第159話 窓ガラス弁償しろ!
「すいません! すいません!」
冷静になれと言ったものの、魔人は何度も頭を下げまくった。俺の記憶が確かならば、こいつはこんなキャラじゃなかったはず……。
「なんか盛り上がってるとこ悪いけど、あんまり状況が掴めないぞ。最初から説明してくれないか」
「はい。わかりました」
魔人が口を開く前に、俺は鑑定さんに聞く。
こいつ誰だっけ?
『ツォッカですよ。お忘れですか? もう少し頭のメモリを有効的に活用したらどうでしょう?』
有効的に活用しすぎなんだよ、鑑定さんは。そもそも俺と鑑定さんの記憶できる範囲は全然違うだろ。鑑定さんは半年前の光景を全部覚えてるんだろ?
『当たり前じゃないですか。そこまでしないと鑑定さんという名に傷が付きます』
鑑定さんなりにプライドを張って生きているらしい。あ、生きているかはわからんけど。
「私は悟様に魔王城への侵入を頼まれました。今まで、その任務に就いていたのですが勘のいい魔王様に気づかれてしまったのです。一万三千回地面に叩きつけられた後、魔王様の1人サッカーが始まり終いには投げ飛ばされてしまいました」
よく無事でいられたな、こいつ。タフさがすごい。いやちょっと待て。
「もしかして、魔王の腕力だけでここまでぶっ飛ばされてきたのか?」
「そうですが、どうかしました?」
さも当たり前だというような表情でツォッカは首をかしげる。おうおう。魔王やべえわ。
因みに俺たちはエルシャルト国にいる。ここからロット国までには1日ほどかかるし、それから魔王城まではもっとかかると思う。
魔王城がどこにあるのかわからないけど、見つかってはいないということからロット国の周辺にもない。
そして、窓ガラスが割れた方向から飛んできたということはロット国がある方角から。結論を言うと、ツォッカはロット国よりも遥かに遠いところから投げ飛ばされてきたということだ。うーむ。
魔王に勝てる気がしないのは俺だけだろうか。
「ま、ご苦労。半年の間よく頑張ったな」
「も、勿体なきお言葉……っ!」
ツォッカは跪き、首を垂れる。その言葉からは本心がうかがえた。しかし、なんだろう。変な感じがする。
「何かわかったことはないか?」
「はい。まとめて報告しますと、魔王様の所有しているユニークスキルのことです」
完璧すぎる。
俺は魔王の持っているユニークスキルの を知らない。まず、持っているかわからなかったが魔王という存在なんだし予想はしていた。やっぱ持ってたかーという感じだ。
「続けてくれ」
「魔王様のユニークスキルの一つは、《消滅》です」
「と、いうと?」
「指定した生物をチリも残さず消し炭にすることができるスキルです。発動するには条件が必要らしいのですが、その条件の一つは敵対心を持っている者や反抗心を持っている者だと言われています」
「ふむ。と、いうことはまだ条件はあるんだな?」
「はい。昔、一つ目の条件に達していた人間を消滅の力で殺さなかったことが証拠です。その人は勇者で、すぐに殺さなければいけない存在だったのに魔王様はユニークスキルを使わずに戦っていました」
「戦闘に余裕があるとか、そういうのじゃなくてか?」
「いえ。復活した直前の出来事で準備ができず、魔王様は満身創痍の状態だったので余裕などなかったのでしょう」
「成る程な」
勇者には効かないとか?
そうだとしたら俺、一瞬で消されるやん。
でもそれだけじゃない気がするんだよなぁ。
もし殆ど無差別に人を消滅させることができるのなら、今すぐにでも進軍してもいい。と、いうよりも魔王1人で十分なんじゃないか?
魔王に近づいただけでチリと化す。
シャレにならん。
何か、他の条件があるはずだ。
「あと、俺から一つ聞きたいことがある」
ツォッカが発した最初の文が気になったのだ。
「あの時お前は、魔王様のユニークスキルの一つはと言ったな?」
「……流石ですね。よくお気づきになりました」
これから考えられる可能性ーーそれは、魔王が持つユニークスキルは一つではないということだ。
「そうです。魔王様は二つのユニークスキルをお持ちなのです」
俺の考えを読んだのか、ツォッカが肯定するように大きく頷く。
「もしかして、その情報を掴んだのか?」
「ふふ。そうまでしなくてはスパイの意味がないじゃないですか」
中々有能だぞ、こいつ。
「その次の日に追放されたんですけどね」
前言撤回とまではいかない。だって、ここまでの情報を持ち帰ってくれるとは思ってもなかったんだもん! むしろ名前忘れてたくらいだわ! むしろ頭の片隅にもなかったわ! イコール存在忘れてたわ! テヘペロッ!
「で、そのユニークスキルの名は……!?」
ツォッカがごくと生唾を飲み込み、静かに唇を動かした。
「《洗脳》です」
……え?
「元々魔王には洗脳あるって言われてなかったっけか? というか、洗脳って普通のスキルにあるよな。それまた何故ユニークスキルに」
「確かに普通のスキルに洗脳はあります。しかも、洗脳は自分よりも遥かに弱い者にしかつけられないんです。その欠点を埋め合わせたものが魔王様の洗脳スキルです」
「ああ、わかったぞ」
段々と話が飲み込めてくる。
「つまり、実際に鑑定していないからスキルの名前がわからないってことか。お前は一度洗脳にかかったことがあるからその威力を計算し、ユニークスキルだと導き出した。そういうことか?」
「はい。……凄まじいですね。私が言うセリフ全てをかっさらっていきました」
「それはすまん」
「ふふ。大丈夫ですよ」
そこまで話すと、ツォッカは何か思い出したのか補足をした。
「あと、投げられる前に魔王様が言っておりました。これは伝言ということでお伝えします」
魔王からの伝言か……。うえぇ、正直聞きたくない。
「一つは、シーファという者に近づいてはいけないということ。もう一つはーー」
不自然に言葉を切り、ツォッカは笑みを浮かべた。
「貴方の見る者全てが仲間ではない、ということです」
直後、ツォッカの姿が消えた。
移動したのではなく、瞬間的にだ。
部屋にはただ1人、俺が取り残された。
……おい。
窓ガラス弁償しろ!




