているが、そう例えるしかなかった。
「ーートーーミィト!」
僕はハッとした。思入れに気を使いすぎたようだ。
「あ……ごめん」
また謝ってしまった。
と、その時。
「失礼します」
魔法陣から誰かが入ってきた。
気配を感じなかった。僕よりも格段に強い存在。
目を向けると、そこには美人がいた。獣耳が生えていて、純白の翼がーー。
「シーファさん」
僕は言った。周りからは僕が相当顔を輝かせているように見えてるに違いない。
「サトルはどこだ?」
と、ライラ。
「魔王が去りましたので、少し外を検査してからここに向かうと言っていました。多分、もうすぐで来ます」
「そうか。……魔王が去ったか」
サンカーは一瞬嬉しそうな顔を見せた。
「良かった、と言えればいいのだがな」
そう言い、サンカーは窓越しに空を見つめた。未だ白黒の雨に包まれた世界。僕は目を細める。
「一体、誰が……」
ライラが額に手を当て、呻くようにして呟いた。
更に、いつの間に降り出したのか雷まで辺りを破壊し始めた。化け物三体のせいでただでさえ抉れていた地面が陥没していく。
「……これはただの私の妄想の可能性もありますが、一応話しておきます」
シーファさんが話を切り出し始めた。僕たちは耳を傾ける。
「サトルはあの声について何か知っているような面持ちでした」
「なんだと? 知り合いなのか?」
ライラの質問に、シーファは首を横に振る。
「そこまでは流石に分かりません。最初に言った通り、私の身勝手な妄想かもしれませんので」
「でも、サトルは色々知ってる」
僕に視線が集まる。喉元まで出かかった言葉が引っ込んでいくのを感じた。
僕が黙る展開を感じ取ったのか、サンカーが代わりに口を開けた。
「確かにな。彼奴は転生者だ。声について何か知っているかもしれない」
そして、ふっと息を吐く。
「もしくは、彼奴ですら敵わない相手、とかな」
サトルが敵わない?
僕は有り得ないといった感じで首を振った。
「サトルはステータスが1500を超えてるんだぞ? あいつが負けるなどありえん。と、いうか想像ができない」
僕の気持ちをライラが表してくれる。
「可能性の話だ。あまり鵜呑みにするな」
サンカーは優しく微笑む。
話が終わり、タイミングよく魔法陣が光った。
「よ。みんな揃ってるみたいだな」
サトルだ。
「全く……。入る時は声くらいかけてくださいよ」
「すまん」
軽い挨拶のつもりなのだろう。はたから見れば、非常に仲が良い行動だ。
「外を調べたところ、魔術を行使した痕跡は見つけられなかった。きっと、遠距離型の魔法なんだろうな」
「やはりか……」
サンカーがため息を吐く。
「あ、全然話違うけどプリンを紹介する」
こいつ、今更何を言っているんだ?
全員の心の中が一致した瞬間であった。
「入ってきて良いぞ」
サトルがそう言い、入ってきたのはーー。




