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右京 壱

七子の女主人・右京大夫は宮中一の才女。そんな彼女に恋の予感が?

それから何日か後のある日のこと、中宮(ちゅうぐう)のところに美しい短冊や漉き紙にしたためられた歌が、いくつも届けられて来た。先日の花の礼に右京大夫(うきょうのたゆう)が詠んだ歌への返歌である。中宮は、また女房たちを集めて、それぞれに風流をこらした短冊を眺めて楽しみながら、

「あら、維盛(これもり)の歌がないわね?」

と、おっしゃる。

「維盛は、あんな優雅な姿をしてるくせに、歌の才はからきしないのだから。」

女房達は忍び笑いする。中宮にとって維盛は甥っ子にあたる。

「でも、代わりに資盛(すけもり)様がお詠みになっています。」

と、右京大夫が薄紅色の短冊を選り出して、読み上げる。


もろともに たずねてもみよ 一枝の

花に心の げにもうつらば


「ほんとうにその一枝の花に心ひかれるというのなら、今度はご一緒に」

という歌である。

「まあ、気が利いているじゃない。子供のくせして。」

中宮はご機嫌、右京はというと、資盛の筆の跡を見つめて、

「え、でも、この方、おいくつでしたっけ?」

いつもの才女ぶりもどこへやら、思ったままにぽつんと問う。資盛の歌は、右京大夫の心にひっかかったようだった。


 ところが、その日の夕刻、その資盛が、何やらすごい勢いで廊下を駆けて来たと思うと、右京大夫の局に飛び込んで来た。

「七子!七子!」

男の声で呼ばわるので、右京がいぶかって七子より先に次の間に出て来て、ひっくり返った几帳を踏んで立つ年若い公達を見つけた。

「いったい七子に何の用ですか?」

右京の声は、あきらかに不愉快そう。あわてて駆けつけた七子が見たのは、美しい顔で怒っている右京と、しまったという表情の兄・資盛。

「あ、えーと、な、七子の、その・・・恋人です。」

七子が音もなく大きな口を開けた瞬間、後ろに付いて来ていた摘花(つみか)がヒエーっと叫ぶ。さすがの右京も目を白黒させて、

「ま、まあ、七子はまだ十一になったばかりの小娘ですよ。恋人だなんて、本気でおっしゃってるの?」

右京は怒っている。兄妹と知らずに資盛と七子を交互に睨みつけて。七子の居心地の悪いこと。

「あ、いや、嘘です。もちろん。」

資盛は、悪びれる風もなくあっさり取り消すと、無責任な笑顔を見せた。若苗色の狩衣も清々しく、自信に輝く瞳をまっすぐに右京大夫に向けている。

「七子は知り合いの娘です。右京殿のお局に隠していただきたく、つい嘘を。」

そして、人差し指をくちびるに当てると、悪戯小僧のように顔をしかめる。

「それで、かくれんぼでもなさってるの?」

右京の機嫌はすぐには直らぬ。中宮付きの女房の局に、いきなり男が飛び込んで来るなど、恥をかかされたも同然のことだ。

「ええ、かくれんぼです。鬼は、いとやんごとなきお方で・・・」

資盛がそう言いかけた時、廊下の端から皆に聞き覚えのある声が、

「資盛、逃げるとは何事。どこじゃ?どこへ隠れた?」


かくれんぼの鬼は誰あろう・・・

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