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第97話 魔王は幼女だった

 続々と冒険者たちが集まってくる。強制イベント的な感じなので、冒険者たちも断る理由がない。それ以前に、国が滅びるかもしれないのだ。俺たちも全力を尽くすつもりでいる。

 ‬

「シーファ、聞きたいことがある」

 ‬

 シロを抱いたシーファが、こちらを振り向いた。

 ‬

「なんでしょうか?」

「シーファはどうするつもりなのか聞きたくてな」

 ‬

 その一言で、シーファが全てを悟った顔をした。間があり、重い口を開く。

 ‬

「私は……そのときになれば覚悟はできています」

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 自身の翼がある場所をちらりと見つめ、シーファが言う。俺は頷いた。いずれバレるかもしれない。なら、その前に翼を見せて人類にシーファが敵ではないことを知らせておいたほうが彼女の心も軽いだろう。その覚悟があるか、聞いたのだ。そして、返ってきたのは予想通りの返答だった。

 ‬

「俺も出来る限りは魔物を殺す。いざという時にだけだぞ」

「わかっています」

 ‬

 小声でそんな会話を交わし、俺たちはギルドを出た。

 ‬

『尾行者を確認。数は1人で男性だと思われます』

 ‬

 鑑定さんの声が響く。俺はシーファに目で警戒を促し、人気のない場所へとわざと歩いて行った。


「くくく、自分からこんな場所に来るとはなぁ。間抜けにもほどがあるぜ」


 そう言って姿を現したのは、大柄な男性だった。その目は俺から見ると既に死んでいて、シーファの全身を舐めまわすかのように見つめている。俺は殺意を覚えた。


「さて、俺の言うことはわかるか?」


 男は問う。


「カゲマル、いけ」

「ギョワアァァァァァ!?」


 影から飛び出したカゲマルに体を切られ、男は絶命する。もうこういう展開は飽きた。っていうかあの質問に答えるほうがバカだろ。そんな暇があったら敵を攻撃してろって話だ。


「あーあ。いいのかなー?」


 カゲマルが剣に付着した血を拭っていると、どこからか声が聞こえた。もしかしたらカゲマルのことを見られたかもしれない。


「よっと」


 そいつは上から現れた。華麗に地面へと着地し、俺を見つめる。その視線は、俺、シーファ(シロも)、カゲマルと移動していった。顔立ちから見ると、少女だ。


「わんっ! わん、わん!!」


 ーー危険!


 危険を察知する潜在能力が高いシロが吠える。さらに、念話を通してまでそのことを伝えてきた。俺も一目見ただけでわかる。こいつは、俺たちの手に負うことができない化け物だと。


「あー、やかましい。魔王のボクに向かって吠えるなんて、どういう教育を受けているんだか」


 まさかのボクっ娘魔王だった。て、魔王!?


 魔王と名乗る少女は銀髪で、青い目をしている。服装は露出度が高いが、アウトまではいかない。セーフとも言えない、微妙な感じだ。まあれが見ていても大丈夫なレベルとは判断がつく。で、見えている肌の色は普通の肌色だった。カゲマルとかの魔人は灰色なんだけど。魔王と魔人ではちょっと違うらしい。


「俺たちの前に何故現れた?」

「えー? んーとね、気分かな」


 内面も幼女っぽゲフンゲフン。俺は心の中で人を侮辱しないと決めたんだ。こいつが人かどうかは知らんが。そして睨みつけられていることも知らん!


「気分でよく姿を現せたな。俺がその気になれば大声をあげてそこらじゅうの冒険者をかき集めることだってできるんだぞ? それに、お前の思っている以上に俺たちは強いはずだ」

「ホント? じゃぁ、戦ってみようよ。ボクがここで人間っていう下等生物の数を減らせば和樹お兄様も喜んでくれるはず!」


 その理屈じゃ和樹お兄様が下等生物になりますぜ。って、魔王さん和樹のこと和樹お兄様って呼んでるの? なんか性格がわかってきたような……。確かにこんな性格だったら和樹に慕っている理由もわかるかも。


「気分とか言ってましたが、それは気分次第で私たちを殺すということになりますよね? 和樹との一戦が3日後に控えているのでここで襲うのはやめて欲しいのですが」

「ヤダ! 戦う! 戦う!」


 本当にこいつ魔王か? 鑑定をしたが弾かれてしまう。鑑定遮断を持っているようだ。バチっという大きな音がしたにもかかわらず、魔王は地面でバタバタと暴れる。地面に拳を打ち付けるたび、小規模に陥没していた。すいません訂正しますあなた魔王ですね。


「魔王様。どうかこれでお願い致します」


 カゲマルが片膝をついて魔王に何かを渡す。その瞬間、魔王の顔色が変わり、上機嫌になった。


「やったぁ! 流石、カゲマルわかってるね! いい下僕だー」

「ありがたき幸せ」


 本当に幸せ感じてんのかお前っ! 下僕だぞ!?


