第17話 告白それともう1人の転生者
あたりが暗闇に包まれた時、俺は行動に出た。ベッドに転がっているシーファに声をかける。彼女は眠たそうに起き上がった。
「何ですか?もう、私は寝たいのですが……」
目をこすりながらシーファはいう。俺は話を切り出した。
「言いたいことがあるんだが……いいか?」
「……スキルのことですか?変化のことはもう、聞きましたけど」
「違うんだ。もっと、違うことだ。でも、そのスキルについてはもう少しだけ説明する」
悟は話した。自分が転生者だったということ、パジという神に会って変化スキルを貰ったこと。森の中に転移し、旅が始まったこと、元の世界には魔力がなく、魔法ということについて何も知らないこと。それらを全て話した。もちろん誰かが聞いていないか神経を張り巡らせたが、誰もいない様子だった。
シーファは最初、面倒臭そうに聞いていたが、どんどん目が覚めたかのように瞳を丸くして熱心に話を聞いていた。転生者という言葉に、彼女は大きく反応していたが、なぜだろう。
「そういうところだ。何か、言いたいことがあるか?」
シーファは黙っていた。それはそうだろう。今まで一緒にいた仲間が、前世の記憶を持った全く違う世界の人間だったからな。もしかしたら、ここでシーファは離れていくかもしれない。
「……お、驚きましたよ。転生者だなんて。私が見たのは、2度目ーー」
そこでシーファは口を閉じる。……2度目?他にもいるのか?
シーファはひとつ深呼吸をして続ける。
「サトルは言ってくれたはずです。差別は嫌いだ、たとえ自分自身に向けられてたとしても。と。サトルも同じです。私は転生者だからといってサトルを差別したりなんかしないですよ」
「そうか……ありがとう」
「案外、私とサトルは同じなのかもしれませんね」
俺は笑う。シーファと同じか。悪くないかもしれない。
「あ、笑った」
俺が視線を向けると、シーファは子供のような無邪気な笑顔を見せた。
「良かったです。サトル、これまでずっと笑わなかったから。サトルが笑うと、私も幸せです」
そんなに無表情だった?確かにこの異世界に来てからは笑ってないな。これは俺が悪いか。ただの無愛想な人間と化してしまう。気をつけよう。
「似た者同士って、結構いいパーティーを組めるんだよな?」
「……?」
シーファはサトルが何を言っているか分からず、首を傾げる。獣耳がぴょこんと揺れた。
「俺たちは、このコンビで世界最強を目指す。そうしたら、シーファも有名になって差別もなくなるだろ?」
ようやく理解したのか、シーファは尻尾を嬉しそうに左右へ振った。差別がなくなるというのは、彼女がどれだけ望んだのかということが、会った時から分かっていた。人には優しくしていたが、それを仇で返す人間。何も信じられるものがなくなり、1人でこの世をさまよっていたのだろう。それでよく、人間を恨まなかったのがすごいと思う。俺なら復讐してるよ。
「……はい、分かりました!私とサトルは正式なパーティーです!明日ギルドで登録しましょう!」
「ああ。そこで、まずシーファの格好だな。その翼が少々厄介かもしれない」
シーファは自分の翼を見て、少しだけ目尻を下げた。まだこの翼を不必要と思っているのだろうか。
「その翼を使って俺を運んで助けてくれたんだろ?水も出してくれたし、食事もくれた。翼を持ったシーファがいなければ、今頃俺は森の中で餓死しているぞ。そんな都合よく魔物は見つからないしな。そのことに関しては、すごく感謝している」
彼女は機嫌をよくしたのか、俺の方に向き直った。俺は話を戻す。
「シーファの翼を隠すために、服を用意したいんだ。体を覆い尽くすぐらいの大きなローブだ。俺が明日探してくるから、シーファはここで待っててくれ。そして、ローブを着たらギルドでパーティー登録と冒険者登録をするぞ。ここまでの流れはいいな?」
「はい」
「あと、さっきの2度目っていいかけただろ?転生者は一度見たのか?」
シーファは少し間を空けたあと、青ざめた顔で1つ言った。
「すいません。今はまだ……」
この時、かなり苦しい顔をしていたため、あまり深くは追求しなかった。
「わかった。その時になったら話してくれればいい。俺は待つ」
シーファが頷くと、俺は全てを吐き出したかのようにベッドへ転がった。その横にシーファが転がる。まあ、ベッドは1つしかないからな。陣地を区切るか。
「俺はここからここな。シーファはここからあっち」
半分ぐらいに分け、その真ん中に森で採取していた蔓を置く。鑑定もしたところ状態異常効果はないので大丈夫だ。これで安心して寝れる。色々と。
「それじゃあ、おやすみ」
「お休みなさい」
魔法で灯っていた電気をシーファが消すと、俺たちは軽い挨拶をして瞼を閉じた。悟は瞼を閉じた後、すぐに睡魔が襲ってくるのを感じた。それに抗うことなく、眠りに落ちる。
1人目の転生者。それは、危険な人物だということを悟は知らなかった。これからそいつが脅威になることも、何も知らない。
あまり遠くはない未来だが、そのことに悟が気がつくことはなかった。




