第126話 ハカイ再来
「和樹どこじゃあぁぁい!」
とりあえず大声を出してみたが、隣にいたシロがギョッとするだけで他は何もなかった。
ーー馬鹿なの? 自分の位置をわざわざ知らせてるじゃん。
それを言わないでくれ。
ーーそれに、和樹をぶっ飛ばしたのは悟でしょ?
大事なことだからもう一回言うぞ。それを言わないでくれ。
俺だってぶっ飛ばしたくてぶっ飛ばしたわけじゃーーあ、和樹って敵だからぶっ飛ばしてもいいのか。
ーー傷が癒えないうちに和樹を探さなきゃいけないんだから。そのために分かれて行動しているだよ。
そう。俺たちは別々で和樹を探している。和樹が飛んでいった方向を重点的に調べているが、仲間からも見つかったという連絡はない。和樹を見つけた時は真上へ盛大に魔法をぶっ放せばいいんだとよ。確かに気づくけどさぁ。
ま、俺が考えたんだけどね。MPが無駄になるこの行為を。
「シロの嗅覚では何も感じられないか?」
ーーうん。臭くて何もわかんない。
「え? 何が臭いの?」
ーー悟。
お、俺? なんで?
ーーなんでって、風呂入ってないでしょ。そりゃ臭いって。
さらっと酷いこと言ったぞこのわんこめ。さすがの俺でも少し傷つくなぁ。じゃぁずっと臭いまま移動していたってこと? ぐぐぐ、もっとはやく言ってくれ。
ーー悟は自分のことをわかっている上で行動してたかと思ったから。
こいつ……!
ま、ここで喧嘩したって仕方がないよね。でも和樹を倒したら風呂いこ。全速力で走って戻るわ。いや、逃げるわ。
「グオォォォォォォン!!」
突如けたたましい雄叫びが響き、何かが急速に迫ってきた。俺は大気感知だけで感じ取り、シロを抱えて横に飛び退く。すぐ後ろで地面が陥没したのがわかった。
転がりながらも態勢を立てなおし、俺を襲ってきたやつの方向へ目を向ける。
「お前か……ハカイっ!」
「ガアッ!」
ご名答。
そういうかのように、ハカイは鳴いた。
これってもしかして意思通じができるんじゃないか?
そう思った時期が俺にもあった。
「なーー」(解:なあ。こんなことはやめにして、少し同伴してくれないか?)
ハカイが尾をふるい、俺たちに攻撃を仕掛けてきたのである。酷い! 俺まだ一文字しか言ってないぞ!
試しに尾を剣で受け止めてみた。その結果、衝撃で後方へ飛ばされた。力の差はかなりあるようだ。
鑑定を試そうとするが、ハカイはそんな時間さえ与えてはくれない。次々に放つ連続攻撃に、俺は押され気味だった。と、いうよりも完全に押されていた。防戦一方だ。それも、少し手元が狂えば自身の命が失ってしまうという窮地に立たされている。
「ガア!」
雷がはるか天空から落ちてくる。それに危険を感じたのか、ハカイは一歩後ろへ飛び退いた。先ほどまでハカイがいた場所に雷が降り、地面は黒焦げになる。シロは俺の隣に来て頬を舐めてくれた。
ーー大丈夫。
そっか。そうだよな。
俺は1人じゃない。
シロと力を合わせれば、この場を切り抜けられるはずだ。
「変化!」
俺はルーゲラウルフに変化し、地をかけた。後ろからは桁違いのスピードでハカイが追ってくる。そのまた後ろは雷地獄。ハカイは逃げながらも俺を追ってきているのだ。
「これでも、くらえ!」
人間の姿に戻った俺はギルドカードを投げつけた。殆ど期待はしていなかったが、突然の反撃に驚いたのかハカイは目を丸くする。そして、腕でガードをした。大したことのない武器だと思ったのだろう。
「残念」
ギルドカードはハカイの固い鱗を突破し、肉を傷つけた。そのせいでハカイのスピードが落ち、雷地獄へ入る。シロの雷が直撃し、さらには押さえつけられた。
ーー今だよ!
俺は足で踏ん張り、摩擦で今までのスピードを殺した。180度向きを反転させてハカイの元へ全速力で向かう。跳脚し、剣を振り上げた。
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「はぁ〜、約束の時間でも伝えとけばよかったなぁ」
そう言ってチノ大草原のど真ん中でため息をつくのは和樹だ。そういえば場所も言っていなかったし、決闘の時間さえ伝えていないし。思い出して憂鬱な気分になっているのだ。もしかしたら一生ここに来ないかもしれない。
「でも、自分から行くのは面倒臭いし」
その気になればものの数分でルトサたちを見つけられるだろう。そのための魔道具なら腐るほどある。だが、使う気になれなかった。決闘で使う可能性があったからだ。
「……?」
何か小さな影を見つけた。それは空からやってくる。ルトサかと思ったが、全く違った。
「なんだ、ゲリスか」
カラスの魔物ーーゲリスだ。こいつは僕のためにいい情報をたんまりと持って来てくれる情報屋だ。勿論僕が改造したカラスだけどね。素早さもこれでもかというくらいあげて、情報だけにこだわる作品に仕上げた。自分でもなかなかの出来だと思う。
ゲリスは人間の姿に変身した。こうしないと喋れないのだ。
「ゲリス、今回はどうしたのかな? 言ってごらん」
「は。チノ大草原にターゲットが侵入してきました。数は全部で5。ターゲット以外にも魔物が2匹とミィトがいます」
「へぇ。ミィトちゃんが」
和樹は驚いたような表情を一瞬だけ浮かべたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。和樹はへらへらと笑いながら続ける。
「楽しみだなあ。ミィトちゃんがどれだけ成長したのか確認したいところだったし。決闘とか言っちゃったけど、別に複数人相手でも僕は死なないよね」
「和樹様のお力であれば必ずしもあのゴミたちを地獄へ葬り去れるでしょう。複数人同時相手でも問題ないと思われます」
「あはは。お世辞がきくね。じゃ、そうしようかな」
ゲリスは一礼し、元の姿に戻って大空へと消えていく。と、またその方角から何かが現れた。
他の情報を伝えるのを忘れちゃったのかな?
僕はその場でゲリスが戻るのを待つ。
そこで、何か違和感を感じた。
ゲリスにしては大きい。……ワイバーンのような面影もある。いや、考えすぎか。
絶対ワイバーンだっ!
その上にはスライムがのっているようだった。やつは巧みにワイバーンの体を操り、こちらに向かわせている。ワイバーンはボロボロで、戦う気力がないみたいだ。スライムの思うがままになっていた。
「ちょっーー」
あまりにも唐突のことで反応ができなかった。
「ボウリングゥゥゥ!」
聞き覚えのある声。吹っ飛ばされる瞬間、僕は見た。スライムが、ルトサに変わるところを。
そして、僕とルトサの距離は離れていった。




