第169話 クロウズ町
まさかこんな真夜中に繋がるとは……。試してみた価値もありました!
それにちゃんと書き溜めしていたんですよ、私。どう? えらいでそ?
バタンと音を響かせ、慌ただしくシーファが入ってくる。その後ろにはシロもいた。相当俺を心配していたらしく、青い顔をしている。シロはどうかわからないけど。
「大丈夫ですか!? と、いうか何があったんです!?」
俺に詰め寄るシーファ。
「待て待て。一旦落ち着こうか。別に俺は無事だぞ?」
目立った外傷が無いことを確認すると、一気に力が抜けたようにシーファは息を吐いた。
ーー凄い音だったけど、何があったの。
シロの問いかけに、今度は俺の顔が青に染まる。
「そうだ! 窓!」
もう止めてくれよ……?
そんな気持ちで俺は振り返る。そこには無傷の窓が。今日一ホッとした。
「窓というか、家具が散乱してますけど」
「え? あ……」
床を見ると、粉々に砕け散った花瓶や壁に掛けてあった絵画が。ビリビリに破れている。
「弁償ですかね……」
「何故だあぁぁぁぁっっっ!!!!」
魔王許さん。今度魔王城に乗り込んじゃる。意地でも神連れてきちゃる。
違反? 聞こえないなぁ。
「それで、何があったらこんなことになるんですか?」
少しイライラした様子のシーファだが、優しさも篭っていることに気がつく。俺のことを心配してくれてたんだ。そう感じることができた。
「ちょっとな、魔王が乗り込んできた」
「はい?」
ーーえ?
うん。そうなるよな。
さて、説明が面倒くさそうだ。ああー、休みたい。
思ってみれば、最近災難多くね!?
説明終了。ふぅ、疲れた。精神的に疲れた。肉体的にも疲れてる。これは寝たほうがいいな。
「なんで寝ようとしているんですか?」
そう思ったけどにっこり笑顔で阻止されてしまった。くそう。
「魔王が直々に来るとは……でも、何もしなかったんですよね?」
「ああ。よくわからないんだが、様子を見に来たってな」
「それで、ステータスを盗み見られたと」
「そうなんだよなぁ」
まるで危機感が無い俺の発言にシーファは呆れた顔をした。
「サトルのステータス次第で相手の動きも変わっていくと思います。魔王のほうが断然に強いのなら、軍を作って攻めてくる場合も……」
言えてる。それヤバいかも。
ーーでも、シロたちで連携すれば倒せるかも。プリンも強くなってるし。魔王はそのこと知らないかもよ?
「そっか。プリンが進化したこと、知らない可能性もあるからな」
俺のパーティーならいけるかな? いや、何しろ強さが違うしまず無理かも。
「やっぱり難しいですね……」
シーファも同じ答えにたどり着いたのか、顎に手を添えて唸る。
「あれ? 俺はもう解決策を出してるけど?」
「そうなんですか?」
「俺がただ黙って寝てるとは思うなよ? では、発表しましょう! 作戦名はーー」
高々と宣言する。
「逃亡!」
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と、いうことでやってきました。馬車で一週間という途方も無い道のりでございます。でもこっちの世界の人たちに比べればそれほどでもないのかな?
どこにやってきたかというと……。
バーン!
獣人の住む町です!
シーファは死神だけど一応獣人なので来ちゃいました!
人と獣人には深い亀裂が入っているらしくて、俺みたいなバリバリ人間がここに入れたりはしない。じゃぁどうするかというと、これだ。
部位変化。
ルーゲラウルフの耳を頭につける。さらに尻尾も尻につける。そうすると、獣人になるのです!
我ながら完璧な変化だ。
MP自動回復があるから全くMPも減らない。ホント、1日に1くらいだ。一万以上の魔力を持っている俺にしたら痛くもかゆくも無いぜ。一万年持つな。
お忘れだと思うから言っておくけど、きちんと家具の弁償はした。窓よりも高かったぞ。高価な壺があったりしたからな。酷い話だ。俺のせいじゃないのに。
「はぁ〜。全く、頼りない男ですね」
「俺の作戦についてか? 最高だろ。まず、真正面から魔王と戦って勝てるわけないやん? だから逃げるんだよ」
頼りないとか言ってくれるけどこれが最善の行動だと思う。
シーファは納得していない顔だったが、もう一度深いため息をつくと何も言わなくなった。
さて。鑑定さーん。
『なんでしょう?』
獣人の町って冒険者ギルドもあるの?
