第149話 剣聖
全方位から襲いかかってくるオーク。冒険者2名はそれぞれの武器を構える。だが、流石にこの数は厳しいかもしれない。
あの剣さばきを見た後だからかなり期待はしてるけど。
丁度、彼らが戦っている場所に着いた。俺たちは草むらの中から様子を伺う。危なくなったら手助けするつもりだが、あの強さなら蹴散らせると思うんだよなぁ。
シーファは相変わらず頭の上にはてなマークを浮かべている。静かに見ろとしか説明していないが、まあ見ればわかると思う。
オークたちが斧を振り下ろす。冒険者2人は息を合わせ、手を前にかざした。光の結界が現れ、斧が根元からポッキリと折れる。強度が高いな。
っていうか、結界という手があったんだな。俺は結界とか知ったの最近だし、全然頭になかった。流石にあの数のオークは無理だよな。俺でも辛いし。
とか思ってた時期が俺にもありました。
空間感知に反応が。どうやら、1人が転移をしたらしい。転移場所は、オークたちから少し離れたところだ。逃げたのかと思ったが、すぐに詠唱を始めた。小規模な魔法を連射し、オークを殺していく。
1人が離脱したことで結界の維持ができなくなったのか、ガラスが割れるような音と共に結界が壊れた。
マズイッ!
そう思った俺を一蹴するかのように、取り残された冒険者は慌てることもなかった。
あ、あの人。
俺は気がつく。
オークに取り囲まれ、一見絶望的な状況の中に立っているあの人こそ剣術が神業レベルの冒険者じゃなかったか?
そう思った瞬間、オーク3匹の首が飛んだ。
何が起こったのかわからなかった。鑑定したところ、俺よりも遥かにステータスが劣っている。なのに、見えなかった。
俺はとある仮説にたどり着く。
彼の剣の軌道が完璧すぎて、見えないのではないだろうか?
人によって剣の形は違うと聞いたことがある。それぞれが自分に合う『剣の動き』を見つけるのだ。柔らかい剣を求める者もいれば、美しい剣を求める者もいる。そして、彼自身も『剣の動き』というものにたどり着いた。
自らの力を知り尽くしていないと実現できないことだ。俺もできていない。
ということがわかると、とてつもない力を手にすることができるのだ。それは、剣の力だけで見えないほどと錯覚するまでに。
簡単に言うと彼は剣の天才だ。
こう考えるのが、一番納得いくけど。
『あらかし合ってますよ。そんな感じです』
よかった。これで間違ってたら恥ずかしかった。
誰も聞いてる人がいないから恥ずかしいも何もないんだけどさ。あ、鑑定さんは論外ね。
そう考えると1人で話してる自分が悲しいな……。き、気にしない気にしない!
俺は大気感知で出来るだけ冒険者の剣の動きを把握しようと頑張る。そうしてみると、俺よりも剣の動かすスピードが遅いことが分かった。それでもかなり速いけどね。で、俺の目には見えてないってわけ。
これが才能の差か……。
悔しいとか、そういう感情など生まれてこなかった。尊敬の眼差しで俺は冒険者を見る。
『先ほどから冒険者と連呼していますが、あれは剣聖だと思いますよ』
え? そうなの?
でも剣聖って単語は知ってるけど、よくわからないんだよな。
『剣術にすぐれ奥義を極めた人が剣聖と呼ばれています。きっと、彼がこの大陸で一番剣術の才能がある方なんでしょうね』
とんでもない人でした。
だけど、そう言われるとさっきからの神業が納得いける。そうかー。剣聖だったのかー。
あ、じゃぁもう1人は?
