第105話 議論の前に
「で、俺が倒れてここに運ばれたってことか?」
「はい。そうです」
ふーん。なんか迷惑かけちゃったな。
今は、シーファの他にカゲマルとシロも戻ってきた状態だ。
カゲマルは審議の目を向けてシーファに尋ねる。
「それにしても、この時間で悟様の気を取り戻すとは一体なにをしたんだ?」
やっぱりそこが気になるよな。俺もびっくりだった。うん。
「ふふ、内緒です」
シーファがスマイルを浮かべる。カゲマルは苦笑した。
「そんなことだと思った」
すると、廊下側にある魔法陣が点滅し始めた。
「誰か来たのですよ。通すか通さないか、サトルが決めてください」
ああ、いわゆるばノックみたいなやつか。
「ミィトだよ。中に入ってもいい?」
「いいぞ」
返事を返すと、魔法陣が一瞬光り、ミィトが姿を現した。
「調子はどう?」
「まあまあって感じだ」
「嘘つかないでください。立っただけでよろめいていたでしょう?」
ミィトは笑みを浮かべる。
「なら、休んだほうがいいよ。和樹と魔物が来るのはあと2日だし、1日休めば問題ないって」
「残りの1日はどうするんだ?」
そこで魔物退治とかしてまたダウン状態になったら意味がない気がする。
「残りはね、魔物をどういう陣形で倒すか議論したいと思う。サトルもイレギュラーな存在だから、議論に参加していいって」
成る程。そういうのも大事なのか。でも、ガチの議論とか緊張するなぁ。
「誰が参加するんだ?」
「私たちギルドマスターだけ。まとめ役は私がやる」
頼もしいな。
ん?
明日ってミィトの人格変わるよな……。順番制だから……あの気弱な人格!? まとめ役無理じゃん! おどおどして決められないオチだって!
「ミィトの人格変わるよな? いいのか?」
「そう、それが問題。できれば今日やりたかったんだけど……」
あ、俺がこんなことになったから延期になっちゃったのか。申し訳ない。
「俺は今日でもいいぞ」
そう言うと、直様シーファが横槍を入れる。
「ダメですよ。今日は安静にしてなきゃ、魔物退治なんかできません」
「大丈夫だ。議論って座ってるだけだろ? 頭使うのと疲労は関係ない。と思う」
最後は小声で言った。
反対するシーファを押しのけ、俺は立ち上がる。立ちくらみは起きなかった。
「今すぐやろう」
ミィトの人格があれになるのは本当にやばい。前、その人格と一緒に行動したことあるけど心の底から面倒くさいと思った。もちろん本人に言ったら殺されるけど。
「何か変なこと考えた?」
笑みの後ろに殺意を隠しながらミィトは俺の顔を覗き込む。
「いやぁーナンデモナイナー」
よっしゃ完璧。これでごまかせーー。
「ふざけないで」
「ぐふっ!」
俺はミィトに腹を殴られた。
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ギルドのどこかの部屋。ここでギルマスたちが議会を開くらしい。
え? 殴られた? なんの話?
俺は一切殴られたってことを知らないぞ。疑ったってなにも出てこないからな。もう少しで内臓潰されそうになったとかそういうこと本当に知らないから。
……痛かった。
椅子には既にギルマスたちが座っていた。
右からヒョロ男イケメンのワヤ、それと向かい合うかのように美人のキュラサ、ワヤの隣には力馬鹿ズート、キュラサの隣には老人のサンカー。
テーブルは丸く、あと4人座れるようになっていた。俺とミィトとシーファが座って、シロはシーファの膝の上に座るとしてあともう1つはなんなんだ?
「ギルドマスターは口が固いよ。出てきてもいいから」
俺の背後に向かって、ミィトが話しかける。
ここでカゲマルの存在をバラすということか。ミィトは知ってるけど、他のギルマスは知らないからな。
「…………」
でも気になる。あいつ、絶対バラすだろ。
俺の視線の先にはズートがいた。ズートは見られていると気がつき、慌て始める。
「おれ何か悪いことしたか!?」
「ああ、成る程ね」
事情を察したキュラサが苦笑しながらいう。
「ズートはいうこと全てを守るから大丈夫。なんならさっきの謝礼としてここで話すことを喋らないっていうことにしたら?」
あれか。俺の手をとんでもない怪力で握りしめてそのお礼に言うことなんでも聞くとか言ってたやつ。確かに俺はなにも言ってなかったし、ここで使うのもいいだろ。
「じゃぁ、今から話すことを絶対に! 誰にも話すなよ」
「わかった。約束だ」
よし。これでオッケー。
別にこんなめんどくさいことしなくても良かった気がするけど……まあいいや。
「じゃぁ、出てこいカゲマル」
カゲマルが影から飛び出す。ギルマスたちはみんな目を丸くした。
「魔人!?」
最初に動いたのはキュラサだ。背中にかけた大剣に手をかける。しかし、それをミィトが阻止した。
「この子は仲間。魔王から解放された魔人だよ」
「解放された……?」
そう声に出したのはワヤだ。
「ミィト様、魔人が今までどれほどの脅威をもたらしてきたかわかってる? 街を壊滅させて、住処にして、人間を惨殺して……。そんな魔人を信じるっていうのかい?」
ワヤは魔法陣を組み立てる。光魔法のようだ。闇属性のカゲマルに効果は大きい。
「ミィト様は騙されてるよ」
ミィトはどうしようかと迷っているようで、手を顎に添えて必死に考えていた。俺はカゲマルの前に立つ。
「そこをどいてくれない? このままじゃライトアローが君の体を貫くことになっちゃうけど」
「いい加減にしないか」
ワヤの腕を掴む者がいる。サンカーさんだ。
「儂は戦闘経験が豊富だ。それがどういうことがわかるか?」
「ど、どういうことだよ」
「警戒の心も敵意も感じられないということだよ。まさか、そんなことすらわからないとでもいうのかね? ギルドマスター失格だぞ?」
ぐっとワヤの声が詰まる。図星のようだ。
ワヤは魔法陣を消して、椅子に座り直した。キュラサは素直に頭をさげる。
「ごめんなさいっ! 私、なにも知らないのに勝手に行動してしまって……」
「いや、いいよ。カゲマルも許してやってくれ」
「悟様がいいといえば俺も許せる。別に、嫌な思いはしてない。きっとこうなると予測していたからな」
カゲマルに視線が集まる。魔人とまともに話したのは初めてだったのだろう。
俺たちは席に座った。
その間にも、ワヤはこちらを睨みつけている。あまりよく思われていないようだった。




