第108話 シロのレベルを上げよう! 2
最初に動いたのは、ミニドラゴンの方だった。互いに頷きあい、三方向に分かれてシロを囲む。あまりにも素早い行動だったので、シロも逃げることができなかった。
「ゴオォン!」
そして、全方向からのブレス。ルーゲラバイガルに比べたら極小の炎だが、それでも今のシロなら致命傷を負いかねない。
「わん!」
シロは姿勢を低くし、地面とブレスの間ギリギリを走り抜けた。その先には一体のミニドラ。未だブレスを吐き続けるミニドラは慌てて口を閉じようとするが、そんなことすれば自身の口の中にエネルギーが溜まって自爆してしまう。
「がぅぅ!」
シロの体が大きくなり、雷獣になる。一瞬にしてミニドラの身長を追い越した。
巨大な爪を振るうシロ。ミニドラにそれが避けられるはずもなく……。
首が吹っ飛んだ。
驚きに目が見開かれたミニドラの頭部が転がってくる。もう慣れたが、いいものを見ている気はしない。俺はそっと目を逸らした。
シロの元に駆け寄っていくミニドラたち。シロは身構えた。
ミニドラは1匹が指図したと思うと、今度は塊になって突っ込んでいった。その鱗が銀色に輝く。シロがまた爪を振るったが、傷をつけただけに終わった。硬化の魔法でもかけたのだろう。
「がうぅ!」
雷が降り注ぐ。それらを器用にすべて避け、片方のミニドラを踏み台にして僅かに図体が大きい1匹がシロの頭上に現れる。
ピンポイントに雷が降ってくる。……が、ミニドラは空を蹴ってそれを回避する。その先には、シロの後ろ足。すかさず鋭い歯でシロの足に噛み付くミニドラ。
「きゃうん!」
痛みにシロは悲鳴をあげる。しかし、すぐに正気を取り戻して体全体に電気を流した。放電だ。
「ゴォ!」
電撃をくらってもミニドラはその意地で離れなかった。シロは焦り始める。その間にシロの正面に移動していたもう1匹のミニドラに気がつくのが遅れた。
ミニドラはシロにブレスを放つ。それも、顔面にだ。シロが気がついたときにはもう遅い。
俺が助けに行こうと一歩踏み出した途端、念話が届いた。
ーーこないで!
まるで、反抗期の子が親を突き放すかのような言い方だった。
……何故だ?
シロはブレスをくらう。必死に耐えている姿を見て、万力で締め付けられたかのように心が痛む。
俺は、漸く気がついた。
シロの目は、諦めてなんかいなかったのだ。
前を見て、決して曲がらない真っ直ぐな瞳。この戦いに負けたという感情など1つもなかった。
まだ、シロには秘策があるのか。
何かスキルを覚えたのかもしれない。俺はその可能性にかけることにした。
ミニドラのブレスが止まる。顔を煤だらけにしながらも、シロは立っていた。後ろ足はまだ噛みつかれたままだ。放電しても無駄だと感じ取ったのか、シロを纏っていた電気が消える。
ブレスを吐き終えたミニドラはさらに追撃を加えようと小さな翼を広げる。極僅かに、体が浮かび上がった。
そのままシロの方へと走っていく。ミニドラは電気を纏ったシロを真似したかのように、炎の渦に呑まれていた。
あれに当たればただではすまない。
俺も、シロもそう思った。
だが、シロはその時、驚くべき行動をしたのだ。
目を、瞑った。
ミニドラはさらに加速する。それに合わせて、炎も熱を帯びて明るく光った。
あと1メートル。
シロはまだ目を開けない。あれでは前が見えない。
50センチ。
目を開けないシロを見て、俺はだんだんもどかしくなってきた。手には雷球がすでに用意されている。これをミニドラにぶっとばせばーー。
……いや、何を考えているんだ俺は。
シロのことを信じてるって言っておいて全然ダメじゃないか。俺は、シロのことを信じるって決めた。仲間のことを信じるって決めた。だから、だから。
やってしまえ、シロ。
残り数センチ。そこでシロが目を開けた。瞳の色が黒から変わっており、薄いピンク色だ。
スッとシロの姿が消えた。俺は見えていたが、ミニドラには何が起こったか分からなかっただろう。足に噛み付いていたやつは宙に現れ、地面に落下した。
シロはとんでもないスピードで動いたのだ。そして、足を振り上げてミニドラを宙に放っぽり出した。数センチしかなかったのに、攻撃を避けて見せた。どれもこれも神業だ。
炎に身を包まれていたミニドラは勢いをつけすぎて前のめりに倒れ、自らHPを減らしていた。倒れた先にはもう一体のミニドラ。もみくちゃになりながら、2匹は地面を転がった。
「ガウウゥゥゥゥン!」
空にシロの姿が。目を回しているミニドラたちにはどこにいるのか見当すらつかないはずだ。狙うなら今。
いや、もうことは終わっていたのだった。
雷が何発も降り注ぎ、ミニドラたちを絶命させたのだった。
って、ん?
生き……てる?
なんと、下の方だったミニドラが直撃を免れ、HP3で生き残っていた。荒い息をしており、今もHPが1減ってしまっている。シロが歩み寄った。
ミニドラは攻撃してこなかった。それどころか、頭を深く下げる。
……謝罪しているのか?
そう思うが、違ったらしい。シロから念話が届く。
ーー負けたって。負けたから、主人になってほしい。
「そういってるのか?」
思わず口に出してしまい、急いで口を閉じたが遅かった。ミニドラの視線がこちらへ向く。明らかに警戒の色を表していた。
「ゴオォォォ……!」
唸り声を漏らすミニドラたちに、シロは短く吠えて何かを話している。勿論俺には理解できない。
ーー主人になった。
へ?
ちょっ、話が急展開すぎてわからないんだけど。
『パーティーのシロがミニドラゴンのテイムに成功しました』
「お前がってこと?」
ーーうん。そうしたら悟のことを襲わないから。
へぇ。
どころじゃないって。
「主人になったらどうするんだ? もしかして、ここでお別れとかはないよな?」
ーー大丈夫。シロの主人は悟だけ。
よかった。
思わず安堵のため息をつく。でも、心配事はいくつもあった。
「どうするつもりだ? 街に連れて行ってもいいと思うが、そのHPだとすぐ死ぬかもしれない」
ーー薬。
「薬? そんなのないーー」
アイテムボックスを漁って、俺は気がついた。テックからもらった薬。めちゃめちゃ回復する効果を持っていた気がする。でも、これは明後日のために使おうと思っていたのだが。
ため息を漏らす。シロの目は、玩具をねだる子供のようだった。断るわけにもいかない。また作ってもらえるだろ。金かかるかもしんないケド。
「と、その前に」
あげそうになった薬を引っ込める。俺はシロに頼んだ。
「名付けをしてくれ」
ーーわかった!
シロは小さくなる。雷獣化を解いたらしい。そして、元気よく念話で言った。
ーー悟が好きだった、プリン!
おおう。そうきたか。
プリンは好きだけど……その子女の子なのかな?
まあ、いいや。これで魔王の命令から解放されたはず。正気に戻ると思う。
俺の思った通り、ミニドラゴンは命令に従っていた頃の記憶が消えていた。そして、新しい仲間が増えた。
仲間多すぎ!
マジどうしよう。




