第137話 決断
第2ラウンドが始まった。
シロは空をかけ、上から和樹の隙を伺っていた。
シーファは同じ高度まで飛んできて、俺の横に並ぶ。彼女の中の魔力が高まっていくのが感じられた。
『魔力感知を獲得しました』
なんかゲットした。
……お?
おお!?
ま、魔力が目に見える!
今までは何か感じるなー、程度だったんだが、今は煙のようなモヤモヤした魔力が目に見えるようになった。視界に支障を持たすのではないかと思ったけど、消えろと念じれば消える。便利や。
「そういえばなんですけど、私にお守りを貸していただけませんか?」
「……? お守りなんてあったっけか?」
「え?」
「え?」
そんな目で見られたら同じ言葉で返しちゃうでしょ。いや本当に悲しい人を見る目しないで欲しいんだけど。
「ライラさんに貰ったの……もう忘れたんですか?」
「んー? あっ、ああああーーー、あれね。思い出した思い出した」
そういえば魔除けの石みたいなの貰ったなぁ。シロが嫌がるからアイテムボックスの中にしまってるんだっけか。
「なんでシーファが?」
突然の疑問を投げかける。
「…………っ」
俺は全てを理解した。
「わかった。これは、シーファが持っとけ」
アイテムボックスから魔除けの石を取り出し、素早くシーファに預けた。あ、一度鑑定しとこ。
《聖石
邪気を払う力を持っている石。その力悪に使うべからず》
そうそう。完全に思い出した。謎の文だよな。俺にもあんまり意味はわからないけど、取り敢えず悪に渡すなってことだと思う。たぶん。
ーーなんか、変な感じ。
できるだけ敏速に済ませようとしたが、シロに感づかれてしまった。
「気のせいだ、気のせい」
シロの首の横をポンポンと叩く。シロは納得いっていなかった様子だったが、目の前の戦闘に集中することに決めたっぽい。
「僕を差し置いて会話とは余裕だねえ、ルトサくん」
気がつくと、和樹の刃が迫ってきていた。シロが後ろに反り返り、攻撃を回避する。
「くっ、和樹か……! 忘れてた……」
「…………」
無言の威圧。和樹の表情は笑っているけど、目は笑ってない!
なんかおかしいこと言ったかな?
「火刃!」
俺は魔法を放つ。
「雷球」
和樹も魔法を出したが、魔法攻撃ステータスは俺の方が高い。容易く雷球を消し飛ばし、和樹に迫った。
和樹は舌打ちをしながらも、双剣で火刃をうち消す。しかし、和樹が前を見た頃には俺が至近距離まで接近していた。あ、部位変化で飛んでるんだよ?
気を取り直して……完全に俺の間合いに入った。そして、和樹の双剣では剣を振り回しにくい間合い。
いける!
一気に攻める。俺の攻撃が続き、和樹は防戦一方となった。
俺が押している。しかし、和樹もなんらかの魔道具で抵抗してくるだろう。
その考えは、願ってもないのに叶うことになった。
「転移」
和樹の姿が消える。俺は切りかかった時の体勢で、大きくバランスを崩してしまった。
大気感知が背後に和樹が回ったことを感知する。いや、転移したと表せばいいだろう。和樹は双剣で俺の背中を浅く傷つけた。
ーーサトルには、触れさせない!
