第183話 プリンと魔王
投稿するのをすっぽかしてたので溜まっていた分を合わせて2つ投稿します。
〈間に合ったみたいね〉
私はそう、声をかけた。
マスターに頼まれていたマウンテンクラブをそこらへんに放り投げ、前を見据える。岩礫が飛んできていたが、軽く尾であしらった。
「貴方は……」
〈あら? 覚えてない? 私よ〉
「サトルの、テイムモンスター……」
〈正しくはシロのテイムモンスターだけどね。ま、いいわ。名前はプリンよ〉
そこまで言って、私は首を傾げる。
〈怪我してる? 貴方ほどの大物をここまで追い詰めるなんて、相手はかなりの手慣れね〉
「……うん。強い。1発1発が致命傷だよ……」
息も絶え絶えに話すミィト。私は翼を動かすのをやめ、地に降り立った。
私を見て、魔法攻撃部隊は敵だと勘違いしたらしい。弱っちい火球が飛んでくる。
〈消えなさい〉
術者を睨むと、彼らは腰を抜かして逃げて行った。制御がなくなった魔法は明後日の方向へと飛んでいく。
「でも、どうして……」
〈散歩帰りに寄っただけよ。最近暇だったし、助けてあげるわ〉
とても上から目線だったが、ミィトは満足してくれたらしい。安心して微笑み、意識を手放した。
その背中にハイヒールをかけ、ため息をつく。
〈全く……。マスターのお友達をここまで痛みつけるとは、いい趣味してくれるわね〉
念話。他の人には届いていないが、魔王にはしっかり聞こえている。
くすくすくす。
しかし、魔王は息を殺して笑うだけだった。私は翼を大きく広げ、空へと顔を上げる。
「ゴオォォォォォォォォンッッッッッッ!!!!」
ビリビリと空気が震え、周囲の注目を集めた。一時的だが、これで被害は出ないだろう。
それは目論見通りで、怪物たちの視線が私に突き刺さった。
「ギイィィィィッッ!!」
最初に動いたのは、一番近くにいたサソリだった。サンカーを無視し、ハサミを振り上げながらこちらに向かってくる。
〈まずは準備運動ね〉
歪にねじ曲がったハサミを腕で受け止める。サンカーが目を丸くした。
傷一つつかない純白のボディは月光を反射して輝いた。
ハサミに噛み付き、根元からへし折る。ついでにその体を踏み潰した。
「ギ、ギイィッ!」
地べたにひれ伏すサソリはもう片方のハサミを振り回すが、届かない。次に再生された尾から毒を飛ばしたが、私の風魔法でいとも簡単に吹き飛ばされた。
危険なため、爪で尾を引きちぎっておく。散乱する毒の血も、翼で巻き起こした風によって先ほどと同じ結果になった。
背中側から岩礫が飛来してくるのを感じ取り、私は肩越しに振り返って尾でそれらを叩き落とした。
追い打ちをかけるはずだったであろう空間攻撃を半身になって躱す。
「お主……」
サンカーが呆気にとられて見ていたので、少し声を荒げる。
〈ボサッと見てないで、避難を促してちょうだい。これでも辺りに被害が出ないよう、力を制限しているのだから〉
その気になれば、サソリを遥か上空まで持って行って地面に叩きつけることだってできる。ブレスでここら一帯を炭にできる。魔法を連射し、地形を破壊できる。
私の行動を制限しているのは、他ならぬ人間だった。私は弱い人間が嫌いだ。足手纏いにしかならない。
「わ、分かった。だがーー」
大丈夫なのか?
そう次ごうとした言葉に横槍を入れる。
〈馬鹿言わないで〉
私は鼻で笑う。
〈少なくとも、貴方たちよりも強いわ。束でかかってこられても一蹴できるはずよ〉
紛れもない真実だった。だからこそ、サンカーは嫌な顔一つせず頷いてくれたのだろう。
彼はミィトを抱え、離れた場所まで退いた。騎士団に声かけをしている。後は任せておこう。
もう一度来る岩の攻撃。今回は一つの大きな岩だけだった。
素早い動きでサソリを持ち上げ、遠心力を利用し岩の方向へと投げ捨てる。
「ギイ!?」
岩とサソリがぶつかり、衝撃で岩の方が弾ける。流石の強度といったところか。
〈その硬さが仇になるわ〉
岩を粉砕してもなお、サソリの勢いは止まらない。そのままサルの方向へと飛んで行き、直撃した。
砂煙が向こうでもうもうと上がる中、私は辺りを確認する。
もう人はいなくなったようだ。これでひと暴れできる。
その時だった。
黒と白の雨が降り始めたのは。
黒雲が空を支配していることは始めから知っていた。更に、不気味な声も聞いていた。
《天変地異》
そう、聞こえたのだ。
最初に感じたのは身体の弱体化。ステータスが二分の一になっていた。
誰か行使した魔術なのかは分からないが、厄介極まりない。一番信憑性があるのは魔王だが、彼女も驚いた表情をしていた。
これにより、サルとサソリは只でさえダメージを負っているのにHPが減ることになる。再起不能のはずだ。
残ったのはワニ。そこで私は衝撃の光景を目撃することになる。
ワニが泡を吹いてひっくり返っていた。
何故?
全くわからない。
自問自答をし、答えが出ないことに苛立ちを感じる。
とにかく、この状況を打破しないと面倒臭い。今のところ不快感などないが、いつあのワニのようになるか心配で仕方がない。
私が軽く翼を動かすと、次の瞬間には魔王の横にいた。それでも自身のスピードの低下に気分が悪くなる。上手く体を動かせない感覚だ。
魔王は突然のことに驚き、一歩後退した。
ステータスが多いほど、半減する量は多くなる。私はこれでも負けているが、幼女の思考を持った魔王にはついていけない事態だったのだろう。目を白黒させている。
〈貴方は心当たりがあるの?〉
問う。魔王は私に敵意がないことを知ると、深く安堵し首を横に振った。
〈そう。じゃぁ、思わぬ外敵が入った、ってところね〉
「…………」
〈なんとか喋ったらどう? 1人で会話しているみたいでこちらもあまりいい気分じゃないわ〉
「…………ん」
ポツリと、魔王が呟いた。
〈何? 聞こえないんだけど〉
しかし、それ以上魔王は何も言わなかった。
〈全く。どいつもこいつも〉
今日2度目のため息をつき、私は言った。
〈こうまでなったんだから協力してくれるわよね? 元々この国に仕掛けてきたのは貴方なんだから。そのせいでこんなことになったのなら、少しは責任とってほしいわ〉
「…………分かった」
そう言い、魔王はあの笑顔に戻った。
くすくすくす。
どこか余裕のある笑みで、何もない場所を見つめている。
私はその姿にどこか恐怖の念を抱いた。




