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第15話 相打ち

 ……シーファに協力させるかさせないか、どうしよ?


 俺は必死に考える。ここでウルフの姿もゲットしておきたいし……まあ、リーダーは2人で倒すとして俺は最初に小さい方を殺っちゃいますか。


「シーファ。最初は小さいのから片付けるぞ。リーダーに気をつけてくれ」

「わかりました」


 何を考えているのか悟られないように小声で話す。スキルに言語理解はなかったとはいえ、狼だから頭が良さそう。ザ・偏見。


「ガウル!」


 リーダーの一言で、群れの1匹が茂みに飛び込んだ。なるほど、死角から襲うつもりか。


 シーファが魔力を込めるのを感じたので、俺も動き出した。


 リーダーに対して愚直に突っ込む。小馬鹿にするかのような目で大きく口を開けたビッグウルフだったが、その半歩手前で俺が軌道を変えたことにより、牙は虚しく宙を裂いた。すれ違う寸前、俺はニヤリと笑う。


 右方向に大きく踏み込み、リーダーの横にいたウルフは何も反応できずに首をはねられた。


 《ルーゲラウルフを倒しました。経験値102を獲得しました。レベルが33に上がりました。ルーゲラウルフに変化することが可能になりました》


 うぇーい。変化だぁ。久々だなぁ。


「グルル……!」


 リーダーは俺をキッと睨み付ける。


「敵は俺だけじゃないぜ?」


 俺が後ろに下がると詠唱を終えたシーファが、


「風圧変化!」


 と叫んだ。リーダーはようやくシーファが魔法を発動したことに気づく。周りの草むらが揺れ、驚いたウルフが飛び出してくる。すかさずシーファが混乱している一体に風刃を向けた。


「キャイン!」


 体に3つ全てヒットし、中身をもがれてウルフは絶命する。


 あとリーダーを合わせて3匹だな。余裕のよっちゃんだ。


 俺は残りのウルフ2匹を倒すために駆け出す。後ろからシーファの支援の風刃が飛んできた。俺には当たらずウルフたちの足元に刺さり、奴らの列を乱した。


「はっ!」


 剣を振るう。また1匹が何の抵抗を見せずに死んだ。


 《ルーゲラウルフを倒しました。経験値102を獲得しました》


 初めてレベルが上がらなかった。上がりが難しくなってるな。


 さらにシーファが風圧変化をしてくれたため、俺の背中に追い風が吹いた。これは大きい。素早さが跳ね上がる。もう1匹を倒す。残りはリーダーだけだ。


 《ルーゲラウルフを倒しました。経験値101を獲得しました》


 リーダーもといビッグウルフを睨む。


「シーファ。俺を魔法で支援してくれ」


 シーファがこくりと頷く。ここは欲を出さずに2人で倒そう。万が一のことを考えてな。俺は安全線を行きたいんだ。


「ガウウウウ」


 ビッグウルフは大きく唸る。仲間を倒されたからだろう。それも、自分を完全に無視して戦ったものだからその怒りは頂点に達しているはずだ。こっちも怒ってくれて平常心を失ってくれているなら嬉しいね。


「ガゥ!」


 ビッグウルフが飛びつく。こいつらってこのパターンしかないのかな。俺がやすやすと避けると、ビッグウルフはその先の地面に着地する。俺は無防備な背中を狙ったが、そこに土の壁が立ちはだかった。


  ーーウォールバリアか、


 まずい。向こう側にはシーファがいる。支援系のシーファは接近戦が苦手だ。ここは……。


 俺はルーゲラリトルベアーに変化し、その手に魔力を込める。渾身の一突きで土の壁を殴ると、ガラガラと音を立てて崩れた。その奥ではシーファがビッグウルフに倒され、馬乗りになっている。


