第170話 疑われちょる
なんでだよ!? っていうか毛の色が銀で罵られるのはおかしいだろ!
『それほどまでにグウが偉大すぎるんです。色を同じにしただけで馬鹿者と言われるまでに』
うへえ。
ルーゲラウルフの毛の色って変えられる?
『無理です。あくまで全てをコピーする変化なので、繊細な調節はできません』
いいスキルなんだけどなぁ。欠点発覚だ。まあ戦闘に支障はないだろ。
今はこの状況をどうやって看破するかだ。
ーー悟、逃げないの?
無理だな。逃げたら逃げたで色々面倒臭い。
ーーじゃぁ焼きはらう?
やめろ!
冗談かと思ったが、本気でシロが雷獣化しようとしていたため即座に止めておいた。
雷を落とされたら流石のギルドも真っ黒焦げだ。
「お前は俺たち獣人の恥だ! 今すぐ兵を呼んでくる! 非力なお前らが逃げられるとでも思うなよ!?」
その理屈だとグウ様も獣人の恥になりますけど。
口には出さない。既に物凄い形相で睨まれてるからな。火に油を注ぐような真似はしたくない。
ギルドから追い出され、俺はぐるりと周囲を見回した。
今も道行く人に注目されている。気分が悪いな。色を染めてしまおう。
そうだ。気になったんだけど、産まれながら銀色の毛を持っている獣人はどうなるんだ?
『元々銀の毛色が含まれる獣人は産まれることはありません。そんな子供が産まれると、すぐに抹殺されてしまうからです。そんなことが代々続き、現状だと銀色を持つ獣人はいないのだとか。それでも懲りずに毛の色を染めたりする者が罵られるのですよ』
にゃるほど。
ん? もしかして俺、殺される可能性もあるってこと?
『兵を呼ぶとか言ってましたので恐らく』
ダメじゃないか。
「困りましたね……」
思わずといった感じでシーファが呟く。
「取り敢えずギルドから離れるか」
兵がやってきたとしても、俺たちのステータスならば簡単に退けるだろう。自惚れではなく単に事実を述べただけだ。シーファに聞いても同じことを言うだろう。
路地裏に移動。ヤンキーみたいなのがいたがサクッと退治しておいた。今は端っこに山積みとなって倒れている。結構居たな。6人くらいか?
まあ、いいや。
「まさか逃げた先で終われることになるとは……。サトル、どう責任取るつもりですか?」
「え? 俺のせいなの?」
「この作戦を提案したのはサトルですよ。私も考えてはいるのですが、いい案が思いつきません。責任とってください」
「そう言われてもなぁ……」
色々考えているうちに、兵に包囲されてしまった。まだあちらは俺たちのことを見ていないが、ここにいるという目星はついているらしい。
「お前はこの町でしてはいけないことを犯してしまった! その罰は重い! 今すぐ降参してここから出てくること! 少しでも罰が軽くなるぞ!」
うわぁ。なんか映画で見たことある場面だなぁ。
『罰が軽くなるといっても一生刑務所でしょうね』
ダメじゃないか。
ーーやっぱりこの町破壊したほうがいいんじゃない?
早まるな、シロ。
「もう戦います?」
お前もかい!
まあここで大人しく捕まってもあれだし……。ミストバードにでも変化して幻でも見せるか?
