第188話 僕の過去1
二つ投稿します!
僕は、夢を見ていた。それは遠い昔の出来事で。無理矢理記憶の底にしまっていた思い出で。
そして、今。
ゆっくりと記憶の引き出しが開いた。
カズキに襲われ、多重人格というユニークスキルを手にした私は人生を壊された。
きみ悪いスキルのせいで学園にも通してもらえない。
友達も私と接することに疲れを感じたのか離れていった。
親は豹変し、私を孤児院に押し付ける始末。それからは子供としてみてくれなかった。赤の他人だった。
街中で親を見つけても、視線すらくれなかった。
毎日変わる人格のせいでまともに店で買い物ができない。店員からは嫌悪の表情が隠そうとも滲み出ていた。
いや、隠してなどいなかった。
帰った、帰ったと虫を振り払うかのような仕草で追い出された。
靴はなく、服もボロボロ。それなのに、男性の視線も集められなかった。
ただ一つ、誇りに思えることが強さだった。
路地裏で一人泣いていると、よく不良に絡まれた。私はそんなやつらを片手で一掃できるほどの力を持っていたのだ。
しかし、この強さを認めてくれる人などいないと思っていた。散々裏切られたから。親友だと思っていた子の手が離れていったのだから。
カズキのせいでどれだけのものを失っただろう?
親に、友達。
それだけじゃない。
社会関係も、自身の価値も、人生も零れ落ちていった。
掴めなかった。唐突に手のひらから滑り落ちものを拾えなかった。
例え握ったとしてもそれらはするりと水のように形を変え、落ちただろう。
その頃だった。
落ちこぼれた私に、声をかけてくれたのは。
《無様ですね》
膝の間に顔を埋め、私はいつもの路地裏で一人泣いていた。
その声が自分を指したことも気がつかずに、微動だにしない。
《貴方ですよ、貴方》
それでも顔を上げない。
《はあ。もう、じれったいですね》
グイッと。
力すら入れていないのに、勝手に顔が持ち上がった。
赤く腫れ上がった瞳が見たものは黒い闇。そこから女性が出てくる。どんな原理かはわからないが、そこには高度の魔術が構築されていることが分かった。
「…………」
《そう緊張しないでください。ジンは貴方の味方です》
彼女は自らをジンと名乗った。
紫とエメラルドの混じったロングストレートの髪は艶がかかっており、光に反射してきらめいている。頭の上には黒い髪飾りが。すらりとした体型に、出ているところは出ている。顔もまた美人で、整っていた。
《無様です》
ジンはそう、はっきりと私に冷たく言い放った。
「無様……。あはは、そうだよね。私は無様だよ。全てを失って、死ぬよりももっと辛い経験をしなきゃいけなかったから」
《ならば、死んだほうがいいのでは?》
冷酷な調子で淡々と喋り続けるジンだが、私はなぜか安心感を覚えた。この人には何もかも話しても良い。きっと分かってくれるだろうと。
「私はとある人間に人生を奪われた。そして、この有様。簡潔に言うとそうだけど、カズキは知らないでしょ?」
《いいえ。知っていますよ。転生者のことですね》
「え……? テンセイシャ?」
《おや。知らないのですか。無知ですね》
「あ……ごめんなさい」
この人に見捨てられたら大変だ。
本能がそう叫び、私は謝った。ジンは無表情に突き放す。
《人間などに謝られてもいい気はしません。逆に不快です》
「う、うん。ごめーーあ、う……」
《まあ、今回は目を瞑りましょう。次からは注意してください》
「あ、ありがとう……?」
《お礼もナシで》
「う、うん」
《ジンが見込んだ人間です。働いて、強くなってもらわなければ困るんですよ》
流石に手を上で踊らされている気がして苛立った。
「貴方になにが!? 私の、何が分かる!?」
《分かりますとも。私も同じ境遇を辿りましたから》
思わず目を見開いていた。
この強者が私と同じ?
開きかけた口を閉じ、顔を伏せた。
深くため息をつき、美人な顔を歪ませるジン。それらしい表情を見たのはこれが初めてだ。全く、美人はどんな顔をしても美しいものだ。
しかし、それよりも遥かに気になる言動がジンの口から放たれたのを思い出す。
「見込んだ? どういうこと? ジンは一体何者なの……?」
《無知な人間に教えることはありません。貴方たちはこの世の生き様を目に焼き付けておくといい。そして、ミィト。貴方はーー》
荒い息で目覚めた。慌てて辺りを見回す。
ギルドの一室だ。僕はそこのベッドに寝かされていたらしい。隣にはサンカーが真剣な様子で僕を見つめていた。
「おお、漸く目覚めたか。随分うなされていたようだな」
「僕は……」
全て現実だ。
夢だが、全て過去にあった出来事だ。
僕はキリキリと痛む頭を抑え、息を整える。
あの後、何を言われたのだろうか……。
思い出せない。
既に引き出しには鍵がかかっており、それを捜索するのは難しいようだ。鍵はきっと、脳の片隅にでも捨てられたのだろう。
「今、プリンが儂たちの代わりに怪物と交戦してくれている。なに、ミィトは休んでくれていい。そうするのが最善だ」
サンカーは本気で僕のことを心配してくれているようだった。だが、その言葉が逆に僕の心を締め付けていく。
「サンカーは行ってしまうの?」
心細い。
「僕を置いていくの? みんな、僕から離れないで。もう僕を捨てないで。お願い、お願いだから……」
サンカーに縋り付く。今回ばかりはサンカーも驚いたようだった。
僕の頭を優しく撫でてくれる。
「ミィトをここまで怖がらせるとは、なかなかの夢を見させたもんだ。神様は」
サンカーはそう言って笑った。
その時、ミィトが部屋の魔法陣を見た。いや、その向こうを見ている。
サンカーがそれを気遣い、声をかけた。
「入ってもいいぞ」
魔法陣が光り、ライラとカゲマルが入ってきた。