残念もう触れちゃってる。
と、シロが和樹に雷を落とした。しかも直撃。これは中々のダメージを食らったと思う。
「くそ、この犬!」
和樹のターゲットがシロに変わった。
ーーうわ、めんどくさ。
シロー。本音が漏れてるぞー。
そんなシロに、刃が襲いかかる。だが、二つの刃はシロに届く前に弾かれてしまった。
上からの魔法攻撃。見ると、シーファが高速で飛び回りながら何10つものの魔法を連射していた。流石はシーファ。俺もあんなことできない。
魔法の雨が和樹に向かって降り注ぐ。あれだけ魔法を打っているのいうのに、標準を和樹に合わせられるのが不思議だ。俺たちの方へ流れ弾すら来ない。
そして、何よりも美しかった。
って、見とれてる場合じゃないな。
剣で流したり、必死に避けたりしている和樹の腕に何かが絡みついた。土の手だ。それは和樹を地面まで引っ張っていき、背中から落ちた彼は地面に叩きつけられた。
「かはっ!」
血を吐く和樹。地面に落ちたことをいいことに、地上班が集中攻撃。ここでも土の手と影の手が和樹を押さえ込んでいる。そこに、ライラさんの剣攻撃が入った。
「うわあ、えげつね」
俺も本音が漏れてしまった。
「シーファ、もうトドメ刺しちゃうか?」
「はい。その方がいいと思います」
じゃ、いつものやっか。
と、思った矢先、和樹の様子が変わった。
和樹が赤く膨らんでいく。それが偽物だとわかるまでそう時間はかからなかった。
「お前ら、逃げーー」
衝撃、遅れて爆発音。紅の光は全てを包み込み、爆ぜた。
まただ。またこれだ。
さっきも同じようなことがあった。その時はまだ俺しか被害がなく、喉が損傷しただけだったが、今回は違う。仲間が、仲間が……。
立ち上がる黒煙。目を凝らす。
まずい。
俺は二つの意味で焦った。
一つは仲間の安全のこと。この爆発で無傷がいられるとは思わない。ましてや、1人は生身の人間だ。そう、ぶっちゃけライラはこの中で一番弱い。あの中では……最低でも気絶はしているかもしれないな。最悪の事態はまず考えることをよそう。
カゲマルも怪我をしているかもな。陰に潜ったとしても地面ごと抉られれば勿論ダメージは食らうし。
プリンは龍の鱗があるから大丈夫だと思う。あの中で一番防御力に安心があるのはプリンだ。きっと、大丈夫。
そして、二つ目の心配事。
大気感知が使えないことだ。
ここまで二酸化炭素が充満し、爆発されたんじゃ大気感知が使えない。一応風圧感知の能力も備わっているが、爆発直後のこの暴風の中だと使えものにならないのは明らかだということだ。
と、そんな俺の視界に飛び込んできたのは、和樹の姿だった。
「やあやあ、爆発ショーは楽しめてもらえたかな?」
「和樹……っ!」
できるだけ憎悪の念を含んだ視線で彼を睨む。
「こんなのして喜ぶのは正気じゃないお前くらいだぞ?」
けれども、和樹は物ともしないといった感じで会話を続けた。
「はは、そっか。でも、まだショーは続くんだよなぁ」
「っ!? それはどういう意味ーー」
和樹が赤い小さな粒を黒煙の中に落とした。俺に何かする暇もなく、粒は消え、次の瞬間。
2度目の轟音が鼓膜を揺さぶった。
部位変化で作っていた翼が制御不能になる。おかしな方向に飛びながら、墜落してしまった。
このままだと、シーファとシロも同じ目に……!
横で地面に何かが当たる音が聞こえる。暴風の中、薄く目を開けてそれを確認した。
血を流して横たわる、シーファとシロだった。空中でもみくちゃになり、受身も取れずに墜落してしまったのだ。
「そんな……嘘だろ?」
シーファに近づき、体を揺さぶる。かろうじて生きていたが、それだけだった。
風前の灯火。
それが一番合う言葉かもしれない。
シロも同じ結果だった。少なからず、彼女たちは時間が経てば死んでしまう。だから、だから。
俺が、俺が。
下から顎を蹴られた。後ろにひっくり返る。目の前には、和樹がいた。いつの間にか強風もやんでいる。
「無様だねぇ。さっきまではあれほど元気だったのに、どうしたのかなぁ?」
怒りが心の底から湧きあがってくるのを感じた。抑えようにも抑えられない。怒りでおかしくなりそうだった。自分の感情でないとすら、幻覚を覚えてきてしまうほどに。
【変化呪を、使用しますカ?】
またあのメッセージだ。
前、シーファが忠告してくれた。だけど、ここでは使わざるをえない。いや、使わないと俺の気が済まない。
【変化呪ヲ、使用シマスカ?】
俺は。俺は。俺は。
【ヘンゲジュヲ、シヨウシマスカ?】
変化呪を、使用する。