『ありますよ。補足ですが、この町はクロウズ町です』
期待以上の働き。いつも頼りにしてるぜ。
hey鑑定さん。一番近いギルドへの道案内をして。
『ピロン。了解しました』
言わなくとも最短距離を教えてくれる鑑定さんは神だ。
「ついたー!」
「なんで道がわかるんですか……? サトルってここに来たことあります?」
「ん? ないよ?」
「なんだか怖くなってきました……」
「どれもこれも鑑定さんのおかげよ」
みんなにこの便利な力を分けたいぐらいだ。
『やめてください。私のマスターは貴方だけです』
え、何それ。キュンとしちゃうじゃんか。鑑定さんそういう分野も持ち合わせてるの!?
『勘違いしないでください。あと私が一番面倒くさいタイプです。嫌いになりますよ?』
ごめんなさいそんなつもりはなかったんですジャンピング土下座するのでマジで許してください。
『やらなくていいです』
あ、はい。じゃぁギルド入ろうっ!
『やれやれ……』
鑑定さんの呟きが聞こえた気もするが、きっと気のせいだ。
ギルド内。酒の匂いが充満する、なんとも嫌な空間だった。当然といえば当然だが、全員獣人。初めて見る光景に少々興奮してしまう。
だって、異世界と言ったら獣人じゃん? 今までシーファしか見てこなかったけどこう見ると新鮮だよなぁ。男の獣人とか初めて見た。あ、今の俺獣人か。
あ、あれ? なんか一斉に視線が……。
テンプレか? もうあのくだりはいらないぞ?
「こ、こんにちは! 見たところ初めてのお客様のようですね! ぼぼ、冒険者登録ですか?」
場の空気を破り、獣人の受付嬢がにこやかに接してくる。歯切れが悪いのは気のせいだろうか。
「ああ。登録がしたい」
そういうと、受付嬢はテキパキと仕事を進め、ギルドカードを製作し始めた。一度経験があるのでここは省く。
「これで完成ですね。最初のランクはFです。そ、それでは頑張ってください!」
ぺこりと頭を下げる受付嬢。魅力のある獣耳が目の前まで降りてきたが、俺は目を逸らす。近くに最高級の獣耳があるからな。シーファの耳は見るだけでほっこりしてしまい、触りたいという気持ちは起こらないのだ。結果俺は紳士になる。うむ。謎理論炸裂だ。
話は変わり、新しくギルドカードを作った理由になる。
人間と獣人の間には深い亀裂があるのだが、獣人の町だと狼のマークが描いてあるギルドカードを発行しているのだ。これは、人間が不法に侵入した時に見分けるためのものらしい。
因みに人間も同じことをやっているのだが、精密度が高すぎてどう見分けるのかがわからない。門兵とかは分かるみたいだけど。
受付嬢に一言挨拶をし、依頼の紙を取りに行く。周りにどんな魔物がいるか調査だ。
「お前、偉大なるグウ様の格好を真似るとは余程俺たちを敵に回してえみたいだな」
はい?
振り返ると、図体の大きい獣人の男が。見たところ1人。しかし、仲間には加わっていないものの周りの視線がすごいんだが。受付嬢以外の全ての獣人がこちらを睨んでいる。俺なんかした? 変装は完璧だよね?
そういえばグウ様とか言ってたな。偉大なる鑑定様よ、我に知識をーー。
厨二病感すごいな。止めとこ。
『ふはははは! 我こそが鑑定だっ!』
お前も乗るな! どうでもいいけど鑑定さんが敬語じゃないとこ初めて聞いたわ!
『グウ様は獣人の中に受け継がれている英雄で、人間との戦の時、無能な人類を退けたと語り継がれています。何百年も前のことなので情報は疎かですが、こう言われています。グウ様の耳と尾は銀色に輝いていた、と』
なんだよその情報!
『そして、グウ様の真似をして自身の毛の色を銀に染める者は罵られるそうです』
なんでだよ。
はっ。俺の耳と尻尾の色って……?
…………。
ぎ、ぎ、ぎ。
銀じゃねえかぁぁぁっ! おいぃぃぃっ!




