第175話 あと1つ!
「おーい! サトルー!!」
誰かが俺を呼んでいる……! 行かなくては! しゅわっち!
とか思って振り向いたら、もう目の前にいた。まぁ気がついてたけどね。
「ん? 誰?」
面識ないと思う。このゴツい男。
「あ、この方は依頼に参加してくださっている冒険者なのでは?」
隣の受付嬢がそっと囁く。
「成る程。じゃぁ、手伝ってくれてるってことなのか?」
「おうよ! サトルのために俺は爆弾を探してみせるぜ!」
嘘ついてるー。
「金のためだろ」
俺の冷たい言葉に、男は一瞬黙った。
「そ、そんな訳ないだろぉ……?」
手を肩に当て、微笑もうとしたらしい。しかし、その手は払われる。
「お前らは、そんなもんだ。町の平和とかそんなものそっちのけ。金だけで動く、クソ獣人だ」
「ク、ソォ……!?」
屈辱に顔を歪ませ、男は拳を握る。
「なんだ? 本当のことを言われたから悔しいか?」
ここで手をあげればそれを認めたも同然となる。獣人はプライドが高いので、そのようなことは絶対にあり得ないだろう。
「こ、こんにゃろ……っ!」
思惑通り、獣人の男はその場から去って行った。
「言い過ぎなのでは?」
受付嬢が苦笑いしながら話しかけてくる。俺は鼻を鳴らし、吐き捨てた。
「ああいうやつは嫌いなんだよな。お前も見ていてスッキリしたろ?」
「ふふ、よく分かりましたね」
「人の感情の変化には敏感だからな」
「あら、怖い。あと、私の名前はお前ではなくラーノといいます。以後、お見知り置きを」
丁寧にお辞儀をする受付嬢もといラーノ。どこかで聞いたことがあるような、そんな気がした。
………………。
先っちょまで出てきてるんだけどなぁ。思い出せん。
「私のことを知っている様子ですね」
「よくわかったな」
「受付嬢なので。他人の顔を読み取るのは得意です」
俺たちは互いに笑いあう。
「で、誰かに似てるんだよなぁ……」
「似てる……?」
途端に、ラーノの表情が険しくなる。
「何か知っているんですか?」
それは今までの弾んだものとは違う、女とは思えない声だった。
「う、ううん。何も知らない。なんでもないよぉ〜」
「誤魔化さない」
グイッと肘で突かれる。全く痛くなかったが、俺は痛がっているふりをした。
「っ、知らない知らない! 本当に知らないって!」
必死の形相を作り、俺は脇腹を抑える。
ラーノは俺の目をまじまじと見つめ、漸く頷いた。
「嘘を言っている訳ではなさそうですね。しかし、先ほどの動揺はなんだったのでしょう……?」
よし、完璧。いくつもの修羅場を潜り抜けてきた俺にしたら表情を作ることなんぞ容易い御用よ。
でも、合点はいった。
ラーノにそっくりな人ーーミーノ。
人間の国で受付嬢をしている。
きっと、血の繋がった姉妹とかそこらへんなんだろう。
ということは……ハーフ?
『人間と獣人の間に生まれた子供はどちらか一方に大きく偏ります。ハーフという解釈は間違っていませんが、ここら辺は話しておかないと私の存在価値がなくなるので』
うん。知ってたけどありがとう。
鑑定さんが言っていたように、ミーノとラーノの両親は人間と獣人だったらしい。そして、ミーノが人間に。ラーノが獣人となり、双方違う道を進むことになった。
そういうところだろうか。
そして、獣人は戦争やらなんやらがあって人間を深く憎んでいるからラーノもミーノのことを嫌っているのだ。
『流石マイマスター。私の導き出した答えと完全に一致する回答をだすとは』
ふふん。鑑定さんと長年いると、考えていることがわかるのだよ。
つまり、俺の頭が同時に柔らかくなっている!
『わー。パチパチ。すごいですねー』
棒読み!? あとパチパチって言葉に入れないでしょ! 音だろ音!
『成る程。勉強になりました』
と、拍手の音が俺の脳内に流れ込んできた。周りを見回すが、当然のように手を叩いている者なんていない。
こんなこともできるのか……。
『能力が向上したお陰で色々できるようになりましたからね』
そう言ってもこれはあんまり実用性ないんじゃ?
『気にしたら負けです』
いえっさー。
で、何の話だったっけ?
『ラーノに疑われている最中です。もう直ぐ疑惑は溶けそうですが。あれ? どうされたんです? 頭が柔らかくなっているんじゃないんですか? もしかして、本当に会話を忘れていたとかそういうことはありませんよね?』
ぷ、くすくす。
合間にそんな声が聞こえてきそうな、笑いをこらえている話し方だった。なんか腹立つ。よし、無視しよう。
「それよりも、ラーノ。時間がない。俺は爆弾探しに戻るから、そっちは頼む」
成るべく自然な形で別れる! ふ、完璧だぜ。
『もう少し弁解してから離れた方が良かったのでは? 後々また面倒臭くなるかもしれませんよ』
…………。
無視無視。
空耳空耳。
空気空気。
二酸化炭素二酸化炭素。
その時、微かだが俺の耳に何かが届いた。
「……サトル、上に来てください……」
宙を仰ぐ。遥か遠くの空に、シーファとシロが浮いていた。何か持っている。
熱感知で確認してみると、それは真っ赤に光っていた。見つけたっぽいな。
『私の声が聞こえなくてなんでこれは聞こえるんです? っていうか脳に直接話しかけてるので聞こえる聞こえないの問題じゃないんですよ!? 聞いてます〜?!』
耳障りだな。黙っとけ。ポチッとな。
『ス、スキルオフにしないでくだーー』
雑音は消えた。
気を取り直して……。
誰かが俺を呼んでいる……! 行かなくては! しゅわっち!




