第161話 高性能ロボット恐怖症になりそう
見覚えのある、黒く彩られた部屋。俺は一歩を踏み出した。
しっかしまぁ……。
なんもねえな!
悲しいぜ。俺の半年の努力が……。
とか思っていたが、俺の感知が部屋のとある部分に反応していた。
神力感知。
壁の一部分から神力が溢れ出ている。どこか扉の形にも見えた。
不自然である。
よくよく見てみると、ほのかに熱を発していた。はぁ、サーモグラフィー目が疲れる。
っていうかここぜった怪しいだろ。神力感知が察知しているということは、この向こうに神がいる。見えているオーラ的に死神ではない。でもパグのような神かはわからないな。パグのオーラまだ見たことないし。
一歩踏み出した途端に、俺はとてつもない寒気を感じた。
思わず振り返る。そこには誰もいない。ただ、縮まりかけている空間の繋ぎ目るだけでーー。
俺は目を疑った。
縮んでる!?
躊躇することもなく、元の世界へ戻ろうと足を動かす。しかし、俺を嘲笑するかのように裂け目は目と鼻の先で消滅した。
勢い余らせ、危なげなく急ブレーキをかける。なんとか壁とキスすることは免れたが、今はそれどころじゃない。
出口がなくなった。
その事実は俺を絶望のどん底に突き落とした。
くそっ。アレが出ている時間を計測してから入ればよかった。好奇心のままに行動してしまった。
どうすれば……。
そんな俺の目に、先ほどのオーラを発する不自然な壁が映った。
もしかしたらここから出られるかもしれない。
失望しかけていたが、一本の光の筋が差し込んだ気がした。
よ、よおし。
足を動かすたびに冷気は強まっていく。俺の息が白くなり、思わず肌をさすった。
おかしいな。
ふと思う。
俺のステータスならマイナス30度でも平気なはずなのに。
さらに、一歩。
何故かは分からないが体がびくんと痙攣した。
ここはダメだ。すぐに引き返せ。
脳が警報を発す。
俺は少し考えた上、頭を左右に振った。
元の世界に戻れる道はここしかないんだ。進まなければ。
俺はその決断を後悔することになる。
ついに壁の前まで来た。魔力感知でここにはか細い魔力の通路が通っていることがわかった。
俺は魔力を流し込んでいく。今まで以上にないスピードだった。一刻も早く立ち去りたいからである。
回路全てに魔力が行き届き、重い音を立てながら一部分の壁だけが下へ引っ込んだ。長い間作動されてなかったのか錆び付いている。
奥に広がった光景は、ドーム型の大広間だった。俺は慎重に進んでいく。
暗闇であまり見えない。壁伝いに歩いていると、固定された松明を見つけた。火をつけると、思っていたよりも広い範囲が見通せるようになる。
あ、鑑定さーん。これって多分同じ感覚にあるから計算してくれい。そこに俺が火魔法打つから。
《干渉を認められていません》
え?
ちょ、鑑定さーん!
《干渉を認められていません》
お、俺の力強い心の味方が……。
くっ。こっちに来てから今まで1人になったことなんてなかったのに。
と、いうことで暗算。導き出した答えの場所に火球を打っていく。
全弾命中した。わーお。
俺鑑定さんなしでも生きていけるんじゃね!?
うっはーはい、うっはーはい。
調子乗りました。
あれ。
俺の視線は中央にあるものに釘付けになった。
周りに火が灯ったことで漸く気がつけたのだ。恐る恐る近づいてみる。鼓動が高まった。
俺が感じていた寒気はこれが原因だったのか……!
それは、錆びつき苔の生えた少女だった。少女は岩に腰をかけたまま眠っている。
髪の毛は短く、ふんわりとしている。服はワンピースで、色は剥げていたためわからなかった。目は閉じていて生きているのかわからない。いやーー。
こいつは、機械だ。
俺は少女を見下ろしながら顎に手を添える。
何故ここにこんなものがあるのか。
元々シーファの部屋だったはずだよな? シーファは何を思って少女を置いたのか……。
よくわからんな。どうでもいいけどロボ子にしよ。
でも、神力感知はこれに向かって反応している。
こいつ、神なのか?
鑑定さんが使えないのでステータスが見れない。そもそも動くのかどうかすら怪しい。
……出口はなかったし、さっきの部屋に戻ろう。
俺が踵を返したその時、背後から音がした。
非常に歯切れが悪く、ギギギという錆び付いた音だ。音感知で耳が優れている俺にはすぐ聞き取れた。
だからこそ、急いで距離をとる。
先ほどまで俺がいた場所が陥没した。
空中で体の方向を変え、着地する。いつの間にかロボ子は立っていた。目を開け俺の姿を確認している様子だ。
《絶対鑑定発動。ステータスの読み取り……完了。害がないレベルだと推測。排除行動を続けます》
機械仕掛けの音声を出し、ロボ子は襲いかかってきた。
手の形を緑色に光る斧に変化させ、斬りつけてくる。
嫌な予感がし、バックステップをとった。瞬間、俺の前髪が何本か切断される。緑の光のラインがすれすれを通過していった。
は、速い!
俺は剣を抜き、正眼の構えをとる。
《警告します。今すぐここから立ち去ってください》
冷たく言い放つロボ子。俺はなんとか対話ができないかと考え、声を上げた。
「出たいんだが出られん! 出口を教えてくれないか!?」
《出口が、ナイ? データにありません。今すぐ立ち去ってください》
ロボ子は全くの無表情で同じセリフを繰り返す。
あー、説得ダメなパターンですわ。
一応出てきた扉から黒部屋に逃げることも可能だけど、もしそれでも相手が追ってくるのだとしたら圧倒的に不利になる。退路が絶たれてしまうからだ。ならばここで戦ってやつを倒す方がいい。
《時間切れです。排除行動を続けます》
口の中からマシンガンの銃口が。
おい!
慌てて右に転がる。放たれた銃弾は地面を抉り、俺の方向に横薙ぎで撃たれた。
やばいやばい!
日本で住んでいた俺だからわかるが、銃は流石にマズイ。くらったら圧倒的にこちらが不利になってしまう。
全力疾走。すぐ後ろに銃弾が迫ってきているのがわかった。
ジグザグに移動し、相手を翻弄。しかしロボ子は確実に俺に狙いを定めていた。
俺は跳脚する。すぐ下を銃弾が通過していった。
ロボ子の銃口が俺を追う。宙に舞っている時では避けられないーーとでも思ったか馬鹿め!
変化をする。
弾は俺の体を貫通し、壁に突き刺さった。
え? 大丈夫かって?
ふふ、全然平気よ。
俺は今、ミストバードに変化したからな!
これは予想外だったらしく、ロボ子の動きが一瞬だけ硬直する。その隙を見逃さず俺は接近した。我に返ったロボ子は銃を乱射するが俺には効かず。
あれー、ロボ子ちゃん気がついてないのかな?
そっちにいる俺は幻覚だよ!
そう。なんかロボにも幻覚は通用するみたいだった。相手が高性能だからかな? 逆に助かったぜ。
本物の俺は背後に。変化を解除し、ロボ子は標的が消えたことに戸惑う。
見た目は完全に少女だが、剣は通じないと思うのでとっておきの魔法を用意しておいた。
地獄の業火。
巨大な火柱がたち、ロボ子を飲み込んだ。
《計算誤差を修正……完了。脅威になる敵と判断しました。リミッター10%解除……成功。封印を使用します》
直後、死角から風を切る音が聞こえる。
俺の首に斧が迫っていた。