「やめろおおぉぉ!」


 そのままもう一発、炎を宿らせた渾身の一突きでにアッパーをすると悲鳴をあげてビッグウルフは宙を舞った。


 《スキルぶっ飛ばしを獲得しました》


 さすがにビッグウルフは空中で体勢を立て直し、俺の攻撃に備えた。


 俺は地面を蹴り、空にいるビッグウルフへと迫る。真っ二つにしようと剣を振り上げたが、その瞬間ビッグウルフの周りに石が浮かんだ。


 見たことがないスキルだ……だとすると、ロックバーンか! ここは慎重に行った方がいいな……。


「ガオオ!」


 岩が飛んできて、思わず剣の腹で自らをガードする。うまく岩を受け止めたが、その次の爆発に対しては全く無防備だった。


 激しい衝撃。想像を絶する熱風に、肌が焼けていく。


「がっ!」


 地面を転がり、泥だらけになりながらもすぐに体勢を立て直す。体を動かすたびにみしりと嫌な音が立った。


 ようやく前を見据えた時には、ビッグウルフの姿は見当たらなかった。逃げたのか?そう思うが、こんなボロボロの絶好の獲物を逃す野生動物ーーもとい、野生魔物はいないだろう。


 シーファがうめき声をあげながら立ち上がる声が聞こえた。彼女は背後におり、それを俺が剣を構えながら守っているという感覚だ。幸いなことに、シーファのところには爆風が届いていなかった。


「さ、サトル!その怪我は……」


 シーファのヒールの温かみが体に染み渡っていく。その時一瞬気を緩めたのが悪かった。


「ガアア!」


 右から声。てっきり背後から来ると思っていたが、まさか右から来るとは。それも反応が遅れた原因だ。くそ、今の一瞬に……! 後悔するが、それで過去が変わることはない。


 再び剣でガードをすると、また岩が出現した。先ほどよりもかなり大きい。だが、これで奴はMPをほとんど消費してしまっているだろう。実を言うと、彼のMPはあと30ほどしか残っていなかった。もう何も打てないだろう。


 最大までMPを溜め込んだ岩が俺に飛んでくるーーそう思っていた矢先、急激に岩は方向を変え、シーファの方へと飛んで行った。


「なっ!?」


 汚いぞ、お前!


 シーファと岩の前に立ちはだかり、腕をめいいっぱい広げて、シーファに爆風が来ないようにする。それが、俺にめいいっぱいできる唯一の行動だった。


 岩にヒビが入り、光が漏れる。その間から熱風が届いた。


 世界が非常にゆっくりに見える。死ぬ前とはこんなものだったのだろうか? 覚悟して死ぬ時は、こんなに清々しいんだな。さっぱりしていて……。だが。せめて。



 絶対にシーファは守る。



 彼女は、俺が異世界で会った初めての人だ。俺が盾になっている間に逃げてくれるだろう。


 ……ついに岩が爆発した。その爆発が俺に届く前に、土の壁が現れる。ウォールバリア。それも、シーファの魔法だ。


 何故だ……?


 だが、所詮は土だ。すぐに崩れる。俺への衝撃を少しだけ弱らせただけだ。


 ……先ほどとは比べ物にならない熱風。皮膚がただれ、一部からは骨が見えた。もう生きられないだろうな。


 後ろのシーファには、全く熱が届いていないようだった。俺に何度もヒールをかけていたが、しまいには自分を土の壁で守っている。


 それでいいんだ、シーファ。


 しかし、その土の正面には小さな穴が空いていて、その中からしきりに俺に回復魔法をかけてくれていた。


 《ルーゲラビッグウルフを倒しました。経験値を303を獲得しました》


 自分の爆風で死んでしまったか。それほど俺が憎かったんだな。……ああ、パグはどんな顔をするだろうか。


 実は数秒だったが、俺には数分ほどに感じられた。そしてそのまま瞼が下されていく。爆風が止み、あたり一面が陥没している風景が見えた。そこに涙目のシーファが倒れた俺の上に姿をあらわす。


 ごめんな。シーファ。でも、お前も守れただけで俺は良かったよ。


 聞こえたかどうかわからない。震える手を精一杯伸ばすと、シーファが握ってくれた。


 ありがとう。


 握った手に力がこもらないことに気がついたシーファは、悟にすがりつき泣き続けた。

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