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E.S.R.I.1 《Deadlock Chronology》  作者: 帰ってきたきうきう
序章 僕と私のタイムトラベル。
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第21話 愛と復讐のブレード・ランナー。

 しくじった…!

 俺の剣はプニプニの本体には当たらなかった。剣先が当たる寸前にプニプニが本体の位置をぶにっとずらしたせいだ。エリーは俺がプニプニを倒したと勘違いして土の壁を崩しはじめている。…彼女は少しも気付いていない。壁の向こう側ではプニプニが今にも飛び出そうとプニプニしているのに。


「エリーーーーーッ!!!」

 間に合わない。巨大なプニプニに体当たりされたエリーは、あっという間に後ろの木の根元まで吹っ飛ばされてしまった。

「エリー…!!!」

 あいつの被っていた帽子が目の前にふわりと落ちてくる。俺はそれを掴み上げてあいつの名前を叫ぶ。でも、あいつは木の根元でぐったりとしたまま動かない。

俺のせいだ。俺があいつをモンスター退治なんかに誘ったから……。


「………。」

 …もう。何匹倒したかなんてどうでもいい。俺があいつを助けなくちゃいけないんだ。



 真っ暗闇の中で、私は誰かが私を呼ぶ声を聞きました。でも、私はその声に応えることが出来ませんでした。

 雨が止み、誰かの声も聞こえなくなった頃。私は思いました。

 私は、『誰にも見つけてもらうことが出来なかったんだな。』と。


 悲しいな。と思いました。

 自分の事なのに、他人事のように思いました。

 生きたいなんて。そんなぜいたくな望みはありませんでした。


「生きる事を諦めるな……!!」

 誰かが私の手を強く握りました。しびれた手足に感覚が戻るほど。強く。優しく。

「そんなに死にたいのなら……!死ねないだけの理由を僕が与えてやる……!!」

「ありったけの野望を…!願望を……!希望を……!僕が与えてやる……!!」

「……だから死ぬな!エリー!!!」


 ああ、そうか。

 どうやら私は、ここで死ぬわけにはいかないようでした。



「──ソードファインダー・オクテット・オーダー。」

「エリー…!?」

 声に耳を傾ける暇もなく、空から降ってきた8本の光が巨大なプニプニをあっという間に串刺しにする。振り向くとそこには両手を前に突き出して魔術を詠唱するエリーの姿が。


「無事だったんだな…!」

 俺は安堵した。それにしても今の魔術は一体何だろう?一瞬剣のようなものが見えたけど、光る剣を出す魔術なんて聞いたことがない。

「アルケイド!!」

 エリーは強い意志の籠った声で俺の名前を叫ぶ。あいつの伝えたいことは分かる。……でも無理だ。俺じゃアレに勝てない。もう一度アレに斬りかかったところで、さっきと同じように回避されるに決まってる。

「大丈夫!私たちなら出来るよ!!」

「エリー…!?」

 金色の髪を靡かせながら、エリーはにっこりと微笑んで言った。ふと剣先を見直すと、俺の握る金細工の王剣が今まで見たことがないほど黄金に輝いているのに気付く。

「これ……。」

 …そうか。俺に出来なくても、俺とエリーなら出来るんだ。

 俺は黄金の剣を正面に構え、巨大プニプニ目掛けて思いっきり振り下ろした。

 刀身が触れる瞬間、とんでもない衝撃を受けて俺の手はしびれてしまった。でも、あのしびれこそが俺たちの勝利のあかしだった。


------------------------


「そうだ、エリー。これ。」

「うん?」

 アルケイド君は申し訳なさそうな顔をして私に帽子を見せます。帽子は土で汚れていて、ずいぶんしわくちゃになっていました。

「ごめん。あのとき慌ててたから、さ……、」

「……。」



 エリーは悲しそうな顔をした。いつでも被ってた帽子だし、やっぱりお気に入りだったんだろうな。

 そう思うと、俺もなんだか悲しくなった。せっかくあれだけ大きなプニプニを倒したってのに。…もう何もかも台無しだ。

「………。」

 元気づけないと。俺はそう思った。けれど、俺はこういう時に言える言葉をろくに知らない。何言ったってきっと逆効果だ。

「………いいよ。気にしてないから。」

 エリーは言う。帽子に付いた土をぽんぽんと払い落としながら、むしろ俺のほうを気遣うように。

「でも…!大事なものなんじゃ…!!」

「違う!!!」

 突風が森を吹き抜ける。帽子はあっという間に飛ばされ、俺とエリーの二対の角がひゅうひゅうと風を切る。

 ……そう言えば初めてだ。この子はいつだって帽子をかぶっていたから、この子の角を見るのは今日が初めてだ。


「……。」

 二本の黒い角。エリーはそれをいつも帽子で隠していた。角は龍人の誇りなんだし、普通だったら隠したりしないはずなのに。

 ああ、そうか。

 俺は思い出した。この子の父親───デュミオス先生は人間だ。もしもこの子が本当に人間の子なら、角なんてあるはずがない。


「……なあ。」

 俺は恐る恐る聞いてみる。きっとエリーは嫌な思いをするだろう。けどやっぱり聞きたい。今聞かなくちゃもう二度と聞けない。そんな気がした。

「エリー、お前って……。」

「うん。……私はデュミオスお父さんの本当の子供じゃないよ。ずっと昔に拾われたんだ。」

 意外にも、エリーはすんなりと答えてくれた。帽子をかぶるのも、角のないデュミオスに少しでも近づきたいからだと教えてくれた。それ以外にも昔の事をいろいろと教えてくれた。

 数年前、リギア事変と呼ばれる魔都襲撃事件によって魔都リギアは王城の半分を巻き込み瓦礫の山となった。その時に瓦礫に巻き込まれたエリーを救出したのがなんとデュミオス先生だったのだ。でもエリーはショックで記憶を失ってしまい、結局両親を見つける事が出来なかった。だから彼女はデュミオス先生に引き取られて俺たちの村へやって来たのだ。


「でもやっぱり。いつかは私と同じ角をした本当の両親に会いたいな。」

 昔の事を思い出しながら、エリーはさびしそうに呟いた。


「会える。絶対生きてる。」

 だって君はあんなに凄い魔術が使えるだろ。きっと両親だって凄い人に違いないよ。

 俺は確信に満ちた顔でそう言った。

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