第180話 魔王が来る
俺は女性を担ぎ、空へと舞った。このまま人間の国まで運んでも良かったが、シーファの提案によりもう少しだけ滞在することにした。
「まずはギルドの宿からチェックアウトしなければいけません。突然いなくなってしまったら不審に思われます。次に来た時に何かと追及されるのはまちがいないでしょう」
のことだ。一理あるため、彼女の意見に従ったわけだ。
ギルドに戻ると、変な目で見られたが気にしない。砦の地下室に囚われ続けてたから、知る人は少ないだろう。
部屋に戻り、数分。女性が目を覚ました。
「……っ、こ、ここは……?」
「ギルドの宿だ」
俺の言葉に反応し、こちらを見る。そして、シーファへと視線を移した。
「私はシーファです。サトルの仲間なので、安心してください」
ーーシロはシロ! よろしくね!
「ま、魔物が喋った……!?」
女性は起き上がり、シロから距離をとった。
「ぷっ。シロ、魔物だってよ。良かったなぁ」
ーーむぅ! 酷い!
シロは気を悪くしたのか、魔法陣から外へ出て行ってしまった。
「あー」
「シロのことですし、すぐ戻ってきますよ」
シーファはそう言い、女性に意識を向けた。
「私はシーファと言います。こちらの男はサトルです。先ほどの魔物と言っていたのはシロと言いますが……今はいいでしょう」
「よ、よろしくお願いします。私はヨーコです。サトルさん、助けていただき本当にありがとうございました」
礼儀正しく頭を下げるヨーコ。
「早速なんだが、どうして獣人の国に?」
「お恥ずかしい話です……。国境近くを用があって歩いていると、急に獣人が現れーー」
そこまで言うと、ヨーコは顔を伏せた。つまりは獣人に捕まったということだろう。
「用というのは?」
「実は、私は冒険者をやっていまして……。子供と一緒に薬草を摘みに来ていたんです。それは国境近くにしか生えていなくて」
「ん? じゃぁ、子供はどこに行ったんだ?」
と、言いながらも俺はある獣人を頭に浮かべていた。
「きっと、逃げたんでしょう。彼は私と夫の間に生まれたハーフなので、獣耳と尾があります。人間の国ではローブでそれらを隠し、生きてきたのですが……」
「ああ、彼は元気に暮らしてるよ」
俺の言葉を聞き、ヨーコは目を見開いた。
「知っているのですか……!?」
頷く。希望に満ち震えた手で、俺は掴まれた。
「どこに、いるのですか……!?」
「多分……いや、確実に隣の部屋にいる」
そこまで言うと、ヨーコはすっくと立ち上がり魔法陣から外へ出て行った。
「ちょ、ちょっと」
追いかけようとしたが、肩に置かれたシーファの手で踏みとどまる。
「ここは2人きりにしておきましょう」
「……そうだな」
俺はベッドに座り、ヨーコの帰還を待った。
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魔法陣があり、私はそこに立った。勿論作動はしない。高度な魔法を使えなければ魔法陣の中身を書き換えることなどできないのだ。私はというと、いうまでもない。
「誰?」
気配を感じたのか、壁の向こうから声がかけられる。少年だ。
「覚えてない? 私、私よっ……」
半分泣いていた。私は目尻をそっと拭い、平然を装う。もっとも相手にこちらは見えていなかったが。
「マ、ママッ!?」
パッと魔法陣が光り、目と鼻の先に少年が現れる。
「あぁ、会いたかった……!」
我が子を抱きしめる。少年も涙を流し、私の胸に顔を埋めた。
そして、数分。先に顔を上げたのは少年だった。
「お母さん……、中に入ろう」
誘導されるがままに、入室する。私はベッドに腰掛け、彼は横に座った。
「でも、どうして……?」
その問いかけに私は笑って答える。
「サトルさんに助けてもらったの。すごく優しくて、こんなボロボロな私を救ってくれた」
「サトル……!?」
顔を顰めるところを見て、私は首を傾げた。
「どうしたの?」
「彼奴は、悪いやつだぞ……! 僕の大切な宝を奪った挙句、逃走したんだ!」
「あらあら」
ふふっと笑う。
「そんなことよりも、今はママと話したいよ。久しぶりの再会だもん」
「ええ。ピリム、ここで生活していた時のこと、沢山話してちょうだい」
ギルドの一室。
思わぬ再会に、会話に花を咲かせる2人である。
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「陣形、二重半円囲いッ! 皆の者、位置につけッ!」
ミィトの声が飛ぶ。
「おおおぉぉぉ!」
兵等が拳を振り上げ、張り裂けんばかりの大声で士気を向上させる。
魔法支援部隊が端に位置。攻撃魔法部隊が中央。魔法支援部隊から多少離れた場所に、各国から寄せられた騎士が並んでおり、その中には魔法剣士も含まれている。
ラギ森林の一戦ではここまで本気の陣形は見せなかった。しかし、今回は違う。
魔王直々にここを潰しに来たのだ。当たり前の行動と言える。
視線の先には4つの影。
1つ。サソリの化け物。
身長は3メートル程あるだろうか。ぬらぬらと光る紫色のボディと、尖った尾。ハサミの先端は歪な形に捻じ曲がっている。外側に向かって曲がっているのだ。そして、どこで切っても対象を傷つけられるよう、ハサミの周りが全て刃になっている。
2つ。ワニの化け物。
赤い体に、漆黒の目。光は宿っていない。口の先から尾までは10メートル程。牙は一つ一つが複雑に噛み合っているため、一度噛まれたら死ぬまで離してくれないだろう。
3つ。サルの化け物。
金色の毛並みで、目は閉じている。手には魔法で生成された岩が。サルは縦だとこの中で一番大きい。4メートルはある。これまた鋭い牙が口の間から覗いていた。巨大な岩を手の中で転がしながら、低く唸っている。
4つ。明らかに身長が小さい、幼女。しかし、厳重注意人物。その正体は魔王だ。この大陸に存在する者の一位二位を争う強者。彼女であれば後ろに連れている化け物など、瞬殺できる。
「威圧……。流石は魔王ね」
冷や汗を流しながらミィトが呟く。魔王は禍々しいオーラを発し、此方を威圧していた。人によってはこれだけで戦闘不能になる。今も騎士が倒れているのが証拠だ。
責めることなんてできない。逆に、立っていた者を褒めてやりたいぐらいだ。一般的な鍛錬を積んでいてもそう簡単に受け止められるものではない。
これだけで総数が3分の1ほど減ってしまった。これはかなり痛手だ。
「初めからぶっ放してくれるな」
そう言って近寄ってきたのはサンカー。ロット国のギルドマスターである。
「ちょっとヤバいかも……。いや、かなりヤバい……!」
ミィトの弱音を聞き、思わずサンカーは表情を硬くする。
「……最善は尽くそう。何としてもこの国を守ってみせる」
「そう、だね。私も本気で戦う」
ミィトは思う。
サトルのパーティーが居れば、どれだけ楽だっただろう、と。
悟の知らないところで行われる大戦。それが今、幕を開ける。




