第186話 恨み晴らし
視界が赤に染まる。魔王の高らかな笑い声が耳に届いたが、直ぐに爆音にかき消された。
熱い。
体が中から溶けるようだ。
どうすればいい?
そんな考えすらも熱さに揉み消される。
す、水球! 水球! 水球!!
しかし、水に適性がない俺は大きな水を出せたりしない。
「くっ……! 熱……ッ」
無理だ。少しでも気を抜くと意識が持ってかれる。
「水球っ!」
聞き慣れた声が、爆炎に混じった。
途端に身を覆っていた熱さが嘘のようになくなった。
「サトル!」
力が抜け、地べたに座り込む。
ここまでのダメージをくらったのは久しぶりだ。ステータス半減化があった影響もあるだろう。それに、この世界には魔法防御がないという点もある。だからこそ、多大なダメージを負ってしまった。
目の前に誰かが降り立った。
「シーファ」
「何があったんです!?」
口を開こうにも、喉が焼けて声が出ない。シーファがハイヒールをかけると、たちまち怪我が治った。
……万能すぎて怖い。
全治はしないが、外見は完全に回復した。
「……ありがとう。何故ここが?」
声が出せることを確認すると、俺はまず問う。
「何故ここが? ではないでしょう! どうしてこんなにボロボロになっているんですか!?」
「いやぁ……魔王に爆弾を押し付けられちゃって」
「それで爆発した、と」
「すまないな。余計な心配かけて。それよりも今すぐ帰ろう」
シーファが呆れた顔を見せた。しかし、何も言わなかったので俺は話を続ける。
「カゲマルがさっきここにきた」
「カゲマルですか? 何故?」
成り行きを説明する。
「ロット国が……。プリンが応戦していると。それは早めに行かなくてはいけませんね」
そう言って、宙を仰ぐシーファ。
「空が割れ二色の雨が降る時。地は終焉を迎えん」
え? なにそれ?
『エルシャルト国で厳重保管されている本の内容ですね。二色の雨が降り始める時、セージは壊滅するという伝承です』
怖いんだけど。これもうそのまま終焉迎える感じ?
「なんでシーファはそれを知ってるんだ?」
「……どうしてでしょう。私にもわかりません」
一番有力な説が死神の記憶。シーファはテズの妹だったからな。
「とにかく早く行かなくちゃヤバい」
「そうですね。ですが、ここから急いでもステータスが半分になっているのであまり速く動けません」
「確かにな」
作戦を考える前にシロを連れてきて、一緒に会議を始めた。
ーーシロの背中に乗って行くのは?
「シロより俺のステータスの方が多いけど」
ーーむう。
取り敢えず距離を稼ぐために移動しながらだ。
全力飛翔……だとみんなが追いつけないので少しだけスピードを落とす。
あ。名案思いついた。
「シーファ。羽変化、できるか?」
「はい。別にいいですよ」
シーファは空中で停止し、自ら羽を抜いてくれた。
俺はそれを受け取り、魔力を込める。羽一つでは足りなかったのでもう二つもらった。羽の数え方ってなんだろうな? 合ってるかな? まあ、いいや。
俺はあるものを想像しながら魔力を流し続ける。結構量が必要だったが、なんとかなった。羽が一つに重なり、形を変えていく。
それは俺と同じほどの身長になると、二つに分裂した。
「デデーン! レインコート、二人前一丁上がり!」
空色と仄かなピンク色のレインコートだった。シーファとシロは初めて見る。なんてったって、日本の発明品だからな!
俺はそれを着て、フードを被った。外れないように下の方でマジックテープにより繋いでおく。
久しぶりのマジックテープに俺は何故か感動し涙が出そうになった。
日本だよ……日本って、偉大だったんだなぁ……。
ステータスを見ると、半減化の状態が解けていた。雨に当たらなくなったからだろう。
「シーファも着てみろよ。俺は時間が惜しいからすぐに行く。出来るだけ早く来てくれ」
シーファは戸惑いながら頷いていた。
ーーえ? シロのは?
「犬用のレインコートなんてあったっけ?」
ーー発明はされてそうだけど。
「まあね。でも、俺は見たことないから知らん。雷獣化を解いてシーファに抱いて貰えばいいんじゃないかな?」
ーー全く。適当なんだから。
愚痴りながらもシロの体は小さくなっていった。
シーファがレインコートの袖に手を通すところを見て、俺は現場へと急いだ。
シーファが見えなくなり、それはおこった。
《天変地異・セカンド》
まただ。
ズキリと頭が痛み、俺は眉を寄せた。
空に変化はない。また何かが起こるのではないか。
いや、絶対にーー。
空を飛んで数十分。馬車だと何日かかるかわからない。そう考えると速いだろう。
ロット国が見えてきた。俺は騒動感知を発動させ、場所を確認する。
少し方向を変え、進むと白龍が見えてきた。プリンだ。そして、その横にいるのは……。
魔王だね。うん。
魔王はニコニコと笑い、プリンと会話しているように見えた。
ってあれ?
魔王の着ぐるみ?
なんか横に転がってるんだけど。何があった。魔王が脱皮でもしたか?
取り敢えず隙だらけなので一発かましてやるか。爆弾の恨みいぃぃぃぃぃっっ!!
全気配遮断! いざ、参る!
ルーゲラベアーに変化。翼を消し、拳を振り上げた。重力に引かれ俺は落下する。
地獄の一突きッ!!
炎を宿し、吸い込まれるようにして魔王に直撃する拳。俺は畳み掛けず、素早くその場から離れた。
空間が捻れる。それは俺を掠めた。
「あっぶねえ。消滅するだろ!」
「あれ? ボクの能力知ってたんだー。ずっと秘密にしてたのになぁ」
今気づいた。
消滅の力を使うのは、座標設定が必要らしい。そして、空間攻撃の類らしい。
〈マスター!〉
プリンは表情を輝かせた。




