第184話 悟と魔王
親子が感動の再会をし、隣の部屋に引っ込んでいった。暫くは戻ってこないだろう。と、いうことで俺は魔王の元へ向かうことにした。
残り数分。しかし、俺の速度を持ってすれば数十秒で着く。シーファとシロには待ってもらうことにし、俺は森の中へと走った。
「ああー、後もう少しだったのになぁ〜」
魔王はいつもと変わらない場所で待機していた。俺の姿を見つけると、立ち上がっていかにも残念そうな顔を向ける。
魔王に爆弾を投げ渡す。
「これでいいだろ? ……俺たちはお前の遊びに付き合っている暇はないんだ。今度やったら、本気で魔王城に攻めていく」
「うぅ、怖いよう。でもね、遊びじゃないからさー」
「……? どういうことだ?」
首を傾げ、問う。
「もうじきわかるよ。仕事をするって楽しいねー」
仕事?
じゃぁ、これは誰かに頼まれてやったことなのか?
なら、どうして?
思ったままの疑問を口にする。魔王は無邪気な笑みを見せ、ただ笑うだけだった。
何故だろうか。とても嫌な予感がする。
「さて」
無言を貫いていた魔王が呟いた。
「最後の一仕事といこうかな♪」
魔王は懐から何かを取り出す。それは、今まで俺たちが集めていた爆弾だった。俺が渡した分を合わせると、ちょうど3つになる。
「何をする気だ?」
柄に手をかける。黒く美しい刀身が覗いた。
「それも、もうじきわかるよーっ!」
同時に、手を上へ振り上げた。
しまった!
俺はルーゲラホーホーの翼を生やし、羽ばたいた。
もう遅い。魔王の笑みが、そのことを物語っていた。
爆弾は魔王の凄まじいコントロールで街に飛んでいく。それも、全てバラバラの方向に、だ。
俺一人では止められない!
スライムに変化し、分裂する。俺の分体、プイが生まれた。久しぶりだが、挨拶している暇はない。
「爆弾を頼む!」
一言。
プイに意味は伝わったらしく、一つ頷いて高く飛び跳ねて行った。
落下する前に、元に戻った。もう一つの爆弾を追いながら奥歯を噛みしめる。
一人……もう一人足りない……!
魔王のことだ。爆弾が着弾した瞬間、火球の制御を手放すだろう。そんなことが起こればこの俺たちとこの街が木っ端微塵になる。大切な仲間を守るためにも、なんとか爆弾を食い止めたい!
それでも、フル回転した脳は方法を見つけてくれない。
その時だった。
《天変地異・ファースト》
毛が逆立った。無意識に手を強く握ってしまう。
この声。
聞いたことがある。
もしかすると……。
いや、こいつは……!
途端に黒雲が空を包み込んだ。まるで奥の方から流し込まれた水のようだ。
それ以降、何もない。だが、俺の魔力感知は空に反応していた。なんらかの魔法を行使したらしい。
そこで俺はハッとなる。
こんなことに気を取られてはいけない。爆弾を阻止しなくては。
一つ目。
空中でキャッチする。見ると、プイも同じタイミングで爆弾を取っていた。
最後の一つーー直線的に飛んでいった爆弾は砦の方面へ飛来した。赤く輝く、濃縮された火球が一本の線を引いている。
ここからでは間に合わない。
くそう。
せめて、最後まで抗ってやる。
爆弾を追う。あと、もう少し。
手を伸ばし、高速で移動する爆弾を掴もうと試みる。さらに、スライムで腕を長くした。
そんな俺の努力を嘲笑うかのように、爆弾は手を掠めていった。
前のめりにバランスを崩す。一瞬のことだったが、その間に爆弾は遠く離れていく。
と、空を舞っていた爆弾が消えた。
何があった?
急いで辺りを見回すが、それらしいものは見つからない。
「悟」
呼ばれた!
「誰だ!?」
「カゲマルだ」
影の中から声が聞こえる。俺は一旦民家の屋根の上に降り立った。
カゲマルが姿を現す。
「ライラに頼まれてきた。ロット国が大変だ。来てほしい」
そう言いながら、爆弾を手渡された。
「大変……? 俺もこっちで大変なんだ。一応、どんなことが起こっているのか簡潔に話してくれ」
魔王の元へ向かいながら事情を聞く。途中でプイがやってきて、俺に爆弾を渡したあと合体した。
「魔王が攻め込んできた」
「……は?」
それは、衝撃の一言だった。
「何言ってるんだ? 魔王はここにいるんだぞ?」
「だが、攻め込んできたという事実は消せない。現在ロット国は壊滅寸前だ。魔王は化け物を三体連れている。魔王自体は何もしてこないが、化け物が攻撃し、今はギルドマスターが応戦しているはずだ」
「ミィトたちが? ギルマスじゃないけど、ライラさんもいるのか?」
「いや。ライラは騎士団の指揮を取っていた。少し前に魔物と戦った時、右腕を怪我してな。すぐに治るみたいだが、今回ばかりは時が悪かったらしい」
成る程。ライラさんなら信用できるな。
「俺はライラに頼まれてきた。悟たちを呼んで欲しいってな」
「そうか。戦況は押され気味なのか?」
「分からない。俺が出発する前はまだ戦いは始まってなかった。しかし、早く来るに越したことはないだろう」
たーしーかーにー。
納得。
と、雨が降り始めた。
「これは……っ!?」
俺は自身の体の変化にいち早く気がつき、ステータスを見た。
やはり。やはりだ。ステータス半減化という状態異常が付与されている。
何故?
俺は状態異常無効を持っているはず。俺の身に状態異常がかかるとは、異例の事態だった。
『おや。プリンも状態異常にかかってますね。表示します』
鑑定さんが言うと、生命感知でマーキングしておいたプリンの体力が映し出された。
前見た時よりも、大幅に減っている。ざっと半分ほどだろうか。と、いうことは……。
『少なくとも、プリンはこの大地に帰ってきてるのかもしれませんね』
ああ。そうだな。
「カゲマル。俺たちはすぐに行く。先に帰って、戦闘に参加してきてくれ」
「承知」
カゲマルは影の中に消え、超速でその場を去って行った。
俺はそれを確認せず、魔王の元へ向かう。
「あーあ。気がつかれちゃったか」
魔王がいた。
「どういうことだ?」
低い声で問う。しかし、魔王は動じた様子も見せない。
「そのまんまだよ。さとるたちがあっちに帰らないように、足止めをしてただけ。時間稼ぎかなー? さとるは引っかかってくれたし、あとはあっちがやってくれればいいからねー」
「あっち? お前に仲間がいるのか?」
「何それー。ボクがぼっちみたいじゃん」
魔王はくすくすと笑い、身を翻す。
「それじゃ、ボクはここにいる必要がなくなったみたいだねー。先に帰るとするよー」
そして、ふわりと浮き上がる。
「あ、これ忘れてた」
去り際に振り返り、パチンと指を鳴らした。
同時に、俺の抱えていた爆弾が光りだす。
マズイ!
刹那、爆炎が森を包み込んだ。




