第119話 シーファの決意
ショックが抜けきれないが、レジャーシートがなんだ!
そんなもん俺知らない! レジャーシート? なにそれ美味しいの?
はぁ、食糧補給したし次の魔物行くかな。
「あの……」
「ん?」
声をかけてきたのはシーファだった。俺と視線を合わせようとせず、俯いている。
「先ほど空へ飛んだとき、人に見られてしまったかもしれません……。気をつけていたのですが、すいません」
ぺこりと頭を下げるシーファ。でも、相手が強敵だったので仕方がないことだ。
「別に大丈夫だ。でさ、その見られたっていう人は誰だった?」
「遠くてあまりわかりませんでしたが、図体が大きくて巨大な武器を振り回していて、敵の大群の中に突っ込んでいました」
あれー? なんか覚えがあるぞぉ。
敵に突っ込むとか言ってたギルマスいたよなぁ。
あの馬鹿だあぁぁぁ!!!
ズートめ……。あれは却下されたのになんで1人で突っ込んでるんだよ。死ぬぞ?
他の人にペラペラ喋られたら困るな。あ、でもあいつ馬鹿だけど約束守る主義はあるんだっけか。誰かに言う前に口封じしとくか。
広がったら広がったで何か考えればいいし。ま、一番心配してるのは張本人のシーファだろ。翼を見られて罵られることが怖いんだろうな。
そんな俺は、
「うん、大体わかったわ」
とだけ返しといた。
「わんわんっ!」
シロが「撫でて!」と言わんばかりに頭を擦り付けてくる。俺は撫でる前に1つだけ言っておいた。
「お前、プリン忘れんじゃないぞ。結構危なかったんだからな」
「くぅん……」
か、か、可愛いっ!
よし、許そう。
シロを抱きしめた俺をプリンが白い目で見てくるけど気にしない気にしない。
「ここにいた気がするんだけど……」
俺はシーファを見る。彼女は首を左右に振った。シーファは何もしゃべっていないようだ。当然俺とシーファ以外に言葉を発せるやつはいないので、誰かが来ているということだ。そして、何かを探しているらしい。
「シーファ、ローブを着ろ」
コクリと頷き、ローブを羽織っていく。シーファの翼がすっぽりとかくれた。ついでに獣耳も。
「んー、あ、誰かいる!」
女性の声だな……って呑気に言ってる場合じゃないって! 見つかってる! 見つかってる!
隠れようとするが、もう遅かった。女性と男性の2人組が木々の間から姿を現す。
「やっぱり! 翼が生えていたのって、君だよね!?」
女性が笑顔を咲かせてシーファに視線を送る。シーファは困惑していた。どう答えればいいかわからないらしい。
「でもさ、見間違いじゃないか? 翼が生えている獣人だなんて聞いたことがないし……まずここに獣人がいることから可笑しいだろ?」
男性は冷静に言う。
「そうかなぁ。そうだ、あたしはアゲハ!」
「俺はスイム。飛んでいる人を見たって言われてこいつに言われるがままについてきたんだけど……、気のせいだったかな」
「絶対見たと思ったんだけど……」
一応俺たちも自己紹介をした。
で、ここは俺が関与するところじゃない。シーファの問題だ。ということで少し後ろに下がる。
助けを求めてくるシーファの目線に合わせ、俺は1つだけ頷いてみせた。シーファはその意味をしっかりと受け取り、前を向く。彼女の中ではもう決意という文字が完成しているようだった。
「それ、私ですよ」
たった一言。それだけで、アゲハは満面の笑みを見せる。
「ほらね! あたしの言った通り」
彼女は自信満々だったようで、胸をそらしながら高らかに笑った。
「だけど、どうして翼なんかが生えてるんだ? ほら、獣人が人間の街の近くにいること自体あれだし……。えーと……」
男性はシーファを傷つけないように言葉を選んでいるみたいだったが、それから先が思い浮かばずに変に悪い空気を作ってしまった。
そこで、何かを感知する。大気感知に引っかかったのだ。でも、俺は静かに目を閉じ、ことの成り行きを見守ることしかできない。
「私は小さい頃に、魔物と融合されこんな翼が生えてしまいました。生きる希望を失い、ある人に罵られ、殴られ、蹴られ、私はもう人生を諦めていました。私なんか生まれなければよかったのだと」
シーファは2人組の反応を確かめてから、続きを語る。
く、空気が重いぞ。
「ですが、そんな私を救ってくれた方がいました。絶望に打ちひしがれていた私に、手を差し伸べてくれたのです!」
お。
「サトルです。こんな私を救ってくれたのです」
うふふ。そこまで言われると嬉しいぞ。
「サトルくんは優しいんだね」
アゲハが納得したように、首を縦に振った。
「私は人に翼を見られてしまいました……。これからどうすればいいのでしょう」
「? どうしてだい?」
スイムは聞く。シーファは首を傾げた。
「どうしてって、私は人間でも獣人でもないのですよ? こんな化け物を放っておいて、どうする気ですか?」
スイムとアゲハは顔を見合わせーー吹き出した。
「あははははっ! 何言ってるの! あたしたちがシーファちゃんを化け物だなんて思ってるって、ずっと考えていたの?」
アゲハが笑い転げる。
「え? え?」
シーファはあたふたする。
「これは俺の勝手な考えだけど、見た目がどうこうじゃないと思う。肝心なのは中身だ。まだシーファちゃんのことを罵ったり、暴力を振るう奴がいるかもしれないけど、必ずしもそんな人間がいるとは限らないんだよ」
「そうそう。もっと自分に自信を持って!」
「アゲハさんっ……スイムさんっ……」
シーファはぐっと何かを堪えているようだった。
「ですが、貴方たち2人が私を認めようが、何も変わりません。私の立場は変わらないのです」
「それはどうかな?」
スイムが辺りに視線をやる。木の陰に隠れていた冒険者たちが出てきた。それも、ざっと100人。俺は気がついていたけどな。
「な、何故……」
俺たちを囲むように現れた冒険者に戸惑いを隠せないシーファ。
「みんな、君の姿を見ていたんだ」
「うん。すごいかっこよかったよ」
スイムとアゲハの言葉がきっかけになったのか、次々と冒険者が口を開いていく。
「お前らの魔法すごいなっ!」
「とんでもない魔力が渦巻いていると思って見てみたら、シーファちゃんたちがいたんだ!」
「俺は戦闘も見てたぞ! ぐちゃぐちゃしてる魔物を殺してたよな!」
「シーファちゃんは何も悪くないぞ! 悪いのはそれをつけたやつらだ!」
「シーファ! シーファ! シーファ!」
いつのまにか、シーファコールであたりが沸き返っていた。
「みなさん……」
シーファは目を拭い、微笑んで見せた。
「私はっ、この上なく幸せでっ、嬉しいです!」
ひときわ大きい歓声が上がった。




