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〜死神の思考3〜

 まさか、こんなに早く付与した恐怖を克服するなんて思ってもいなかった。


 死神ことテズは、例の部屋で奥歯を噛みしめる。憎たらしげな顔で水晶に映る悟を見つめていた。


 いや、それよりも驚いたのは余のルーゲラバイガルを殺したことだ。ステータス差は10倍ほどあった。なのに、どうしてだろうか? ルーゲラバイガルは余の魔物の中では最強の力を誇る。それが倒されるなんて、なんていう屈辱だ。


 バイガルに勝てた理由は、悟以外にあの女が協力していたことだ。後ろから援護射撃を打ち、人格すら変わり、強力な魔法をいとも簡単に打ちまくる。下手をすれば今の余のMPよりも高いかもしれない。


 そこまで考えて、テズは水晶を叩きつけた。地面で粉々に砕け散り、辺りに散乱する。


「彼奴に……似ているな」


 時はさかのぼる。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「和樹よ! 大人しく余に殺されよ!」


 テズは声を荒げた。視線の先には和樹。彼のユニークスキルが欲しいために、ここまで戦ってきた。2()()()


「和樹さん!」


 余の隣にいる者は、仮面をつけていた。蜘蛛の仮面を被っている。仮面についた8つの目は鋭く赤く光っている。さらに、彼女の声は優しく、どんな人も魅了する力を持っていた。


「ん? なんだい?」


 全身に傷を負った和樹。しかし、口調は余裕そのものだ。あと何回か追撃をしたら死んでしまうというのに。そこが嫌いなところだった。


「その傷じゃ、もう生きることは難しいです。今から治療をしても間に合わないでしょう」


 出来るだけ相手を刺激しないように、蜘蛛の死神は歩み寄った。和樹の体内の魔力量が高まっていく。


「さあ、時間がありませんよ。ユニークスキルが発動するまであと30秒。貴方は、30秒後に死にます。何か言いたいことはありませんか?」


 和樹は口ごもる。彼のユニークスキルは不老不死ともう1つある。それが同時に発動するのが、30秒後だ。その瞬間、死神たちはユニークスキルを手にするべく一斉に襲いかかってくるだろう。既に満身創痍の和樹に対抗する術はないはずだ。


「姉様、あと10秒です」

「よかろう」


 余は和樹のもとに近づいた。



()()()()()()()()



 蜘蛛の死神の一声。和樹の魔力が高まる。それは、今まで彼と戦ってきて一番高い魔力だった。


「くっ! まだそんな力をっ!?」


 余は後ろへ飛び退く。流石にこのれほどの魔力を使った魔法は食らうわけにはいかない。


 突如空が割れて、漆黒の鎖が余に巻きついた。


「っ!?」


 解こうとするが、逆に力を奪われていく。この魔法は、1人しか使える奴がいない。


「どういうことだ」


 冷静に、蜘蛛の死神へと声をかけた。彼女は、魔法援護系が得意だ。こういう風に、敵の動きを封じることができたりする。妹と姉との関係だが、その強さは互角だ。疲れている余に引きちぎれるほどの力はない。


「裏切ったのか? ずっと一緒にいた余を!」


 混乱。そして、怒り。心の中から何かどす黒いものが這い上がってくるのを感じた。


「裏切った……そうですね。私は、姉様を裏切りました」


 彼女は殺意すら出さない。ということは余を殺さないとでもいうのか……?


「何故!? 何故だ! そいつに誘われたのか? それともーー」


 余の声を遮るかのように、和樹が目の前に移動してきた。


「残念だったね。これで君はおしまいさ」


 和樹の高まった魔力が放出する。巨大な魔法陣が描かれた。


 瞬間移動で逃げるしかーー。


「瞬間移動で逃げる。とか、思ってたりしません?」


 ハッとなる。知らぬうちに、鎖に魔力も吸い取られていた。MPはあるが、瞬間移動をするための術式を邪魔している。鎖から注入された別の魔力が、余の魔力をぐちゃぐちゃに掻き立てて魔法が打てない。


「最後に聞きたい。何故余を裏切ったか」

「冥土の土産ですか。どうします? このまま殺しちゃいますか?」


 妹に一切の躊躇いがない。もう説得は無理だと悟る。


「ま、いいだろう。話してあげな」


 和樹の許可が出たことで、妹は話し始めた。


 余がスキルのことばっかり気にして、最近妹の相手をしてあげなかったこと。ただ、それだけだった。そこで、和樹に声をかけられたのだった。「あいつをわからせてやろう」と。


 長い間悩んだそうだ。そして、決意を固めた時には余を殺そうと心の中で思っていたらしい。


 和樹なら自分に構ってくれる。そんな理由で、相手についたのだ。


 絶対鑑定で覗いたステータスには、状態異常で魅了と書かれていた。手遅れだ。長い間にかけて魅了された人物は、余でも治すのに1時間はかかる。


「そうか……。よくわかった」

「話が通じる相手で助かります。では、そろそろお別れの時間ですね」


 蜘蛛の仮面の下では、邪悪な笑みが広がっていた。


「和樹さんっ!」

「おう!」


 魔法陣から、特大の龍が召喚された。龍は一直線に余の元へくる。


 大きな口を開け、余にかぶりついた。


「はは、豪快に行ったねぇ〜。これをくらってまともに動ける奴なんかいないよ」


 愉快そうに、和樹と蜘蛛は笑った。


 と、その時。


 龍の体が弾け飛んだ。


 あまりに一瞬の出来事で、和樹たちはぽかんと口を開ける。いや、仮面をかぶっているから死神の方はわからないが。


「がはっ……」


 中からは、死神が出てくる。余だった。


 全身血だらけで、腹には穴が空いていた。仮面もボロボロで、片方の目はすでに露出している。


「はぁ……はぁ……っ、魔眼っ!」


 余の目が光った。


「しまっーー」


 和樹と妹の動きが一瞬硬直する。麻痺だ。そして、その体が炎に包まれた。これは火炎。


「空間魔法!」


 ありったけの魔力を使う。龍を殺すことによって魔力は尽きていたが、身体中から絞り取る。目眩がして、立っていられないくらいだったが、我慢する。


 空にあいた穴に、余は入っていく。漸く動けるようになった妹と和樹には、何もできなかった。


「妹よ……余はそなたを信じておるぞ」


 聞こえたかどうかはわからなかった。そして、余はどこかもわからない空間で、一万年の時を過ごした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「援護魔法に口調……もう寿命で死んでいるとはいえ、まさか生まれ変わりか? 名前も一致しているしな……」


 過去の妹とシーファを見比べる。だが、顔も性格も全く違った。妹ならすぐに余にいたずらをし、怒られたら大泣きする。その毎日だったが、こやつは違う。きっと、何かの勘違いだろう。


「…………」


 しかし、なんだか納得いかない余は再び首をひねるのだった。

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