〜死神の戦闘〜
シーファとテズは向き合う。自然体でリラックスしているようにも見えるが、双方いつでも攻撃できる体勢だった。
「ふむ。よかろう。どうやらもう隠す必要もないみたいだな」
シーファは全てを理解していることに感づき、余はため息をついた。
「そうだ。余は、和樹を蘇らせた」
「……やはり、和樹の言っていたことは間違いではなかったのですね」
こちらを見定めるかのような目で余を睨んでくる。
「と、いうことは貴方は私たちの敵ということなのですか? いいえ、敵です。サトルだっていないじゃないですか! 何処にやったのですか? サトルを!」
彼女は腰に吊るしてあった杖を構えた。魔力が高まっていく。シーファには部屋の中央にある空間の入り口が見えないのだろうか。
「サトル? 余は知らないぞ?」
彼は本当に知らない。
「ここで戦うのはよしたほうがいい。国もろとも消し飛ぶことになろう」
シーファの表情が歪む。彼女もそんな当たり前のこと、分かっていただろう。今のは単なる脅しだ。
「魔法の威力を最小限にしたら被害を抑えられます。それが災厄の死神を倒すためなら許されます。街が一つ壊滅しようが、これから貴方がしでかす被害の方が大きいでしょう。ならば、今の内に殺すべきです」
と、思っていたのだがシーファは本気らしい。身体強化魔法を自身に付与する。
「ほう、魔法戦か。面白い。しかし、其方は武器を持っていない。余には鎌があるのだぞ?」
「私は接近戦だって一応できます」
シーファは翼の羽を数十本抜き取り、形を変化させた。ユニークスキルだ。まさか、シーファも持っていたなんて。
羽は一つに合体し、剣を作り上げた。鑑定をしてみると、魔剣だということがわかった。
「魔剣……か。それでも余の鎌には劣るぞ?」
「貴方よりもテクニックはあります。疾風の死神さん」
余は仮面の中で目を見開いた。その顔は向こうから分からないはずだが、シーファは全てを察知したかのように頷く。
「何故それを?」
低く鋭い声で尋ねる。
「え? なんですか?」
小首を傾げるシーファ。本当に何も知らない顔をしている。余の聞き間違いだったかもしれない。
「国で戦うのは少々気が劣ります。場所を変えましょう」
「……よかろう」
転移陣を開き、余たちはとある場所に足をつけた。
「果ての大地……ですか」
何もない、ひび割れた地面。草木など一切生えておらず、そんな光景が地平線の彼方まで続いている。ここは強力な魔物が跋扈すると有名な危険スポットだった。
「魔物の邪魔が入ることはなかろう。索敵魔法にも引っかからん」
「正々堂々の勝負に邪魔をすることなど許しませんからね」
薄く笑みを浮かべるシーファ。
此奴は本当に勝てると思っているのだろうか。
絶対鑑定をしてみた結果、ステータスは一つを除いて同列だ。だが、一万年ちょいを生きてきた余にはついていけないはず。なにしろ彼女は戦闘経験が圧倒的にないのだ。
「勝敗は決しているぞ? やるのか?」
シーファは頷く。
と、魔剣が宙に浮いた。
魔剣は空を彷徨いながらもその切っ先をこちらに向けている。念力で動かしているらしい。その気になればいつでも射出できるだろう。
シーファは翼を広げ、抜け落ちた羽でもう一本の魔剣を作った。それを鞘に入れ、空高く飛ぶ。
魔法の詠唱すらやらずに出現した、1000ほどある風刃が全て余に向けて飛んでくる。一点に集中せず、バラバラに錯乱させるという当たることを重視している攻撃だ。
余は冷静にそれらを躱していく。シーファが魔法を連射しながら驚いた表情をしていた。
そう。余は疾風の死神と呼ばれていた。素早さだけが飛び抜けているステータスなのだ。
それでも回避できないものは鎌に魔法を付与し切り捨てた。
普通の武器で風刃は切れない。なので、鎌に風魔法を宿して相殺している。
目には目を。歯には歯を。風魔法には風魔法だ。
全ての風刃を凌ぐ。あれだけ真っ平らだった地形は所々深く抉れていた。くらっていたら擦り傷を負っていただろう。
視界の隅にシーファが映った。剣を構え、こちらに突っ込んでくる。
「そんな粗末な魔剣で余を切れるとでも思っていたのか?」
鎌と剣がぶつかり合う。そして、数秒と経たぬうちに魔剣の方が真っ二つに切れた。
根元から折れるのではなく、斜めに真っ二つだ。
そのままの勢いで鎌を振るう。シーファは羽変化で巨大な盾を作り出し、その姿をくらませた。
問答無用で盾を切断。奥にはシーファがいたが、もうすでに空を飛んでいた。
その横にはスカイホースという魔物が。
「其奴が噂に聞いていたスカイホースか……」
和樹から話は聞いていた。シーファは融合というスキルでスカイホースと一心同体になり、翼を得た。その代わり人々から暴力を振るわれ、孤独と絶望が彼女を襲うことになる。
「ミライ、行きますよ」
「おウ、任せとケ」
スカイホースが羽ばたくと、突風が吹き荒れる。土が巻き上がり視界が一気に悪くなった。
それに、どんな原理かシーファの気配は感知できない。
先ほどからずっとシーファに意識を集中しているはずなのだが、全くと言っていいほどその気配が掴めない。
それにしても……。
最後に和樹から聞いた情報によると、シーファは自分の力を上手くコントロール出来ないと話していた。
嘘だったのか。
余は内心でため息をついた。
きっと彼奴のことだ。その方が面白そうだったからと適当な理由をつけて嘘をついたはずだ。
昔あった嘘発見スキルがあればすぐにわかったことなのにな。
背後にスカイホースが現れる。此方は簡単に感知できるので、振り返ることもせずに鎌で前蹴りを受け止めた。
ずっしりと重い。
なんとか押し切ると、再び強風が吹いた。攻撃を防がれたスカイホースが風を発生させたらしい。僅かながら余の体勢が崩れる。
と、目の前にシーファの姿が。鎌で斬りつけようとするもバランスが取れなかったために躱されてしまった。
マズイ!?
足を前に出し、無理矢理急ブレーキをかける。足首がゴキリと嫌な音を立てたが心配する余地すらなかった。
至近距離からの風刃。それは余の仮面に当たる。
体勢を立て直した余はバックステップで下がった。
同時に、狐の仮面が2つにずれた。片方が落下し、余の素顔が露わになる。
タイミングがいいことに、スカイホースの出した風が被っていたフードを後ろへたなびかせた。
長い赤髪。半分しか見えないが、整った顔立ちにエメラルドグリーンの瞳。極め付けはーー。
「ーーっ!?」
シーファが驚きに満ちた顔で余を凝視する。
それを隙とみなし、奥の手を使った。
同時に、シーファとスカイホースの動きが硬直する。余が一番得意とする、麻痺の魔眼だ。
しかし、麻痺の魔眼は効果時間が短い。今から攻撃をしようと突っ込んでいっても途中で動けるようになってしまうだろう。
これは、逃げるためのスキルである。
「空間魔法っ!」
そしと余は空間を跨いだ。
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「どうして……? 何故?」
麻痺が解けた後でも、シーファは一歩も動こうとしなかった。否、動けなかったのである。
『…………』
いつもは陽気に喋り続けるミライの声もない。
「なんで……? あれって……」
生唾を飲み込んだ。
「私とそっくり……」




