第114話 信頼
前半はカゲマル視点、後半はライラ視点です。
ライラは黙る。沈黙が辺りを支配した。シロも、プリンも空気を読んだのか一言も発しない。カゲマルは息を呑み、ライラの顔をじっと見つめた。
「信じる……わけにもいかない」
絞り出すように出した答えはそれだった。
「今まで魔物と戦ってきて、魔人の言うことを信じろと言われても……な。この話を信じることで歴史も変わっていきそうだ。今の私には判断しがたい」
ライラは目を閉じる。警戒の糸は切っていないが、少し信用されたらしい。
「サトルが魔人をつかえてたとはな……。今度聞いてみるとしよう。だがーー」
「……?」
彼女は目を開け、きっぱりといった。
「味方なら味方ではっきりさせる。だから、私の護衛をすること」
「何を言っている」
「そのままの意味だ。今回の戦争の中で、私の護衛をすると命令する。そうすれば、私も他の者を巻き込まずに済む。そして、このことでお前を滴下見方がある程度は認識できる」
「ほう。いい案だ。乗った」
「警戒はしないんだな?」
「ああ。これで人間に敵だと認識されないのであれば、本望だ」
ライラに近づく。一歩近づくたびに、彼女の眼光が鋭くなったが構わない。ライラの影の中に無事入ることができた。
「犬とテイムされているミニドラゴンはどうする?」
「シロとプリンだ。そいつらは……」
ーーシロは大丈夫! 2人で頑張って!
「ゴォ!」
シロたちはいいらしい。少しシロの発言が気になるのだが、今追求している暇はない。
「お前たちは、悟様たちと合流だ」
ーーわかった!
シロとプリンは仲良く一緒に走っていく。その姿が見えなくなると、ライラは自身の影を見つめてふっと息を吐いた。
「魔人と行動が共になるなんて、この世界では私が1番目だろうな」
「最初は和樹だ。その次が悟様。そう考えると、ライラは3番目だ」
「なんだ、そうなのか……」
人類初の快挙として少し舞い上がっていたのだろう。無駄な一言だったかもしれない。
「そうだ。他にお前が魔人だということを知っている奴はいるのか?」
「悟様たちパーティーの人は全員知っている。それと、ミィトにも話したことがある」
その一言で、明らかにライラの反応が変わった。
「み、ミィト様も知っているのか!? それで、ミィト様はなんと……」
「ちゃんと俺が悟様のパーティーの一員であることを認めてくれた。だが、人前では出るなと言われている」
「何故私の前に現れた?」
「人助けをしてこいと悟様に言われたからだ。そこで、苦戦しているお前を見つけた」
「……名前は?」
「悟様からつけられた名前で、カゲマルという」
「カゲマルか……今から私はお前のことをカゲマルと呼ぶ。だから、私のこともライラと呼んでくれ」
「ああ」
ライラの目線は上に上がる。もう会話の必要がないと決断したからだ。
そうーー大きな魔物が遠くに見えたからだ。
次の獲物はあれに決まったらしい。カゲマルは影の中から目を凝らした。きっと、ジィコウモリだ。大きな体長で、台風のような風を巻き起こしながら地面すれすれを低空飛行する厄介な魔物だ。主に夜に行動する魔物だが昼間も動くやつがいる。夜の時よりかは弱くなるが、脅威となりかねない魔物だ。
「ん?」
ジィコウモリは何かから逃げているように感じた。ライラもそのことに気がついたようだ。
魔物は右に左へと縦断しながらどんどん近づいてくる。やがてそれを追いかけている人が見えた。
「まてぇ! コウモリ!」
悟様だった。
「火球!」
ジィコウモリは火球を器用に交わすが、別方向から来た闇球三発をもろにくらってしまっていた。それでも、ジィコウモリは必死で逃げている。
「くそ、無駄に防御力が高いなぁ! あ、おい! 逃げんなっーー」
急に旋回したジィコウモリに体当たりされ、吹っ飛ばされる悟様。しかし、空中で態勢を整えて華麗に着地した。
悟様は右手を挙げる。
ジィコウモリの地面に魔法陣が現れた。即座にそのヤバさに気がついたジィコウモリは、移動して逃げたが魔法陣はその後をついて行く。
衝撃と共に、聖柱が勢いよく魔法陣から飛び出した。聖柱はジィコウモリは焼き、灰にし、灰すらも残さず全てを消滅させた。相変わらず半端ではない威力だ。流石は悟様。
「カゲマルの主ーーサトルってやばいな」
「既に知っている」
苦笑いし、影の中から返事を返した。
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私はライラ。今日、珍しいものにあった。
魔人だ。
彼は人の味方だと言ったが、私は信じられなかった。魔人が人間側につくなど聞いたこともなかったからだ。でも、その考えは『カゲマル』と行動することでゆっくりと一変していった。
魔物に囲まれた時があったが、カゲマルはきちんとサポートをしてくれた。影の中から私の四角の場所の状態を教えてくれたり、背後からの攻撃を剣で受けてくれた。そして、私の剣が避けられないように影から真っ黒な手を複数だして敵を拘束したのだった。
凄く戦いやすかった。彼は裏切ることすらしなかったし、私の討伐時間も先ほどと比べて3倍は減っている。疲労もあんまり感じられなくなった。カゲマルが取りこぼしの魔物を討伐してくれているからだ。それに、手際よく討伐部位すら回収していく。
「中々使えるのだな」
「悟様につかえている身だ。これくらい、当たり前のことだが」
「そうなのか」
「……?」
私は影から出てたカゲマルに対して、深く頭を下げた。
「本当にすまなかった……。私の勘違いで……」
「何故だ? これだけのことで、まだ俺が人の味方だということはわからないだろう」
「敵意すら感じられない。それに、私のユニークスキルの敵意感知が発動していなかったことがおかしかったんだ」
敵意感知。名前の通り、少しでも敵意を持っていれば反応するスキルだ。
「ここは騎士団長の首一つで許してくれないか……っ!」
「いやいらない」
「なっ!?」
茶番は終わり(ライラは本気だった)、ライラとカゲマルの間に信頼というものが生まれたのだった。




