第140話 惚れちまうぜ
うむむ。
鑑定さん。
『なんでしょう?』
トイレしたい。
『は?』
いや本当に。ここ現実じゃないけど何故かトイレ行きたくなるんだって!
『すればいいじゃないですか』
トイレどこ?
『あるわけないですよね? ここですればいいじゃないですか』
でも鑑定さんが見てるでしょ? なんかなぁ。
『私がついてきているのはいつものことですよ。いつも普通にトイレしてたじゃないですか』
じゃないですか、でしめるのやめろ!
あ。
鑑定さんって俺が見ている景色しか見えないんだよね? じゃぁ上向けばいいのか。
『いつもやってるじゃないですか』
…………。
もう何も言わないぞ。
そして、服を脱ごうとする。
あり? これ脱げないぞ?
なんだかわからないが、服ががっちりと固定されていて脱げる感じがしない。なんでぇ!?
『どうやらこっちの世界では脱ぐことができないみたいですね。なら、早く戻った方がいいと思います』
そうだな。頑張ろう。
幸いのことに、先ほどと比べると亀裂は大きくなっていた。なんか、願っても無い時にバキッと言ったから超びびったけど。鑑定さんは外の力が関係してるかもって言ってた。誰かが俺に攻撃したってことかな?
っていうか元の世界の俺って何してんだろ?
……考えても無駄だな。今はここから出ることに専念しなくては。
出る出る出る出る出る出る出る出る出る出る出る出る出る。
バキッ
やった。今回は上手くいった。
よぉし、この調子だ!
とか思っていた時期が俺にもありました。
一瞬にしてあたりの気温が下がる。
ささささささささむい。
氷点下は優に超えてるぞ、これ。ちょ、火球火球!
ポスッ
魔法でねえぇぇぇぇ!
鑑定さん!
なんか解決策を!
『…………』
こんな時に黙るなああぁぁぁ!
そして、今度は気温が上昇した。
ああああああああつい。
砂漠の昼の気温優に超えてるぞ、これ。ちょ、水球水球!
……。
まずスキルになかったんだあぁぁぁぁ!
鑑定さん!
なんか解決策を!
『…………ぷっ』
笑うなあぁぁぁぁ!
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その頃、現実。
バキッ
今度は攻撃もしていないのに、龍にひびが入った。もう亀裂と呼んでいいだろう。かなり大きな亀裂が腹部に出来上がっている。
ミィトは龍が弱体化しているのを感じ取っていた。最初は見えないほど速い速度だったが、今は目で捉えることができる。そのため、反撃も可能になった。
爪を振りかぶった龍の小さな隙を見つけ、ミィトは魔法を叩き込む。
「氷結大爆発!」
見事命中した。
龍を中心にして、全てが凍りつく。これでかなりのダメージを負わせたはずだ。次はーー。
大爆発。
氷は砕け、代わりに爆風が吹きつけた。ミィトは目を細める。
龍は生きていた。
まあ、これぐらいで死なれたらこちらも拍子抜けしてしまうけれども。
しかし、亀裂は頭の上から右足にかけて走っていた。もう少しで、殻を破れるかもしれない。破った後に何があるのかはわからないが。
龍の視線の先は俺に向けられる。いや、違う。俺の後ろのものを見ている。
確認することはできない。そんなことをすれば、大きな隙を晒してしまうことは間違いないだろう。例えそこに何かがあったとしても、俺は見ることができない。
だから、ミィトは後ろに飛び退いた。10メートルほど下がる。すると、先ほどまでは見えなかったあるものが見えた。
「シーファ……!?」
血を流しているシーファと、雷獣だった。
前、悟から話を聞いた時はシロという犬が雷獣化のユニークスキルを持っていたと説明してくれた。今、シーファと倒れているやつがシロなのだろう。
ミィトは我に返り、前を向いた。
出来る限り注意していたのに、隙を見せてしまった。自分のこういうところが嫌いなのだ。
龍が攻撃する暇はいくらでもあった。なのに、やつはその場から一ミリも動かずにシーファを凝視している。
ミィトの頭にとある一節が浮かんだ。
仲間を思い出すことで、元に戻れるんじゃないか?
考える前に、行動していた。
「悟っ! いい加減目を覚ませ! お前がやっていることがわかるのか? 和樹を殺したのはいいことだ。しかし、同士討ちをするなんてお前らしくねーよ。そこんところ理解しろ。聞いてんのか、悟!」
パキッ
龍からは光が漏れ、亀裂が全身を駆け巡った。
全てを包み込んでしまいそうな、凄まじい光。目が開けられなくなる。ミィトは数歩後ろに下がり、腕で顔を守った。
数秒か、あるいは数分か。
光は時と共に弱くなっていった。
腕を下ろし、目を開ける。何回か瞬きを繰り返し、視界を確保した。
「……っ!」
龍の姿はなかった。元々龍がいた場所にはーー。
「悟」
彼がいた。
すぐさまぐったりとしている悟に駆け寄る。心臓の音を聞き、安心した。
意識を失っているだけだ。死んではいない。
自身の心臓が破裂してしまいそうだった。何故か分からないが、知らない感覚が心に芽生える。よくわからないため、その気持ちを抑えようとした。さっきの龍に付与された可能性だってある。感情付与などあれくらいになれば容易いだろう。
結果、抑えられなかった。
悟を前にし、ドキドキと心臓が波打つ。こんな経験、初めてだった。
一応ミィトは女である。多重人格のせいで男の人格を持ってしまっただけで、中は女子。口調がああなだけで、中は女子なのだ。そう、中は女子なのだ!(天の声)
「くっ。変な感情を付与されたみたいだな。しゃーねえ。帰ったら安静にでもしてるか」
ミィトはため息をつき、悟の体を揺すった。
「うーん……。あれ? ミィト?」
「ああ、俺だ」
「ありー? 草原にいたはずなんだけど……。あ、そうだ」
悟は何か思いついたような表情でミィトに言った。
「なんか空に大きな亀裂が入ったと思ったら吸い込まれたんだよな。祈ってもなかったのに、不思議だなぁ。よくあっちのシステムがわからん」
何を言っているのか理解できなかったが、取り敢えず無事に帰ってきたことを喜んだ方がいいだろう。
「……シーファは!?」
悟は起き上がり、辺りを見回す。シーファの姿を見つけ、駆け寄った。まるでミィトが先ほど悟に同じことをしたような光景だ。
「ミィト、薬とかないか?」
「あったらとっくに使っているだろ」
「そうか……」
「全員致死量の出血はしていないみたいだし、そのまま寝かせとけばなんとかなるんじゃねーか?」
「わかった」
悟と協力してシーファたちを運んだ。横一列に寝かせる。下は葉のため痛くはないはずだ。
「ミィトが助けてくれたのか?」
唐突に、悟が聞いてきた。
「そうだが?」
悟は笑みを見せる。
「ありがとな」
その笑顔は心に強く刺さった。心臓が跳ね上がる。心象を読み取られないように、ミィトは俯いた。
「当然のことをしたまでだ」
ぽつりと、そう一言だけ発した。
その時だった。
「いい感じのとこ悪いけど、邪魔するねー♪」
見覚えのある顔が目の前に現れた。




