序章
新しいお話を書きます。
平安時代の青春モノです。源平合戦の時代のティーンエイジャーたちの、美しく哀しいお話にしたいです。
第1回は序章のみですが、なるべく途切れないようにアップします。
もう一遍の「浪花駅伝少年」は、ちょっとストップしていますが、いつか再開しますのでよろしく。
序
祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり
娑羅双樹の花の色 盛者必衰の理を顕す
寿永三年(1184年)二月。春と言えども風は冷たく、ようやく咲き出たばかりの梅の花びらも、震える闇の夜。
平家の姫・平七子は、都をはずれた山里のわび住まいにて、冷え冷えした空を眺めて眠りにつくこともできぬ。恐ろしき兵ども幾らも西へ下るのを、その目で見たり噂に聞いたりのこの四、五日。明日は戦が始まるかと思うだけで、叫びたいほどに怖かった。
散る葉もない鋭い枝枝が、素通りする風を追いかける音だけが、静寂を切り、後は黙る繰り返しに、やがて七子も安らぎのない眠りに落ちる。恋人の夢。幼なじみの従弟の夢。毎夜、彼らの夢を見る。
優しく美しいおもざしの敦盛。萌黄の鎧が似合って初々しくも儚げに、気ぜわしく散る白梅の花びらを身にまとい、こちらを振り返り振り返りゆっくり遠ざかる。その先には、暖かい陽射しがこぼれたみたいに、紅い梅が咲き揃っている場所が見える。知章は光をいっぱいに浴びて、こちらに手を振っている。童子のような水干姿。髪を後ろで束ねて、顔は泥で汚れて。何か大きい声で呼んでいるようでもあるが、敦盛を呼ぶのか七子を呼ぶのかわからない。そんな、夢。
七子の幼なじみの二人は、一の谷に源氏を迎え討つ決戦に、その若い命を懸けて出陣する。気負いもなければ怖じ気もなく、幼ささえ残した凛々しい姿に、散り急ぐ花の勢いと命の煌きだけを見せつけて華々しく。
無官太夫平敦盛、生年十七歳。武蔵守平知章、生年同じく十七歳。やがて、七子の夢にも現れなくなる。記憶の中に遠ざかり、いつまでもいつまでも少年のままの、二人。
奢れる者は久しからず ただ春の夜の夢の如し
猛き者もついには滅びぬ ひとえに風の前の塵に同じ。
古典っぽい言い回しを考えて書いています。漢字も多くて読みにくいでしょうが、そこを楽しんでいただければ幸いです。