第187話 魔王様のぉご帰宅ぅ
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襲われていたのはエルシャルト国ではなく、ロット国でした。
突如消えてしまった彼女らは急いだ様子で人間国へと戻っていった。
これは、最後にシーファさんが事情を話しにきたから分かったことである。僕は頷き、平気な顔で見送ったけど実は寂しかった。
初恋の相手が見えなくなった。
隣ではお母さんが腰を落ち着かせ、優雅にコーヒーを飲んでいた。
僕の前にもジュースが置かれていたが、とても手をつけられる心境じゃなかった。
シーファさんの笑顔が浮かんでから脳裏にこびりつき、一切離れようとしない。
僕も行きたかった。
お母さんはニンマリと不気味は笑みを見せ、僕の表情を見つめていた。
「な、なに?」
思わず聞いていた。
「何か虚ろな目をしてたからね」
全て見透かされていたようだった。
「恋っていうのは、儚いものでもある。頑張ってね」
それは、シーファさんがすぐに消えてしまうってこと? もう、会えないっていうこと?
心が万力で締め付けられたかのように、苦しくなった。
「僕、行っていい?」
「いいよ」
「ゴメン。せっかく再会したのに、僕のわがままで」
「私とはいつでも会えるもの」
そして、母親に背中を押された。僕は弾かれ、走り出す。
「って、なんでママが来てるの!?」
後ろからは僕の実の母親がついてきている。いい感じの話だったのに、どうも空気が読めない人だ。
「よくよく考えてみれば私、人間だったわ!」
あ、そっか。人間が獣人の国にいたらダメなんだった。
ママを苦しめた獣人のことを思い出すと腹が立ったが、シーファさんは違う。
あの目は優しかった。
あの目は慈悲の光が宿っていた。
あの目は僕を見つめてくれていた。
「って、僕も獣人じゃないか!」
大切なことを忘れていた。これでは国境も越えられずにストップだ。
でも、シーファさんのためなら……。
「ピリム?」
ママの声が背後からかけられる。
「……シーファさんのためなら、僕は人を殺したって構わないーー」
小声だった。
愛の力は凄まじい。
僕は今、その言葉の意味を理解した。
「どうしたの? ピリム?」
「ううん。なんでもない。それよりも早くいかなきゃ」
僕はスピードをあげた。ママは長い間地下に囚われていたため走ることになれていない。それだけで僕とママの差は開いてしまった。
「あまり急ぎすぎないのよ。急ぐとかえって遅くなるかもしれないし」
ママが叫ぶ。見えてはいないだろうが、僕は一つ頷いた。
〈マスター!〉
プリンの絶望的な表情から一変、輝かしい笑顔になった。
龍に笑顔を求めたことはないけど。
でも、俺の地獄の一突きをくらってピンピンしてるのは驚いた。俺がこっちの世界で会った魔物は大体これ一撃で沈むからな。
「あーあ。面倒くさい。さとるが帰ってきちゃったかぁ。あの爆弾攻撃は結構聞いたと思ったのになぁ」
的はずれだったのは魔王も同じらしい。深くため息をついていかにも残念そうな顔をする。
「ロット国を落とすのも簡単じゃないね、これは」
俺は無言で魔王を睨み付ける。脱力しているようだが、隙はない。その気になればいつでも襲いかかってくるだろう。
と、その時。
空に変化があった。
「プリン、下がれ」
俺は後ろに体重をかけ、飛び退く。魔王は笑顔を張り付け直し、結界を発動させた。
目前の光景が白く彩られた。それは遅れて爆発音を撒き散らし、地形を破壊していく。
遠くまで下がった俺のところまでは被害がない。気配だけだが、横にプリンがいた。瞬きを繰り返すと、視界が元通りになってきた。
そして、魔王も余裕の表情で結界を消した。
「誰かはわからないけど、邪魔が入ったみたいだね」
俺は見逃さなかった。
魔王の目が泳いだところを。
表情に陰りがさしたことを。
あえて追求しなかった。きっと、シラを切られるだけだろう。
「セカンドもあるっぽいから、次の段階も来るかもしれないね」
再び光が降った。よく見ると、それは雷だった。
〈貴方、ここまでやって逃げるつもり!?〉
プリンのプライドが許さなかったらしい。それまで黙っていたプリンが声を荒げた。
「逃げるじゃないよ。今回は場が悪いからねー。こういうのをセンリャクテキテッタイっていうんだ♪」
「結局逃げてるじゃんか」
「見抜かれちゃったー?」
そう言い、どこがおかしいのか魔王が声をあげて笑いだした。
「ついに、ついに手を出しちゃうとはねー。暇潰しにも程があるよ」
何を言っているのかよくわからない。
広く空いた俺と魔王の丁度真ん中に雷が降った。
「手を出す? 暇潰し? お前は何を言っているんだ?」
光が退き、魔王の顔が見えた。彼女はキョトンとしている。それもまた、一瞬だったが。
「へぇ……知らないんだ。てっきり転生者だから関わってるのかと思ったよ」
珍しく普通に話す魔王。俺は首を傾げることしかできなかった。
「そんな君に優しいボクが忠告ー!」
弾んだ声をだし、魔王はノリノリで拳を振り上げた。
「神は信じない方がいいよ」
幼女から表情が消えた。
「それってどういう……」
言葉を半分いったところで魔王の姿が消えていた。俺は喉まででかかっていた言葉を呑み込み、宙を仰ぐ。
〈転生者は知ってる……? マスターは神に会ったことがあるんでしょ? 神を信じないって? マスターは神になんかされたの?〉
俺は何回も首を横に降り、否定した。
「いいや。逆に、感謝しかない。俺がここまで上り詰めて来たのも、その神のお陰なんだ」
〈スキルを貰ったのね?〉
「ああ。変化も、状態以上無効も、鑑定さんも全て」
こんな状況なのに、プリンが吹いていた。
〈ぷっ。鑑定さんって……人じゃあるまいし〉
「え? 鑑定さんって喋るだろ?」
当たり前のことじゃないのか?
〈そ、そういうものだったのね。私、鑑定持ってないものだから〉
そんなシステムだったのね、聞いたことなかったわ。
プリンは納得している。でも鑑定さんを持ってないのはなかなか辛いんじゃないか? 俺だったら耐えられない。
『告白ですか?』
うん、黙れ☆