『剣聖の護衛みたいなものでしょうか? 彼も中々の強さをお持ちですよ』
へぇ。あれだけの強さなら護衛とかいらなそうだけどね。
『そこは考えちゃいけないところです』
わかりましたー。
それで、戦場の方はというと。
護衛の人が魔法を的確に連射し、オークを惨殺していった。でもシーファの方がMPも高いし、魔法の打つ数が多いと思うけど。的確率は……護衛の方が上だな。シーファはばらまいて、相手の逃げ道をなくすスタイルだし。
そこは人それぞれとしよう。
剣聖の背後に忍び寄るオーク。それに気がついているかのように、剣を後ろへ回しオークの脳天を切り裂いた。即座にオークの頭から剣を抜き取り、隙だと勘違いして襲いかかってきたオークの首をチョンパする。
圧倒的な試合だった。横ではシーファが感嘆のため息を漏らしている。俺もそうだけどな!
ものの1分ほどで20匹のオークを殺し尽くした剣聖たち。巧みな剣術を見せつけられ、俺は興奮していた。
パキッ
あ。
シーファの方から音が聞こえる。
彼女は、小枝を踏んでいた。
剣聖たちが戦闘態勢をとりつつ、こちらを睨む。俺とシーファは草の中に隠れてて見えてないはずだが……。
俺はとある力に気がついてしまった。
これがお決まりパワーか……。
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剣聖ことダスティンは、軽くオークの群れを蹂躙し剣を収めようとしていた。
と、何か小さな音が聞こえた。それはとある草むらの中からだ。もしかしたら、増援の魔物かもしれない。
そんな思考を念話でラズールに伝える。彼は俺の護衛だが、この大陸では俺に次ぐ剣術の持ち主であった。
『わかりました。この際は無詠唱でいいっすよね?』
ラズールが聞いてくる。態度は軽々しいが、接してみればいい人だ。
『ああ。すぐに出せる風魔法で頼む』
そう指図し、俺は警戒を強めた。
草むらと睨み合って数十秒。いや、本当はもっと長かったかもしれない。急に俺は背後から話しかけられた。
「か、勝手に見てすいません! マジで悪気はなーー」
俺は驚き、即座に振り返る。そこには男と……翼の生えた美女がいた。美女は1匹の動物を抱えている。いや、もしくは魔物か?
一番驚愕したことは、気配を感知できなかったことだ。俺は今までそんな奴に会ったことなかった。表情には出していないが、心臓の鼓動が速くなっているのがわかる。
「ダスティン様ぁ!」
すぐさまラズールが俺と2人組の男女の間に入り、風魔法を連射する。
「え、ちょ、わぉ!?」
叫び声を上げ、男は無詠唱で火刃を出した。火刃はラズールの出した風刃と相殺するが、ラズールの方が球数は多い。相殺できなかった風刃が男女を襲う。
「サトルを襲う人は、誰だろうと許しません」
美女の援護魔法。それは、数百にも及ぶ数の風刃だった。
「なっ!?」
思わず声が出てしまう。
一体、こいつのMPはどうなっているんだ!
「ラズールッ! 風刃を消せ! 速くしろ!」
「は、はいっすっ!」
風刃は空気中に消え、溶けたかのようになくなった。
安全を確認したのか、空に浮かんでいた数百の風刃も消滅する。
魔法を発動した後に中断できるのは風魔法だけだ。そういう意味では、助かった。
「おい、突然魔法を打つのは人間としてやばいんじゃないか?」
少しキレ気味の男。
美女もヤバイが、ダスティンはこの男にこそ本物の恐怖を感じていた。
なにしろ、目の前にいる状況でもこの男の気配を感じられない。まるで、存在しないかのように。
全ての気配が遮断されており、さらに彼は全てを見透かすような目でこちらを見てきていた。
敵に回してはいけない。
本能が、そう警告を鳴らす。
俺はできるだけ素早く頭を下げた。ラズールはこの姿を見て目を見開いているだろう。
「すまなかった……。これは俺たちの不注意だ。どうか、許してくれ……!」
横目でラズールを睨むと、彼は慌てた様子で頭を下げた。
「ん? あれ? なんでこんなことになってるんだっけ?」
男は何やらぶつぶつと呟いていたが、やがて明るい声が返ってきた。
「頭を上げてくれ。なんか、この現場を見られたらヤバイ気がする。あと、もう許したから大丈夫だ」
そう、彼は言ったのだった。




