第179話 テンション
「あれー? チャイルじゃん? どうしたの? 人間のところへ行くんじゃないっけー?」
幼い声で後ろに向かって問う魔王。
「背後からすみません。無礼なのは分かっています。どうか、お許しください」
「うー……。そんな難しい口調で離さないでよぅ」
そこまで難しくはないと思うのだが。死神にやられたせいで頭のネジが緩んでいる魔王様のーー。
チャイルは一瞬そう考えたが、何か薄ら寒いものを感じたのでそれ以上思考するのをやめておいた。
「そっちの方はどうー?」
何事もなかったかのように、魔王が接してくる。
「はっ。計画は順調です。私1人でも上手くやれているので、援軍は必要ありません」
「でも、一応って話はあるから『影』を送っておくねー」
「お気遣い感謝します」
「こっちも順調順調〜。心配してきてくれたのー?」
「え? あ、はい」
本当は現状把握と報告をするために来たのだがーー。
……ここで魔王の機嫌を取っておかないと後々面倒くさい。飴のストックが減ってしまう。
魔王は飴が大好物だ。どれだけ怒っても飴を手渡せばそれだけで怒りが収まるほど。
「ここからあっちまでどれくらいかかるの?」
「全速力で20分です。そのつもりで動く予定ですが、もう少し速くしたほうがいいでしょうか?」
「ううん。それで着けるのなら十分だよー」
無理に身体を壊すような真似はさせたくない。魔王並みに考えた結果だ。
「では、私は戻ります。魔王様もどうかお気をつけて」
そう言って、男は消えた。
「ボクが殺されるわけないじゃん、もお〜」
聞こえてはいないだろう。しかし、魔王はそう呟いた。
「よし、あともうひと頑張り! ボクも気合い入れなくちゃね!」
頬をぱしんと叩き、魔王は拳を振り上げた。
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女性をおんぶしながら俺は歩く。長い長い階段を上り、漸くあの部屋に出ることができた。
ふぅ。理性的にヤバかった。女性相手におんぶはやめたほうがいいな。
『あれ、女相手には興味はないとおっしゃってませんでしたっけ?』
キノセイキノセイ。
そんなことを考え、ハッチを開ける。
て、あれ?
俺は一瞬固まる。
俺ってハッチ閉めたっけ……?
ハッチががちゃんと音を立てて開く。顔を出すとーー。
「あ、やはりサトルでした」
そこにいたのは気がついていたが、体を循環している魔力の流れでわかった。
シーファだと。
だからこそ、警戒なしにハッチを開けたのだ。どうやら、シーファがハッチを閉めてくれたっぽい。
ああー、なんで閉めずにいったんだろ。俺ってドジだなぁ。
と、背筋に悪寒が走った。
「サトル……? 背中にいる人は誰ですか?」
こここ怖い怖い!
「サトルってそういう性格してたんですね……。見損ないました」
「ちょっ、ちょっとストープッ!」
「……ふふっ」
殺気を引っ込め、シーファが笑う。
「やはりサトルは面白いですね。からかい甲斐があります」
「でも、今の割とガチだったよな……?」
「え? 何か言いました?」
「……何も」
ーーフッ。
おいお前今笑っただろ! よし、こっち来い。しばいちゃる。
ーーわー。悟こわーい。チョーこわーい。
あとでご飯抜きだな。
ーーなぬっ!?
ふはははは! 俺に逆らうやつはみんなご飯抜きじゃー!
ーー魔王?
魔王と一緒にするな!
「それで、何があったんです?」
爆弾についてではない。それは俺が手に握っている時点から、どこで見つけたとかそういうのはどうでもいい話になる。
と、いうことは……。
「地下室っぽいところに監禁されてた。人間だったし、見過ごせなかったから助けただけだ」
「そうだったんですね」
「勝手に疑ってもらっちゃ困る。多分、興味本位で獣人の国に近づき、捕らえられたんだろうな」
「……彼女がそのようなことをする性格だと思うんですか?」
「……いいや」
流石はシーファ。女性が発する雰囲気だけで大体の性格を予測したらしい。
「大人しい感じだった。間違っても敵対視されてる獣人の国なんてこないだろう。単なる自殺行為だ」
「何か、目的があったんでしょうか」
「うーん……」
俺は女性を見て、考える。それは1秒にも満たなかったが。
「ま、この人が起きた時に聞けばいいだろ。取り敢えずは俺のミストバードの力で獣人に変えとく」
すると、女性に茶色の獣耳と尻尾が生えてきた。これで大丈夫だろう。
『テッテレーン!』
どうした、鑑定さん。
『やりましたね! ミストバードのレベルが上がりました! 今から進化先を表示します』
おおー! 漸くか!
ミストバードはレア度が高かったのかレベルが上がるのが遅かった。まあまあ使用してたんだけど、半年もかかるとは。
そして、鑑定さんのテンション高いな。
『気にしないでください。……表示します。
・ガスバード(幻覚と様々な効果をもたらすガスを操れる)
・フローズンバード(氷属性の魔法攻撃が主戦力)
2つのうちどちらか1つを選んでください。また、ミストバードのレベルを上げれば取り逃がしたもう1つの進化先も獲得できます』
これはなかなか悩みますな。詳細はこれ以上表示されないのが難点。
『え? 表示します?』
出来るのかい!
『前までは出来ませんでした。私自身が進化したので、知らない魔物の情報でもバンバン流せますよ?』
だそうだ。
『どちらも表示します?』
いや、ガスバードは大体わかるからフローズンバードだけ。
『詳細を表示します……。
フローズンバード
体が冷気でできている鳥の魔物。ミストバードからの突然変異種。発見例はなく、図鑑にも載っていない。氷属性の魔法を使い、全てを凍らせる力を持つ。さらに、相手に強い幻覚と幻痛を与えることができる。発見例がないのでランクは付けられないが、推定でランクAとされる』
俺の個人的意見だけど、格差がすごい。うん。こっちにしよう。
『フローズンバードに進化しました〜!』
……やっぱりテンション高いな。




