第172話 爆弾処理
見事1日ランクアップをした俺たちはクエストボードを見ていた。
「これなんかどうでしょう?」
シーファが1つ持ってくる。王道のゴブリン退治だった。
「もうちょっと強くてもいいんじゃないか? それ、Eランクの依頼だろ? せっかくだからCランクの依頼でも発注しようぜ」
1つ上のランクまで依頼が受けられるし。なら、報酬が高い方がいいだろう。
……5000万セージ稼いだ直後のセリフじゃないけど。
「確かにそうですね。では、戻してきます」
機嫌が悪くなった様子もなく、シーファは依頼紙をボードに戻しに行った。
視線を前に戻し俺は、
「え?」
そう声を漏らした。
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人間が獣人国の領域に踏み込んできた模様です。
直ちに追い返してください。
命令に従わない場合は宣戦布告とみなし、戦争を持ちかけましょう。
そして、殺しましょう。
この依頼を受けた者は必ずギルドマスターに報告するように。
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うわぁ……。
人間がこっちに来ただけで戦争になるの……?
っていうか、面倒くさい予感がする! 人間の街に獣人が攻めてくるとか、すごい面倒くさい! これ俺が受けよう。んでなんとか説得してその人間とやらを追い返す。
最善の策だ。戦争なんて起こしたくない。
「シーファ、見つけたぞ」
彼女にも説明し、納得させたところで依頼を受けた。
「これで完了です。書いてある通り、依頼が終わったらギルドマスターに報告してください。こちらから話は通すので、すぐ案内できると思いますよ」
「わかった」
ギルドを出て、徒歩で現場に向かう。ここから南に進んだ山道に目撃情報があったらしい。
「山道なら監視の目もあまりないと思ったからではないでしょうか? どんな意図かはわかりませんが、止めておくべきです」
同感でおじゃる。
ーー説得するの?
「そのつもりだ。説得が無理なら強引に戻すけどな」
「なるべくは戦いたくないのですが」
「ああ。でも少し怖い目に合わせておかなければまた入ってくるだろ。そうしなきゃ、ダメなんじゃないか?」
ーー何かあったときは助けるね、シーファ!
「俺は!?」
そんな会話を交わしながら、山道に入る。
鎧を着た兵と途中何回かすれ違った。ギルドから派遣された冒険者だと話したら通ることを許してもらったが、今日冒険者を始めたと言ったら誰1人いい顔をしなかった。
当たり前だよなぁ。冒険者1日目でこんな重要な仕事に取り組むだなんて、馬鹿にしか見えないよなぁ。
ま、ちゃちゃっとやりますか。
なるべく気配を消し、歩いていく。足音すら聞こえないほどだ。一流の冒険者だって気づくのは難しい。
と、俺の大気感知に何かが引っかかった。1人……人間だな、この形。耳も尻尾も生えてない。あの身長が小さいな。ドワーフか?
シーファも気がついたらしく、俺と目を合わせてきた。
頷きあい、一斉に飛び出す。
「なぁ、君。ここは獣人の国だ。大人しく立ち去ってーー」
言葉が止まる。
ゆっくりと1人の女の子が振り向き、俺の顔を確認するなりにっこりと笑った。
「やっぱりいたー。さとるだ!」
「えぇぇぇぇ!? 魔王!?」
まさかの魔王でした。
てか、やっぱり……?
「簡単だよ。だって、さとる絶対逃げるじゃん? 行くところといえば人間の国のどこかか他の国だよねー? でね、さとるは獣人の国にいるなーって思ったから来てみたの! だから、やっぱり当たってた!」
あー。
全部お見通しってわけか。理屈はわからないけどそうみたい。
つーかこいつ追っ払わないと戦争なるんじゃね? 追っ払えなくね? 魔王だよ? もはや人間じゃないやん。依頼には人間って書いてあったから……ってダメだよな、そりゃ。
「魔王……! どうして貴方がここに……!?」
シーファが驚愕の声を出す。
「どうしてって言われても……。なんか暇だったからー。それ以上の理由はない!」
腹の探り合いしても通じなそう。そう判断し、俺はため息をつく。
「魔王。単刀直入に聞くが、お前は俺を殺しに来たのか?」
「ううん。何してるのかなーって」
「本当に理由はないんだな?」
「ないよー」
そう言い、幼気な笑顔を見せる魔王。一瞬でも可愛いと思ってしまった自分を呪い殺したい。
ーー悟……ロリコン?
