第160話 死神のお部屋
窓ガラス代を弁償。
半年前に大量の魔物を倒したおかげで金は一生遊んで暮らせるほどある。でも俺たちは冒険者という者が好きだからクエストはやめないけどね。
はぁー。
窓ガラス1枚なんて全然懐は痛まないけどなーんか納得いかんなぁ。
誰だよ魔王にぶっ飛ばされてガラス割りながら登場したやつ。
ツォッカか!?
いや、魔王が悪い!
恨みが一つ増えた。
で、ツォッカが吐いた一番最後の言葉。
明らかに自分のことを敵と言ってるもんじゃん。証拠は転移で逃げたこと。空間感知で転移を構築していることは知っていたが、まさかの展開だったな。
もしかしたら、ツォッカは洗脳されてるのかもしれないな。
過去の話をしていた時に彼は洗脳無効を持っていると話していたけど、それが偽りだったとしたら。
ツォッカはずっと洗脳で操られているのかもしれない。
でも俺には何もしてこなかったよな?
それどころか魔王の情報まで与えてくれたし。嘘かもしれないけどさ。
うーん、魔王の意図がわからん。
あ、そういえば最近なんか視線を感じてたんだよね。
それも街の中だし、感知系を発動しても人が沢山いてわからなかった。もしかしたら、ツォッカだったのかも。
じゃぁ俺のことを監視するために魔王が送り出した幹部?
地面に叩き疲れたとか言ってた割には怪我はなかったし。
こんなわかりやすい手口子供でも理解できるぞ。
俺はアイテムボックスから指輪を取り出し、魔力を込めた。
魔力の込め方は複雑で、蜘蛛の糸のように細く束ねた魔力を繊細に、かつ速く流し込まなければいけない。これは到底人にはできない業だ。つまり、俺は人間をやめちった。てへっ。
こんな魔力の通し方を来る日も来る日もやっていたので、魔法の発動が速くなった。魔力の繊細な動かし方がわかり、詠唱ありと詠唱なしでも威力が同じになった。
これをシーファにも伝授してみた結果、何ヶ月もかかったが習得できた。嬉しい限りである。ここからさらに強くなれるのだと知ると、なんだかドキドキするぞ。ふへっ。
シロは実質魔物だから詠唱なんかしないし、プリンも同じだ。俺たちのパーティーは詠唱なしの魔法ぶちまけ隊となった。厄介極まりない。ぐへっ。
とか過去を振り返っているうちに魔力が指輪全体に行き届いたらしい。指輪は俺の手から離れて宙に浮き、空間の入り口へと姿を変えた。何度見ても不思議な原理だ。
俺は息を飲み込み、感知を全発動する。
俺の目がサーモグラフィーになった。うへぇ。
周りの様子が目を瞑っていてもわかるようになった。よっしゃ。
騒動感知には何も引っかからないから、面倒ごとに巻き込まれる感じもない!
準備は万端だ。
俺はを決して空間の中へと身を躍らせた。
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「っ!?」
強い空間の揺らぎを感じ、余は振り向いた。そこには誰もいない。いや、余が気になっているのはエルシャルト国がある方角だった。
今はとある事情があってチノ大草原に来ているが、ここまで強い《揺れ》を感じたら行かざるを得ないだろう。
余は転移の準備をする。その間、長いこと見つめていた地面を肩越しに覗いた。
和樹……討たれたか。
ため息をつく。
あんな風な性格だから手を読まれ、呆気なく散ってしまったのだ。
転生者ということで少しは期待していた。それなのに、だ。
悟が弱った瞬間を狙って余が現れ、いいところをかっさらっていく作戦だった。そうすれば悟のユニークスキルが手に入る。だがーー。
悟は変化を使わなかった。
実際には使っていたが、あれは論外。余が欲しいのは正真正銘の変化スキルだ。
ユニークスキルは対象が使用している時に殺すということはしなければ取得することができない。そして、ユニークスキルを奪うといっても全部を奪えるわけではないのだ。
あくまで一つ。それも、使用していたものだ。
悟はパグから授かった力で鑑定を書き換えているらしいのであのスキルの詳細まではわからない。しかし、使い道がないと踏んだ。
和樹も死んだ。
あいつには生き残ってもらって、スキルが発動する際に殺そうと思っていたのに。
唇を噛む。
余は大きく深呼吸をし、苛立つ心を抑えた。
転移をする。
そこはエルシャルト国のどこかの宿だった。
殺風景な部屋で、家具はあまりない。あるとしてもタンスやクローゼット、机と椅子だ。他は観葉植物一つ。必要最低限が揃った部屋のど真ん中に、それはあった。
中が黒く、異空間に繋がっているモノ。それは大きな口を開けて全てを飲み込んでいるようにも見えた。
「これは……!」
一目見ただけでわかる。
死神の作り出した空間へと繋がっている、唯一の入り口。
何故?
「サトルーッ! 大丈夫ですか!?」
いることには気がついていたが、まさか余の存在を感づかれるとは。
とれかくここで戦ってはダメだ。もう少し強くならなければ。
転移を使用しようとするが、クールダウン中でまだ使えなかった。
転移にはクールダウンというものがある。簡潔に言えば、一度発動すると少しの間使用不可になるということだ。
あと数十秒は必要。余としたことが、ここに敵がいるという場合を考えていなかった。
自分自身に舌を打ちつつ、どこか逃れられないかと部屋を見回した。
余の目に止まったのは一枚のガラス。まだ新品なのか埃一つついていない。
戸惑うこともなく、ガラスに直行。助走をつけた状態で跳脚すると、背後から魔法陣で人が入ってくる気配がした。
姿を見られたかもしれない。しかし、間に合った。
派手な音を立ててガラスが割れる。次の瞬間、頭から余は宙に身を躍らせていた。
「逃がしませんよ」
余の足に何かが巻きつく。地面ではなく、壁が近づいてきた。念力で体を動かし顔面衝突は免れる。
片足を囚われたせいで、宙ぶらりんの状態となっていた。魔力が吸われていく感覚がある。
「て、テズさん!?」
そう言って窓から乗り出してきたのはシーファだった。彼女は驚いた様子で手を差し伸べてくる。
「と、とにかく捕まってください!」
さて、どうするべきか。
余は浮遊のスキルで体勢を立て直した。逆さまから元に戻る。シーファは手を伸ばしたまま唖然としていた。翼もないまま飛んだから当たり前だろう。これはユニークスキルだ。
足に絡み付いた何かは急速に力が衰えていき、余から離れていった。
視線をやる。
緑色の何かが部屋の中に戻って行った。シーファは何も気がついていない。今のは……まさか……。
「邪魔をしたな。其方の顔色を伺いたいばかりに」
「そうですか。気遣いありがとうございます。ですが、十分です」
部屋に手招きされる。仕方なく入ると、シーファから恐ろしいまでの殺気を浴びせられた。これくらいで怯みはしないが。
「む? 余に何か不満でもあるのか」
「サトルから聞きましたよ。貴方は和樹を一度復活させたみたいですね」
そう。余は和樹にもう一度だけチャンスを与えるため、生き返らせたのだ。死者の蘇生とは力を大幅に使い、面倒臭い工程があるのだがユニークスキルのためにやり遂げた。その結果がこれだ。
「何のことを言っているのかわからないな。余のことを信じられぬのか?」
あえてとぼける。
「ふざけないでください。私の認識では貴方は敵です」
静かに、殺意がこもった鋭い目でシーファは余を睨んだ。




