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第146話 動き出す魔王

新章です。

それだけです。

 黒と赤の2色で彩られた、立派な城。それは荒地に堂々と立っていた。


 城周辺は毒ガスが漂っているため、作物が育つことはない。それどころか、生命というものが存在しない。


 土は荒れ果てバキバキに乾燥し、近づいた生き物は汚染された空気に次々と倒れていく。自然の生き物の山が積み上がっているのが、その証拠だった。その山は、魔王直々に山 死山と名付けられている。そのまんまだ。


「あれー? フィラちゃん、どうしたの?」


 そして、今。死山で幼女が1人の魔人に向かって話しかける。魔人は跪いており、頭を深く垂れていた。


「陛下……すいません。たった1人の人間ごときに遅れを取ってしまい……っ」

「うーん、内容を説明してくれないとよくわからないよー 」

「なんたる失態っ。ここは私の首一つでーー」

「だから早く説明してってば。そういうのいいからさー」


 魔人はホッとした表情で、語りだす。


 とある人間が危険だということ。推測であるが、そいつが和樹を殺したということ。包み隠さず起こった出来事を全てを話した。


「和樹お兄様殺されちゃったの!?」

「…………」


 魔王様が驚愕に目を見開く。いや、本当は知っていたはずだ。生命反応で気がついていただろう。


 だがーー。


 一万年前から精神年齢が進まない魔王様には、理解できないことだった。


 全てはあの忌々しい死神の野郎のせいだ。魔王様に呪いをかけた、死神め……!


 と、今は死神に感情を浸らせている場合ではない。一刻も早くあの男の危険性を主張し、軍に動いてもらわなければ。


 正直言って、あれは化け物だ。


 そう、魔王様に伝える。


 一回剣を交えたことで、軍一つを壊滅できる程の力を持っていると確信を持てた。


 これは魔人としての勘だ。しかし、私の勘はよく当たる。それは魔王様も知っていることだった。


「でもなぁ。いくらフィラちゃんの勘が当たると言っても、何の恨みもないし」


 えぇー。


 ドン引きするが、決して表には出せない。その瞬間に消されることだろう。いや、絶対に消される。こればかりは勘ではない。


 だが、反論せずにはいられなかった。


「ですが、和樹様が殺されたのに何も感じないのですか?」

「魔王であるボクに意見する気?」


 魔王様の目がスッと細くなる。その瞳は全てを見透かしているようで、冷徹で、殺意が込められていた。私はすっかり怖気付いてしまう。身体中から嫌な汗が噴き出した。慌てて目をそらす。


「和樹にいちゃんは別にいなくなっても悲しくないよ。封印を解いてくれたことは感謝してるけど、それだけの関係でしょー? あれはただのーー」


 魔王様の声のトーンが低くなった。


(捨て駒)だよ」


 魔王様が笑顔に戻る。私の額には汗が滲んでいた。かといって、拭うこともできない。一ミリ動いただけで、《消滅》させられる気がしてならないのだ。それほど魔王様が出す威圧は凄まじかった。


「わかりました……っ」


 私はそこであることに気がつく。


「それと、1人魔人が寝返ったようです。それを含め、関係性があると判断しました。引き続き、あの男を調査いたしますか?」

「まあ一応お願いね。あれは今後の脅威になりかねないし」

「それは……どういうことですか?」

「知る必要はないよー。あ、今の聞いてた?」


 死山の後ろから1人の魔人が現れる。彼は赤髪で、頭の左右に角を生やしていた。それとは裏腹に、目は穏やかな緑色だ。


 その魔人は口元を緩め、爽やかな笑みを浮かべた。


「聞いていましたよ。私がその男を監視していればいいんですね?」

「いや。そんな回りくどいことはやめようかなぁ」

「ふふ、流石は魔王様。私の期待をいい意味で裏切ってくれます。わかりました。その役目、引き受けましょう」


 その会話を聞いた私は、思わず立ち上がっていた。


「わ、私が引き受けることはできないんですか……っ!? 何故、どうして!?」

「だから、言ったよね? ボクに意見することは許されないことだよ。2度目はないからね?」


 魔王様が指を鳴らす。パチンといい音が響いた。


 直後、何とも言えない違和感に襲われる。悲鳴をあげることもなく、意識は闇の中に落ちた。


「じゃぁ、あとは頼んだよー」


 そんな声を聞きながら、ゆっくりと。かつ急速に……。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふむ……和樹が死んだらしいな」


 赤髪の魔人が去った後、どこからともなく死神が姿を現した。魔王はその気配を察知できなかったことに多少驚きつつも、話を進める。


「そうだね。死神さんにとっては悲しいのかな?」

「ああ。貴重なユニークスキル持ちが殺されてしまったからな。もう余には、其方のスキルと彼奴のスキルくらいしか欲しいものがない」

「あれ? もしかして、ボク狙われてる?」

「さあ、どうなんだろうな?」


 死神はそう言い、視線を魔王から逸らす。


「しかし……今は殺しあう必要はないはずであろう?」

「うん。戦っても、どっちが勝つかわからないもんねー」


 幼女は幼女でも、長年魔王をやってきたことでそこらへんは理解できている。魔王としての威厳を保てとも言われてきているが……その言いつけはたまにしか守られないのだ。


「うーん、結局何しに来たのー?」

「それを言ったら本末転倒だろう」


 魔王の疑問を軽くあしらう。それだけで魔王は納得してしまった。まぁ、これ以上聞いても無駄だという判断からも来ているだろうが。


 余はやることをしっかりとやり、転移の準備をした。それに気がついた魔王は目を見開く。


「もう行っちゃうの? 少し遊んで行こうよー」

「また今度、たっぷり遊んでやろう」


 どちらも意味深な言葉であった。現状、魔王からは殺意が溢れ出ているし、余も警戒を怠っていない。ギリギリの関係なのだ。


 余は()()()()()という大事な仕事を終え、転移を発動したのだった。

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