第130話 誰だお前
「シーファ、ミィト、シロ、プリン! ここから離れろ!」
必死に声を飛ばす。何事かわかっていないようたが、彼女達はすぐ頷いてくれた。
「お前ら、出来るだけ遠く離れろ。このままじゃ爆風で全員お陀仏だぞ」
その中でも、最悪の事態が想像できたのはミィトだけだった。流石はギルドマスター。わかってらっしゃる。
人間離れした速さでシーファたちは下がっていく。俺は飛来してくる光線を避け続けた。
あと、1秒。
ハカイは気がついていないようだが、俺は最後の最後でやつに光線が直撃するよう、ハカイに背を向けた状態で一直線に並んでいた。俺がここから左右に避ければ、効果の切れた光線がハカイに向かって飛んでいくだろう。
……今だっ!
右に飛び退く。光線は俺を追尾せず、とんでもないスピードでハカイに迫った。
光線の中に火球を打ち込む。火球は光線の中に入っていった。これは保険だ。
ハカイはまるでそのことをよんでいたかというように、易々と躱してみせた。だが、俺のかけた保険の能力がここで発揮する。
ただ俺は、必中15%をかけただけ。あとは運頼みだ。
光線が、ハカイを追うように曲がったところを見て、俺は思わずガッツポーズをした。
成功だ。
何をしたかというと、さっきの火球が光線によって消滅させられる前に、光線ではなく火球自体へ必中15%をかけたということだ。
え? わからない?
じゃあもうちょっと詳しく説明しよう。
火球を光線の中に入れる。
まあそうすると、案の定火球の方が弱いから光線の熱量によって消えるだろ?
でも、完全に消える前に俺が火球に向かって必中15%をかける。すると、火球がハカイを追って方向を変える。それにつられて、光線も方向転換し、ハカイについていくということだ。ま、低確率だったから発動するかどうかはわからなかったけど。
お、もうそろそろハカイに当たりそうだな。
当然のことに驚いていたハカイは、体制を大きく崩す。そこに光線が当たった。これで仕上げだ!
火球を爆発させる。そして、風船のように光線が膨らみーー破裂した。
轟音と共に、爆風が俺に襲いかかってくる。それを吸い込まないように注意しながら、爆風を利用して後ろに下がった。上手く風に乗り、シーファたちがいる場所まで飛んだ。
「な、何をやったのですか……?」
わからないよな。ま、俺に説明をも止めろと言っても語彙力がないからここは黙っておこう。
「結構大ダメージだとは思うんだけどな……」
赤い球体は縮んでいき、最後に消滅した。よかった。あれが爆発してたらここら一帯更地になってた。
そう思って辺りを見回す。
すでに更地であった。
…………。
見なかったことにしよう。
「グォォ……」
なんと。
煙の中から出てくる影を発見し、俺は若干驚いた。
あれをくらって生きているなんて、俺でも難しい。そこは俺たちよりも格上だということなのだろう。
だが、俺たちは勝った。
「とどめ、やるぞ」
シーファに声をかける。やるのなら、特大の魔法で殺したほうがいい。中途半端だととんでもないどんでん返しをくらうかもしれないからな。
「グオォ……!」
ハカイはおぼつかない足取りで、俺たちに近づいてくる。しかし、途中でつまづき静かに倒れた。まだ、経験値取得の情報は入っていない。生きているのなら、処分するだけだ。
「グオ、グオ」
ハカイの目はまっすぐプリンに向いていた。まだこの中で一番戦闘経験が浅いプリンを狙おうとしているのだろうか。なら、危険だ。
俺はプリンの前に立ちはだかる。いや、正しくは立ちはだかろうとした。
それを遮った者がいる。それはハカイでもなく、プリン本人だった。
「ゴオゴオ」
プリンが前に出て、ハカイの場所まで歩み寄る。
「お、おい……。大丈夫なのか?」
プリンは一瞬だけこちらを見て、一つ頷いてみせた。魔物同士だから会話でもできるのか……? でも危険なことに変わりはない。いつでも聖柱をうてる準備をておくか。
魔力を宿していくと、シロに制止された。
ーーダメ。ハカイはもう戦う気がない。戦えても、プリンでも押さえつけられるよ。
ふーん。そこまでハカイは弱ってるのか。なら、心配することはないかもしれない。ま、警戒はしてよ。
「グォォ、グォォ、グオ」
「ゴォゴォ! ゴオォォ!」
何を会話しているのか。あ、シロなら通訳できるんじゃ?
ーー魔物と一緒にしないで。雷獣になれたりするけど結局は犬なんだから。
ごめんなさい。シロを魔物と決めつけた俺が悪かった。
何か進展があったのか、プリンは驚いた感情を露わにした。どうしたのかな?
「ゴオ!」
そして、嬉しそうに俺の元へと駆け寄ってくる。本当に何ですか? 理解して欲しいのなら魔物語勉強してくるから1年くらい待っててね。
俺はハカイを見つめる。やつの表情が緩んだような気がした。瞬間、ハカイの姿が光になって消える。ふぁ?
『これは極めて特別なのですが、魔物は心を許した者に力を与えると言われています。今の交渉で何らかがあったのでしょう』
適当だな。で、力を与えるって誰に?
元ハカイだった光は、プリンの体の中に吸収されていった。
プリンか。でも、何が起こるっていうんだ?
「あれ? 急に曇ってきましたね……」
シーファが空を仰ぐ。空は薄暗くなっていた。夜になったわけでもなく、ただ分厚い雲が青い空を隠してしまっている。なんか怖いんですけど。
「何かが起こるんじゃねーのか? つーかあれって大丈夫なのかよ」
ミィトが言う。一応離れておいたほうがいいかな?
と、プリンの様子が変わった。何度も雄叫びを繰り返し、空に向かって吠えている。ホント謎。
「ゴオ! ゴオォォォ! ゴオォォォォン!」
鳴き声がたくましくなったような気がした。いや、気のせいじゃない!
プリンの体が大きくなっていく。もともと小柄だったプリンが、俺の身長を越してもなおどんどん大きくなっていった。これ、シロの雷獣と同じくらいの高さがあるんじゃないか?
プリンの爪が大きくなり、鋭く尖る。口はこれまた鋭い牙が生え、眼光はまたまた鋭く光る。この文だけで俺の語彙力がわかる悲しさよ。
と、いう冗談は終わりにして……。
以前の可愛さがなくなったプリン。ま、一言で表すと立派な龍でございます。ありがとうございましたー。
〈進化できましたわ! 悟さんたち、本当にありがとうございます!〉
そして、俺たちはプリンの膨張が止まった直後に叫んだ。
「「「マジでお前誰だあぁぁぁぁぁ!」」」




