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右京 弐

右京と資盛、運命の出会い?

資盛(すけもり)は、体をかがめて素早く右京の袖の下をすり抜け、右京がきゃっと叫ぶのも構わず、その背中に回って隠れてしまった。その、まるで子どもような仕草に、右京大夫は呆れるやら腹が立つやらで取り乱す。

 が、摘花(つみか)は、呼ばわる声に思い当たって、

「う、右京様、後白河院(ごしらかわいん)です。資盛様をお探しなのは、院でございます。」

と、慌てふためいて廊下を覗こうと。

「駄目だよ。見つかるじゃないか。」

 資盛が摘花の腕を引っぱり戻す。几帳はひっくり返ってるし、右京も摘花も着物の裾が乱れているし、とにかく局の中はぐっちゃぐちゃ。何がなんだかわからぬままに、高貴なお方とのかくれんぼに付き合わされることになったものの、いとやんごとなき鬼は、やがてお目当ての公達を見つけてしまった。

「これはこれは、今紫とはやされる宮中一の才女殿の局には、男は入れぬものと思っていたが?」

手にした扇を開いたり閉じたりなさりながら、後白河法皇は乱雑な部屋の中を眺め回す。右京はもう顔から火が出るほど恥ずかしい。部屋のぐちゃぐちゃもさることながら、昼間から男がいることを突っ込まれてはたまらぬ。

 資盛はと言うと、倒れた几帳の下にすっぽり隠れて、紅梅色の布の間から目だけ出してきょろきょろしている。

「こ、これは、その、実は・・・」

謎かけや洒落た言葉の応酬なら負けないはずの右京大夫も、この状況をどう説明すればいいやら、さすがに言葉に詰まる。後白河院は、こんなおもしろいことはないと言いたげに、首を何度も傾げては右京の返答を待ちかねる。

 摘花は、七子を部屋の隅に引っぱって行って、内緒でこそこそ耳打ちする。

「ほらね、院が資盛様を追い回してらっしゃるって、噂はほんとうなんだわ!」

でも、何のために?なぜ、兄君は逃げるの?七子には理解できない。

「人の恋路を邪魔する奴は、と言うではございませぬか?」

右京が答えられないので、資盛が几帳を払いのけて起ち上がった。

「白昼堂々局には入れる男といえば、恋人しかいないでしょう?」

またしても、とんでもない出まかせを言い募る資盛に、右京は大きな口を開けたまま振り返る。

「ねえ、右京殿?」

年下の貴公子は、にっこり笑ってそう言うと、右京の肩に親しげに腕を回した。

「そうか、そうだったのかね。それは迂闊、迂闊であったのう。」

院は、閉じた扇でご自身の頭をぺしぺし叩いて、さも可笑しげに、

「いやいや、それは、お邪魔申した。右京殿、失礼した。あっははは・・・」

 何やら意味深な言い回しを残して、後白河院は立ち去り、散らかった部屋の中には、火のように怒っている右京大夫と、水浴びしたかえるみたいにけろっとした表情の資盛が向かい合っていた。

「あなた、よくもあのような下品な嘘をつかれましたわね。」

年上の才女の上ずった声を、まだ少年のような公達は笑顔で受け止める。

「まさか、院がお信じになられたと思いますか?」

「院でなくても、誰であっても、あなたなんかとこの私が恋人だなんて、信じるわけございませんでしょう!」

やり合う二人を前に、七子と摘花は居場所をなくして廊下で小さくなっていたが、それでも事の成り行きに興味津々。

「誰も信じぬ嘘ならば、ついても罪にはなりますまい。そんなに怒ることもないではありませんか?」

桜の季節もようやく終わり、青葉の香りの風が渡る。その生臭い匂いのような若造の言葉に、名にし負う今紫が一言も返せない。

「・・・すごい、右京様を黙らせたわ。」

「ぎゃふんと言わせちゃったってこと?」

 摘花は、男の口のうまさに酔い、七子は粗暴と思っていた兄の切れる頭に感心する。

「だから、ほら、ご機嫌を麗しゅう願います。怖いお姉さまに睨まれては、私ごとき若輩者、内裏に出入りできなくなります。」

しかし、資盛は言い過ぎた。次の瞬間、右京の両手が男の狩衣の襟をつかんでいた。

「出て行って下さい。いかに平家の公達と言えど、これ以上は許しません。」

それでも、資盛は止まらない。

「ははあ、美人で才女で気が強い。三拍子そろっては生きにくいでしょう?」

 力まかせの右京大夫に突き飛ばされて、資盛は廊下に尻をつく。それでも何やら心地よさげに笑って、ようやくのことで無礼な闖入者は去って行った。


 それからというもの七子は、主の口から飽きるほど兄の名を聞くことになる。右京は、才媛らしく様々な修辞を駆使して資盛を罵った。それらのすべては、七子が資盛の妹と知らずに発せられるので、七子としてはまことに聞きづらく、右京を欺いているようで気持ち悪かった。


さて、2人は今後どうなるのかな?

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