第152話 やっぱり仲間を置いていくのはダメ。ゼッタイ。
「漸く待ち望んでいたこの瞬間が来ました……」
「……じゃぁ、お前は魔王の敵なんだな?」
俺が魔王と推測したことに酷く驚いている様子だったが、表面上には出してこなかった。しかし! 感知で多少の動きすらも見逃さない俺に隠し事でもできると思っていたか? 答えは否だ。
「……」
「躊躇しなくてもいいんだぞ?」
と、いうか昔の話の中で語ってただろ。魔王を殺したいって。何故ここで言わない。意味がわからん。
「そう……ですね。私は魔王に復讐を望んでいます」
「なっ!?」
これは俺の声。とりあえず乗っといたほうがいいと思った。
「サトル……」
シーファが呆れたように呟いているが、全然聞こえない。
「俺たちも、とある魔人から魔王を殺してくれと頼まれた。直接襲撃されたとか、そんなことはなかったけど俺たちは本気で魔王を殺るつもりだ。もっとも、人間の最大の敵だしな」
「……何が言いたいのですか?」
そう言いながらも、本当は気がついているのだろう。この質問は俺への最終確認というところだ。
「ま、俺たちと協力してほしいっていうのが本心なんだよな」
軽々しくそういう。
「ええ……」
シーファがなんか言ったような気がしたが、多分気のせいだ。
「わかりました」
マジかよ。自分で質問したくせに驚いたわ。即答じゃんか。
それほど今まで考えてきたってことなのかも。でも流石に無警戒すぎないか? 最初は敵対心丸出しだったけどさ。
まあ、いいか。
「そんなに簡単に敵だった人を信じてもよろしいのですか? 私たちが裏切ったらどうするのです?」
念のためなのか、シーファが確認する。一見地雷を踏んでいるようにも見えるが、これも重要なことなのだ。そこまで考慮してくれているこそ、仲間と認められると俺は思う。
「私が生きる価値はもうない」
はっきりと、ツォッカはそう宣言する。
重い重い。
「これは、最後の希望なのですよ。私はここで断ったらもうチャンスはないと感じます。ならば、魔王様に使えるなど馬鹿らしいことはやめ、いっそのこと貴方達についていこうと思います」
ツォッカは言葉を継ぐ。
「裏切られるという覚悟もできています。私はそれ以上の苦しみを幾度も味わっているので……」
重い重い。
「な、なあ」
剣聖ことダスティンが囁きかけてくる。
「俺いらなくないか?」
「気のせいだ」
「っていうか俺がいないことになっていないか?」
「気のせいだ」
「俺もう退場してもーー」
「行かせんぞ」
「いや、だっーー」
「行かせんぞ」
ダスティンを論破(?)した俺は再びツォッカに向き直る。彼はというと、俺たちのやり取りに苦笑していた。聞こえてたみたいだ。
「貴方達は面白いですねぇ。やはり、お供したい!」
すごく目を輝かせている。断る理由もないしオッケー出すか。だが、彼が魔王のスパイだって可能性もある。あんな話、ちゃちゃっと作ればいいからな。ま、あちらも信用してるみたいなのは感知でわかる。呼吸の動きとか熱とかでね。
結論からして、作り話という確率は低いだろう。
「早速、私に何なりと命令を」
膝をつき、頭を下げてくるツォッカ。うーん。どうしようかな。
ちょっと心を鬼にするか。感知で分かってるとしても、まだ完全に信用は出来ないし。
「じゃ、スパイとして魔王城に乗り込んでくれ」
顔を上げるツォッカ。明らかに戸惑いの表情が出ている。
「それはどういうことでしょう……?」
「言った通りだ」
誰も俺の言葉を遮る人はいなかった。あ、魔人か。ん? シーファは獣人でもないよな……。うぐぐ。世の中深いぜ。
なんでこんな命令をしたのか説明しよう。
一番は俺が彼を信用していないから。別にそこまでってもんじゃない。だから、これはツォッカを試す試練だ。
そう伝えると、ツォッカの顔が引き締まった。
もし裏切っていたとしても、これなら大丈夫だ。最低限離れられるし、帰ってこなかったら裏切られたと確信を持てる。
そして、戻ってきたら魔王の情報を持ち帰ってくれる。それが嘘だとしても感知でわかるからな。我ながらいい案だ。ツォッカには悪いけど。
「試練……! わかりました! 私が必ず魔王様の情報を持ち帰ってみせます」
ツォッカはそれだけ言うと、林の向こうへと消えていった。
「あー、ちょっとー」
呼び止めようとしたが、既にもうそこにはいない。もうちょっと話したかったのに……。
「はぁ、魔人と会うなんてついてないっすね」
ラズールは呑気に笑う。それを見て、ダスティンがため息をついた。
「お前、よくそんなこと言えるよな。普通だったら何百人と被害が出ているところだぞ? サトルたちに感謝すべきだ」
そうなの? 魔人ってそんなにやばいの?
俺の表情を読み取り、ダスティンは言う。
「魔人のこと知らないのか? 魔人というのはな、個体によると災害級のやつもいる超危険なやつだぞ。特にユニークスキルを持っている魔人が一番やばい。その時点で危険度はSだ」
カゲマル? おーい、カゲマルー。お前そんなに危険人物、いや危険魔人だったのか。
くそう。今はライラさんのところにいるから何も言えない。
っていうかカゲマルを従えてた俺ってなんなの?
ツォッカを跪かせた俺ってなんなの?
鳥獣人とかに信頼されてる俺ってなんなの?
俺の関わる人、誰も彼もがおかしい気がする。……気のせいだ!
「魔人と言っても、人間と有効に接するやつもいるそうだがな」
ダスティンの放った言葉に俺は頷いた。ツォッカがいい例だと思う。
「どこかには、影の中に入る魔人を使者する人間がいたそうだ。俺が知っている限りでは、そいつの名前はサトルというらしい。名前は似ているが、流石にお前じゃないよな。はっはっは!」
俺だわ。
とか言えるはずもなく。
〈サートールー〉
全身の毛が栗立つ。感知に引っかかり、俺は真上を見上げた。
空を覆い隠す、巨大な翼。
神々しく光る、純白の体。
鋭く尖る、紅い牙。
巨大な龍が、そこにいた。うん。プリンだ。
「おー。プリン、今までどこにいたんだ?」
〈あんたらに置いてかれてずっとチノ大草原のど真ん中で寝てましたけど、何か!?〉
ダメだこれ。
剣聖は突然のことに目を丸くしてるし。
よし。
逃げよう。
〈逃、が、さ、な、い、わ〉
きゃーー!!!!
助けてー!!!!
シーファの方を見る。彼女は、シロに追いかけられていた。シロも目覚めたらしい。なんというタイミングの悪さ!
地獄の鬼ごっこは日が暮れるまで続いた。