 俺が心の中でツッコミを入れている間に、魔王は姿を消してしまった。カゲマルは額に浮かんだ汗を腕で拭い、安堵のため息をついている。俺は聞かずにはいられなかった。


「さっき何を渡したんだ?」

「飴だ」


 ……やっぱこいつ魔王じゃないよ。


「……?」


 大気感知に何かが引っかかった気がした。だが、その反応はすぐに消える。小指から一滴の小さな赤い粒が垂れたが、俺は気がつかなかった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺たちが魔王とつるんでいる時間帯に、和樹は1人微笑んでいた。目の前には、3000の魔物の大群がいる。数が多すぎて地面が見えないレベルだ。この果ての大地に、ここまでの魔物が集結するとは夢にでも思っていなかったことだったのだ。


「……どれもこれも君のおかげだよ、死神」

「余もまだ1/1000ほどではあるが力が戻ってきたのでな。これでもまだまだの方だ。途中魔王にも手伝ってもらったこともある。魔王がいなければ、ここまでの数を用意できなかったであろう」


 僕の隣には死神がいた。狐の仮面をかぶっていて、素顔は見えない。誰もその素顔を見たことがないのだから、すごいものだ。素顔を見たい衝動だってあるが、そんなことしたら死神に秒殺されるだろう。いや、仮面に手を出した時点で殺されるか。


「そういえば魔王がどこかに行ったみたいだけど、死神見た?」

「余は見ていない。だが、検討はつく」

「へえ。国の偵察とか?」

「む。わかっているのなら聞かなくてもよかろう」

「はは、ちょっと確認したかっただけだからね」


 仮面をかぶっているせいで表情が読み取れない。と、いうよりも死神に表情なんてあるのだろうか。


「其方は余のルーゲラバイガルを知らぬか?」

「あいつ? 僕は見てないけど……」

「第一号はよく余の元を離れてな。一時期ギルドの前で魔物の大群相手に暴れたと聞いたから焦ったものよ。余がいるということがばれたら全てが邪魔されかれぬ」

「そんなことがあったんだなー。僕は知らなかったよ」

「何の話をしてるのー?」


 僕たちの談笑の中に、幼女の声が混じった。下に視線をやると、魔王が俺たちを見上げている。相変わらず背が小さいものだ。


「今、変なこと考えなかった?」


 その外見とは比べ物にならないほどの殺気が僕に向けられる。まあこういう見た目でも何千年生きているっていうし。脳も心も全然幼女だけど。


「むぅ。全然反省しない」

「反省してるって。あー、魔王ちゃんは可愛いね」

「そう? ありがと!」


 チョロい。何てこと思ったのは気のせいだ。


「そういえばね、ボクがロット国行った時にサトルっていう人に絡んだんだー」


 僕と死神が反応する。


「ボクが思っている以上に俺たちは強いって言ってたから、戦ってみたいと思ってね、そういったんだけど拒否されたの」


 残念な話なのだが、魔王は笑顔を挟みながら語る。


「そしたら、カゲマルが飴をくれて、すごく嬉しかったの」


 僕と死神は顔を見合わせ、肩をすくめた。機嫌が良かったのはそれのせいかと悟る。


「でも、このまま去るのはいけないなぁー、って思って、全員の鑑定をしてからバイバイしたんだよ」


 上機嫌に語る魔王。僕はその話に食いついた。


「鑑定遮断をもたれてたら嫌だったからね、あいつら全員に見えない傷をつけて鑑定したんだー。これで鑑定遮断も起動しない。魔王ちゃん賢い!」


 確かに、傷をつければ攻撃を食らった判定になり鑑定遮断が一時的に解除される。魔王の判断は間違ってはいない。その素早さを利用すれば傷をつけることぐらい容易いだろう。


「じゃぁ、その結果を教えてくれないかな?」

「わかったー!」


 魔王から全員分のステータスを聞き、意図していないのに僕の唇の端はつり上がった。


 これなら勝てる。と。

おまけ


Q.魔王さんの好きな食べ物は何ですか?

A.飴だねー!


Q.魔王さんの得意なことは何ですか?

A.飴を舐めることだよー。これボクしかできないんだけどね、飴を5秒で舐め終わることができるんだよ。10000年くらいやってたらこれくらい速く舐めれるからみんなも練習してみてね!


Q.魔王さんの失敗談を聞かせてください。

A.飴を喉に詰まらせたことかなー。あれは本気で死ぬかと思ったよ。


Q.…………。

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