第150話 魔人襲来
ヤバイヤバイヤバイ!
俺たちは草むらの中にいる。そして、剣聖に睨まれている。
なんだこの状況!
考えても無駄だ。と、いうことで俺たちは気配を完全に殺し剣聖の背後に回った。何故かって?
正面から行ったら攻撃されるだろ、あれ。だからあえて背後だ。驚くと思うけど、最初のうちだけと思うし。冷静になれば、俺たちが敵じゃないとわかってくれるはず。それで、謝る。
この作戦が失敗したのは、言うまでもない。
「え、ちょ、わぉ!?」
風魔法の風刃がいくつも飛んでくる。俺は咄嗟に火刃で相殺するが、残った風刃が襲いかかってきた。無理無理無理! 俺魔法系じゃないもん! ……嘘ついた。
まぁいざという時は変化で避けられるし、慌てることもないんだけどね。
そう考えていたが、何処ぞの美女がやらかしてしまった。
「サトルを襲う人は、誰だろうと許しません」
無詠唱で数百の風刃を一瞬にして出現させるシーファちゃん。やめておくれ。誤解が……。あがが。
流石にこれを見て、剣聖はビビったらしい。「なっ!?」と声に出して驚いている。
その後は、剣聖が急いで俺たちに飛来する風刃を消すように命令したため助かった。色々な意味で。
だけどちょっとイラっとしたな……!
「おい、突然魔法を打つのは人間としてやばいんじゃないか?」
意図せずに、本心が漏れてしまう。剣聖は唖然としていたが、突然弾けたかのように素早く頭を下げた。
最強の剣聖とその護衛から頭を下げられるこの現場。
「ん? あれ? なんでこんなことになってるんだっけ?」
考えてみれば、覗き見していた俺たちが悪いのでは? 犯罪みたいなことやってる人に出会い頭で魔法ぶっぱする方法は間違ってないんじゃないか? あれ? あれあれ?
マズイ。
訴えられたら見事に論破されそうだ。
よし、ここは許したふりをして現状突破しよう。それが最善だ。
出来るだけ明るい声で……。
「頭を上げてくれ。なんか、この現場を見られたらヤバイ気がする。あと、もう許したから大丈夫だ」
剣聖と護衛はゆっくりと頭を上げる。剣聖には僅かだが安堵の表情が浮かんでいた。そんなに俺って危険人物に見える? 酷くない?
少し心が傷ついたが、俺は何食わぬ顔で自己紹介をする。勿論、お友達になりたいからな。
え? 誰がキレたって? 俺は知らん。
「サトル殿にシーファ殿か。俺はダスティン。自慢ではないが、剣聖と呼ばれている。チカ大国の最高チカ部隊の団長だ。よろしく頼む」
「自分はラズールというっす。ダスティン様の護衛をしているっす。見た目はよく女性と言われるんですが、全然男性っす。よろっす」
確かに美人だな。あ、美男か。ううん、ややこしい! もしかしたら女性と勘違いされないためにこんな口調で話しているのかもな。
色々あったが、簡単な挨拶が終わる。俺はひとつ、何か引っかかっていた。
ダスティン……。
何処かで聞いたような……。
『ライラさんから聞いた話に出てきましたよ。なんでも、ギルドマスターにある一歩手前の逸材だったとか』
そうそう。ミィトとの僅差で惜しくもギルドマスターになれなかったって言ってたな。うん、この言い方失礼だわ。やめよ。
「そういえば、この大戦に加わると話を聞いたな。剣さばきを見てたが、真似できないような剣筋だった。流石は剣聖だ」
「ですよね! ダスティン様は『剣術の天才』という二つ名をお持ちなんっすよ」
興奮した様子でラズールが間に入ってくる。ダスティンは開きかけた口を閉じ、なんとも言えない顔でラズールを軽く睨みつけた。
「あ、あれ? 俺何か悪いことしましたっすか?」
ラズールは怪訝な表情だったが、ダスティンに指示され大人しく後ろへ下がった。
「さて、覗き見をしていたということは俺たちに何か用があったってことだよな?」
ぐぐっ。痛いところを突いてくる。まぁ正直に言うか。隠してもいいことなんてないし。
「ダスティンの剣を見て、俺は興味を惹かれた。すごく綺麗な剣で、俺も同じことをやってみたいと思った。だから、稽古をつけてほしい。お願いだ」
頭を下げる。先ほどと反対の立場に、ダスティンは戸惑っているようだった。やっぱ俺って変な風に見られてるの? おかしいなぁ。何もしてないのになぁ。
「い、いいぞ。だが……」
彼が何か言う前に、俺は身構えていた。
剣聖の背後から少し離れた場所に、赤髪の男がいる。頭の左右に角がついており、まさしく魔人って感じだ。それと裏腹に、目は穏やかな緑色。一見すると優しいお兄さんという印象なんだけどなぁ。
剣聖もそのことに気がつき、急いで振り返った。シーファはというと……あれ? シロ持ってるから何もできないと思ったんだけど、シロいなくね?
というか、さっきも風刃を出してたし。シロどこいった?
感知で探索すると、すぐ見つかった。俺たちがいた草むらの中に置いてきぼりになっている。……おい!
これ以上考えている暇もなさそうなので、俺は仕方なく赤髪に意識を集中させる。別に感知してたから無警戒とまではいかないけどな。
「ふふ、気がつかれていたようですね」
笑顔を零しながら、赤髪が近づいてくる。敵対心丸出しなんだけどな。
「俺たちと面識はないはずだが?」
剣聖が問う。襲いかかってくること前提で話しているが、俺たちにいつでも対応できる姿勢を取っていた。
俺たちは赤髪が歩み寄ってくる度に一歩下がっている。だからその距離は縮まない。
「私には、面識という壁を越えた使命がありますので。まぁその解釈は間違っておりませんが」
「なら、何の用だ?」
「おや。残念ながら剣聖殿に用はありません。私が命令されたのは、貴方たちをーー」
瞬間、シーファの目の前に赤髪が現れる。
「ーー殺すことですから」
警戒してたとはいえ、シーファに躱す余裕はない。何故なら相手は転移を使ってきたからだ。空間感知を持っていない限り、反応するのは難しいだろう。
ま、空間感知を持っている人がここにいるんだけどな!
単純な素早さでは間に合わないと踏み、俺はスライムに変化した。体の一部を切り離し、赤髪に向かって飛来させる。
赤髪はいち早くその危険性に気がつき、バックステップで避ける。俺のスライムは赤髪ギリギリをかすめていった。
「ふふ。危ない人物がいましたね。貴方がサトルですか」
スライムはべちゃりと音を立て、墜落した。地面が溶けていく音がする。酸を含んでいたのだ。
「俺の名を知っているのなら、そっちも名乗ったらどうだ?」
「これは失敬。私は、ツォッカと申します。以後、お見知り置きを」
ツォッカと名乗る魔人は、優雅に礼をする。だが、隙が見当たらなかった。
これは中々の強敵になりそうだ。
和樹との一戦もあったのに、なんだか最近は忙しいな。
俺は、そう呑気なことを考えるのであった。




