第113話 人助け(カゲマル視点)
カゲマルはシロの影に入っていた。外に出たら魔物として切りつけられるからだ。ミニドラゴンのプリンは、テイムされている魔物の証として腕に金色の輪がついていた。俺もそれをつければ冒険者に襲われないで済むだろうか……?
いや、魔人がテイムされるという話は聞いたことがない。騙しているのかと冒険者に勘違いされてしまう。
カゲマルはそんなことを考えながら、戦っている冒険者の方向へ行くように指示した。
「わんっ!」
シロはかけていく。少し先に、魔物と戦闘している冒険者がいた。疲労しているのか、肩で息をしている。魔物の一撃も全身の体重を乗せて受け止めていた。あれでは魔物が剣筋を変えただけで前のめりになり隙が生まれてしまう。このままほっといておいてもおそらく冒険者は力尽きるだろう。
シロもそのことに気がついたのか、その冒険者の元へと走っていく。
女性だった。騎士の鎧を着ている。それに、見たことがある顔だ。ライラ……だったか。
近くにより、改めてよく見るとその剣筋はなかなかのものだと悟ることができた。だが、押されているのに変わりはない。相手はゴーレムだ。石で作られているので、防御力が高く一撃も重い。疲労している彼女には分の悪い魔物だ。
「シロ殿、注意をこっちに向かせてくれないか」
「わん!」
ーー任せて!
シロの体から電気が迸る。地面を伝ってそれはゴーレムに直撃した。
電気属性は地面に弱い。効果的ではないが、注意をひくことには成功したようだ。ゴーレムは顔をこちらへ向ける。ライラはその隙をついて一歩踏み出した。
剣が、空を切る音がした。
ゴーレムの手が切断される。剣はきちんと手の腕の節目を狙っていた。素晴らしいコントロールだ。
切り離された手は衝撃を与えながら地面に落ちる。しかし、すぐに宙に浮かび上がって元の手の位置へと戻って行った。再生能力が高いらしい。
「これは雷獣化するしかないな」
カゲマルの声を聞いて、シロは雷獣化のユニークスキルを発動させた。体がどんどん膨張し、体長が何十倍にもなる。ライラは驚いていたが、攻撃はしてこなかった。敵意は感じられなかったからだ。
「プリン殿もブレスで援護してくれ。俺も出る」
決意を決めた瞬間だった。
体が大きくなったシロの影から出てくる。ここではシロの巨体でライラからはちょうど四角だ。
もし、俺のことを敵だと思い襲いかかってきたらどうするか。シロは大丈夫だったが、魔人の俺だとどうなるのか。
どうしても不安がよぎってしまう。
人間の敵の魔人に助けられても、嬉しく思う奴なんていないんじゃないか。何をやっても無駄なんじゃないか。
脳に募っていくものを無理やり追い払い、カゲマルは前を向いた。シロは顔をほんの少しだけ後ろに回し、カゲマルのことを見てくる。まるで心配しているかのようだった。
「俺はいい。ゴーレムに集中しろ」
ーー……わかった。
間があり、シロは念話を送る。
これは俺自身の問題だといつも思い続けていた。悟様やシーファ殿でも、人の信頼を勝ち取るのは難しい。試行錯誤があって、さらに勇気があってこそ初めて人は認められるのだ。それは魔人も同じこと。自分が動かなければ、運命は変えれない。
カゲマルは大きく深呼吸をして、シロの上に飛び乗った。黒い剣を抜く。剣にオーラをかぶせた。それに気がつき、ライラはこちらを向く。カゲマルが魔人だということを認識すると、警戒の念が寄せられた。
警戒されたっていい。これが、俺の第一歩だ。
カゲマルの視線はライラからゴーレムへと移動する。剣のオーラはヤバイと感じられたのか、ゴーレムは逃げようとした。その動きは遅い。これがゴーレムの欠点だ。こいつは知能が低くて助かった。頭がいい奴はこれを見ても襲いかかってくる。その時が厄介なのだ。
「全く……命令を死ぬまで守るというのがゴーレムだろう」
落胆のため息をつき、剣を一振り。オーラが竜巻のように疼き、ゴーレムを巻き込んだ。ゴーレルは苦痛の声すら出さずに全身を切り刻まれていく。そして、竜巻が消えてころには地面に転がった魔石以外、何も残ってはいなかった。
「お前……私を嘲笑っているのか? 私が容易に倒せない魔物を目の前で殺して、次は私の番だとでも?」
ライラが声を出した。シロの体が縮んでいく。今回は必要なかったようだ。
「違う。俺は、人間の味方だ」
「人間の味方? 私が騎士団長をやってきて、魔人が人間側に着くという話なんて一回も聞いたことない」
やはり、そうだったか。
ならばとカゲマルはシロに目配せする。シロは短く鳴くと、ライラに近づいた。
「ん? 君は……サトルが連れていた犬か? なぜこいつと一緒に……」
シロは素早い動作でライラに飛びつくと、その肩に登った。
「お、おいっ、何をしているっ!」
ライラは慌てる。シロの体から電気が出ていたからだ。その電力は弱々しいが。
ライラの体に電気が流れたのがわかった。彼女はシロを振り落とそうともがくが、ステータスの高いシロを落とすのは容易ではない。
「し、痺れ……ない?」
あれ? という顔をしてシロを見つめるライラ。
「わん!」
ーー疲れがなくなったでしょ?
「え? 声が……。それにさっきの姿も……。って、疲労がある程度なくなってる!?」
ライラは気がついたようだ。これは悟様が知っていたものだが、『電気マッサージ』というものらしい。シロにやってもらったら結構いけたという理由で、一つの手段として使えと言われていた。それが効果的だったっぽい。
「だが……サトルの犬がなんで魔人のお前にくっつているんだ?」
カゲマルは事情を説明した。自分が悟様につかえていることだって、正直に話した。騎士団長のライラに信頼して貰えば、他の人にも信頼される可能性があると信じたからだ。
全てを話し終わる。あとは、彼女の反応を待つだけだ。




