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E.S.R.I.1 《Deadlock Chronology》  作者: 帰ってきたきうきう
序章 僕と私のタイムトラベル。
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第92話 オープンキャンパスと鋼の男。

 どうして俺の名前を知ってるんだろう?聞き返そうにも彼女との距離はどんどん離れていく。…このまま二度と会う事はないのだろうか。それともまた、いつか巡り合えるのだろうか。



 精神を蝕む嫌な音。

「……もう朝か。」

 スマホで三回分設定した目覚ましの三回目のアラームで目を覚ます俺。昨日は色々なことがあったが、寝て起きたら全部どうでも良くなった。どうせ今日から何の変哲もない夏休みの続きが始まるんだ。


「……ん?」

 アラームを止めるついでにハチスから届いたメッセージに気付く。どうせくだらない愚痴だろうが…、一応確認はしておこう。

『アルク!今からオープンキャンパス行けるか?』

「はぁ?」

 ほんの五分前のメッセージだ。あまりに唐突過ぎる。

 にしても、まさかアイツからこんな真面目なメッセージが届くとは思わなかった。

『どこのだ?』

『イービストルム大学 昨日からやってるらしいぞ!』

 イービストルム。高速鉄道に乗っても片道3時間はかかる距離だ。とてもじゃないが今からなんて行く気にはなれない。

『一人で行け』

『それじゃ寂しすぎんだろ!』

『知るか』

『アルク!とりあえずこれだけでも見ろ!』

 と、ハチスがURLを貼る。どうやらオープンキャンパスで行われる企画の一覧ページのようだ。特に興味のある企画は無いが。……なるほど。コイツがそこまでして実践魔術研究学科に入ろうとする理由がようやく分かった。それは魔術学部の企画、魔術適性診断だ。これは魔術が扱えるか否か、適正属性が何かを無料で診断してくれる企画らしい。だが注目すべき点はそこではない。……この企画。なんと担当の講師がとんでもない美人さんだったのだ!!!雪のように白い肌と白銀の長髪。爆乳で長身のモデル体型。そして20代前半で時が止まっているかのような圧倒的な美しさ。

 …うん。どう考えてもアイツの目当てはこれだ。


『とにかく来い!来い!自家用機手配するから!!』

『分かった』

『まじ!?ちゃんと来いよな?』

 スマホをしまい、身支度をする。

 魔術。お湯を沸かす事ですらポットのほうが遥かに手早く済むこの時代で、あんな面倒なものを実践してみたいという気にはならないが、俺は自分の適正属性というものを知らない。知ったところで血液型欄の隣に書くか書かないかくらいのものだが、これを期に知っておくのも悪くないと思った。

 身支度をして家を出る。

 ……長髪。ふと思い出すのは昨日出会った彼女の姿。角のような珍しい髪飾りを付けていたが、あれが今の流行りなのだろうか…。



------------------------


「え?」

「え…って、何よ?」

 空港の発着場で俺を待っていたのは二人の操縦士と執事。そしてハチスとネギシの二人だった。

「ネギシも誘われたんだな。」

「あら意外?私だってアルクが来るとは思わなかったわよ。」

 確かに。言われてみれば自分でも意外だ。魔術適性なんてもの以前は一度も気にしたことが無かったのに。


「これで皆様も揃いましたね。」

 ハチスの側に仕えるこの人は執事のロミューさん。影は薄いが俺たち三人の良き理解者だ。

「おーい!二人とも!話は乗ってからでいいだろ!?」

 ハチスに急かされ、俺たちは自家用機に乗り込む。こういうものに詳しい俺ではないが、内装はとんでもなく豪華だった。

「すげえだろ?こいつはライ・エレクトロニクス社製の最新鋭水平離着陸機なんだ!」

「ほー。」

「ふーん。」

「反応冷たすぎない!!?」

「ははは……。では参りましょうか。」

 沈んだハチスの心だけを地に残し、甲高いエンジン音と共に空へと飛び上がってゆく最新鋭のナントカ。足元の街並みはどんどん小さくなり、機体はあっというまに雲の上まで到達する。それからしばらくしてロミューさんは退屈そうな俺たちにちょっとした小話を聞かせてくれた。

「あぁ、そうそう。ライ・エレクトロニクスと言えば皆様はこんな話をご存じでしょうか?」

 ライ・エレクトロニクス社。1000年以上の歴史を誇り、歯ブラシからロケットの開発まで何でも手掛けるこの国一番の大企業。ロミューさんが言うには、その創設者であるハインリッヒ・ライ・リートミュラーは今でこそ機械技術の父と呼ばれてはいるが、かつては大陸一と謳われるほどの大魔術師だったそうなのだ。


「近代魔術革命で魔術を退廃させた鋼の男。そんな彼自身が魔術師だったとは驚いたわ…。」

 ロミューさんの話を聞いてネギシが一人だけ驚いている。ハチスも驚いたふりをしている。ちなみに俺は歴史についてかなりあやふやなので、近代魔術革命のおかげで魔術の時代が終わり、それから機械の時代が訪れたという事しか覚えていないのである。


「……もちろん歴史的根拠のない話です。ですが魔術研究の名門。…イービストルム大学でこの話を知らぬ者は居ないでしょう。」

「へぇ~。」

「ほげ~。」

「ははは…。アルク様とカザミネ様には退屈なお話でしたね。」

「わ、悪いなロミューさん…。せっかく面白い話してくれたのに…。」

 ちなみにカザミネというのはハチスの下の名前。こいつのフルネームはハチス・カザミネだ。


 尚も雲の上を飛び続ける最新鋭ナントカ。窓から空を眺めるネギシに俺は声をかけた。

「……それにしてもネギシ。お前もやっぱり魔術に興味があったんだな。」

「え?何でそう思うの?…別に魔術なんかに興味ないわよ。」

「じゃあどうして一緒に…?」

「タダで飛行機に乗れるんだから行かない手は無いでしょ。」

 あっ…そう。

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