「見つけたぞ!」
あらあら。見つかってしもうた。
「これが最後の忠告だ。降伏するのなら罪が軽くなる。さあ、どうする?」
俺何したの? 本当に意味がわからないんだけど。
「おっと。俺に勝てるとでも思うなよ? これでも部隊の最高責任者だ」
兵の間から出てきた、武装が一番強そうな男。そいつは剣を構え、姿勢を低くする。
「沈黙は否定。ならば、この場で切り捨てるのみ!」
俺から見れば、非常にゆったりとした動きで間合いを詰めてくる。拍子抜けしたのか、シーファが苦笑いしていた。
「これでいいのか。最高責任者」
男は表情を歪める。脳筋だねぇ。
「その余裕ぶれた顔を切り裂いてやる! くらえ!」
剣筋が定まっていない。常人から見れば完璧なまでの軌道なのだが、俺からしては全然ダメだ。サンカーさんの方がもっと綺麗で強かったぞ。
剣を人差し指と中指で挟む。それだけで、剣はピタリと動かなくなってしまった。
男が驚愕に目を見開いているが、無視だ。我に帰らせる時間を与えてやるほど、俺は優しくない。
腕を勢いよく上に振り上げる。剣はするりと男の手の中から離れ、俺たちの背後に突き刺さった。
「すまないな。俺たちも好きでこれをやっているわけではない。それに、かなりの田舎から来たんだ。この国の法律なんて知らなかった」
そう言いながら、俺は剣を抜く。
「だから今回は見逃してくれないか? こっちだってタダで捕まる気はないんだ」
俺の言ったことを理解したのか、兵のうち何人かが震え上がった。
「た、大変ですっ!」
狼狽えなかった兵の1人が慌てながら走ってくる。その視線の先には、俺が倒したヤンキーたちが。
「こいつら、暴君で有名のディクサーたちです!」
「なっ!?」
おおう?
「まさか、お前は……いや、貴方様は……!」
「……?」
「グウ様の生まれ変わりなのか……っ!」
「は?」
「え?」
俺とシーファが揃って声を出す。
「ああ……グウ様よ……! 貴方様の生まれ変わりに会えるなんて……私は今死んでも悔いはありません!」
性格変わってんぞ。あとお前『私』なんて言葉使ってなかっただろ。
「えっと、人違いじゃないですか?」
「いえいえ! このパーティー! 文献にもありました。グウ様は自分のパーティーに、1人の女性とモンスターを加えていたと……!」
奇跡すぎだろ!
もう意味わかんないよ……。っていうか知ってるなら言ってくれよ、鑑定さん!
『えへへ』
おいっ!
「直様世間に公表しなくては! さあ、こっちに来てください!」
「いくか!」
部位変化。ミストバードの翼。
ミストバードの部位をつけたため、その能力が使えるようになる。見た人全員対象の幻覚を発動し、ミストバードの翼を見えないようにする。さらに、獣耳と尻尾の色を茶色に変えておいた。
コストがかなり痛いかも。一ヶ月くらいで無くなりそうだ。
因みにここまでかかった時間は1秒にも満たないので、誰も気がつかない。俺の毛の色が急に変わったことしか認識できないだろう。
「あ、あれ? 銀じゃない……?」
思惑通り、混乱する男。鑑定で覗かせてもらったけど、ルインというらしい。どうでもいいけど。
「そういうことだ。お前らは幻覚を見ていた。俺は元から茶色の毛並みだぞ?」
実際は今幻覚を見ているんだけどね。
「そ、そうなのか……。迷惑をかけてすまなかった……」
「許す代わりにこっちの言うことを1つ聞いてくれないか?」
「ああ。勿論だ」
2度目の性格チェンジ。
「口裏を合わせてくれるのならそれでいい」
「な、成る程。だが、それだけでいいのか?」
「十分だ」
ルインに説明をして、俺たちは一緒に路地裏を出た。そこには野次馬の姿が。大気感知で分かっていたことだ。
「あ、あいつだ! あいつが毛色を銀にしてーーって、あれ?」
「なんで銀じゃないんだ?」
「染めたんだ!」
様々な言葉が飛び交い、最終的には俺が責められる。
「違う! こいつは悪くない!」
そこに、ルインが間に入る。
「実は、凶悪犯を捕まえるためにこいつを利用していたんだ」
利用って……まあ、いいや。
「銀の毛色に染めて、凶悪犯らを誘き寄せていたんだ。奴らは銀の毛色に異様に反応するからな。だから、こいつらは無実だ」
酷い言い訳だった。勿論群集たちは信じない。
「血迷ったか騎士団!」
「罪人の仲間なんて許されるわけないぞ!」
「嘘をつくな!」
ルインは頭に血が上った彼らとは対照的だった。
「では、これはどう説明をするんだ?」
そう言ってルインは横にずれる。今まで隠れてて見えなかった、暴君の山が姿を現した。