んんぅ?
なんか言ったかなぁ? えぇ?
ーーなんでもない。
よろしい。
「でも本当に暇ー。いっそ獣人の国でも滅ぼそっかなぁ……」
魔王は本気でやりそうなので怖い。
「あ、そうだ。いいこと思いついた!」
小さい子のお決まり台詞。なんか悪い予感がする。
「今からボクが獣人の国に爆弾を仕掛けるから、探してきてね! 3つ隠すから! 見つけたやつは、夕方までにここに持ってくること。そうと決まれば、レッツゴー!」
魔王はそう一気にまくしたてると、姿を消した。
「……え?」
ことの深刻さに気がついたのは、数秒後のことである。
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「はあ、はあ、はあ……」
俺とシーファは息を切らし、街の路地裏に座っていた。というよりかは倒れていると言ったほうが正しい。
「見つかりませんね……魔王」
「くそう。あいつ、戦いはしないくせにこういう面倒くさいことを考える……!」
シーファも暑くなったのか、ローブを脱ぎ捨てていた。翼が丸見えだが誰もいないから大丈夫。あと、中に服を着てるからこちらも大丈夫。
獣人の国ということで再びシーファは元の不審者姿に戻った。ここでも翼があると格差を受けるからな。
ーーダメ。全然いない。
雷獣化をとき、空からシロが舞い降りてくる。華麗に着地すると、項垂れたように尻尾を下げた。
ーー獣人に見つからないようになるべく高くを飛んで探したけど、分からない。流石に高すぎる。大人かどうかは見分けられるけど……。
「子供といっても沢山いるんだろ?」
ーーそう。魔王のような露出狂を探せばいいと思ったんだけど、思ったよりいっぱいいて。
いっぱいいるのかよ。いや、そこはどうでもよくて。
「爆弾を隠すとか言ってたな。今は魔王よりそっちを探すほうが先決だ。探している間に魔王が見つかるとラッキーだが……アレが簡単に見つかるわけがない。そう考えると、爆弾を探したほうが早い」
俺の意見に、シーファは首を傾げる。
「弄ばれているのかもしれません。最初から爆弾はない、とか」
「その可能性はないな」
俺はアイテムボックスに手を突っ込む。そして、抜いたときに掴まれていたものはーー。
「それって……!?」
爆弾だった。
余談だが、この世界の爆弾は地球のようなものではない。龍などの鱗の特別な素材の筒の中に極限まで威力を濃縮した火球を入れる。それも、何百個。
普通は軍事に利用され、術者が協力して火球を生み出すらしい。出来上がった爆弾を敵の中に放り投げ、術者全員で濃縮していた火球への力を緩める。ストッパーがなくなった火球は膨張し、大爆発するということだ。
なかなかのコストもかかるし、人手もいるため大量生産などできない。龍鱗以外でやると熱で溶けてしまうらしい。
本を読んで取り入れた知識だ。今回は鑑定さんが出る幕はなかったようだな。
『私の出番が……』
嘆いている誰かさんは気にしないとして、今はこの爆弾に集中しよう。
「そ、それって爆発したりはしませんよね……?」
「わからん。多分、夕方までに持っていけば大丈夫だと思うが……」
「魔王のあの性格ですもんね。途中で、『面白そうだったから』とかいう理由で爆発させそうです」
「その気まぐれなところが怖いんだよなぁ」
魔王1人で爆弾を作ったこと前提の話。当たり前っちゃあ当たり前だ。俺だって出来るし。更に上の存在の魔王ができなければ流石にやばいだろう。
「でも、どうやって見つかけたんですか?」
「それがなーー」
魔王を探すために、全感知上位をフル活用していた。そのとき、熱感知のサーモグラフィーで1つだけ真っ赤に光っているものを見つけ、拾ってきたということだ。
場所はとある獣人の持っていた鞄の中。目にも留まらぬスピードで動き、取ってきた。
え? 漢字間違ってる?
盗ってきた?
これは元々魔王のものだからな! そういう風には書かないの!
あ、あれ? でも魔王のだから盗ったということに……。
…………まあ、いいや。
前の方だけをシーファに伝える俺であった。




