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E.S.R.I.1 《Deadlock Chronology》  作者: 帰ってきたきうきう
第一章 生きるために生まれて。
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第568話 行き詰まりの夢。

「さあて、何処を選ぶ?」

 三度目の勝負も終盤に差し掛かり、勝負を決する重要な場面で私の手番が回って来る。黒のチップをつまみ上げた私は、とりあえず身を乗り出して立方体の盤面を見渡し、最も大きな数字を加算出来るマスにチップを配置する事にした。

「ふむ。最良の手じゃな。じゃが、その手では状況は覆らんよ。」

 博士は言う。三度も同じ言葉を聞いたし、三度も同じ真っ白な盤面を見た。たった三度の勝負でも、自分が追い詰められているという事を理解するには十分すぎる情報量だ。それに、私の配置したマスの数字は『プラス・ゼロ』。何も加算出来ていないし、加算が出来ない。これ以外のマスは全て『マイナス』だから。


「ふぉっふぉっふぉっ。また勝ってしもうたわい。」

 博士が白いチップを配置し、私の残した最後の黒チップを奪い取る。正直言って、これの何が面白いのかさっぱり分からない。こんな事で時間を潰すよりもきうきうを揉んでいた方がまだ有意義な時間を過ごせそうだ。

「ふーむ、気に入らんかったかのう?」

 私が無言で立ち上がると、博士が顔を上げて言った。彼はまだまだ続けるつもりのようだ。

 はっきり言って面倒くさい。使った経験は一度もないが、こういう時に降参を伝える丁度いい言葉がある。


「…参りました。」

 私は言葉を発してから寝床に横たわった。顔を合わせないよう、枕元のきうきうを揉みながら壁向きに。すると博士は言った。

「ここで諦めるのじゃな。まだ勝てる見込みがあるかもしれんのに。」

 その言葉で、私はこのゲームに勝ち負けと言う概念がある事を思い出した。一度も勝利を経験していない私は、きっとこのゲームを半分未満しか楽しんでいないのかもしれない。けれど、勝てる見込みなんて本当にあるのだろうか。三回の勝負を終えても、勝ち目どころか一転攻勢のスキを突く事すら出来なかった。


「諦めます。きっと勝てません。」

 私は壁に話しかける。すると壁の反対側から返答がくる。意外な返答だ。


「ではこうしよう。次の勝負でおぬしが勝てば、わしはおぬしに時器を与える。万が一おぬしが負けてもペナルティは無しじゃ。良い条件じゃろう?」

「でも勝てません。」

 考えるまでもなく、私は勝負を拒否する。条件の達成できない取引なんてやるだけ時間の無駄だ。

「じゃが、万が一にも勝てるかもしれんじゃろ?」

「勝てません。」

 そう何度か拒否を重ねているうちに、博士の声が聞こえなくなった。ようやく諦めて出て行ってくれたのかと思い、寝返ると。まだ居る。


「戦わんのじゃな。それがお主の選択なんじゃな。」

「はい。」

 鼻のでかい博士が訪ね、私は答える。その質問に何の意味があったのかは知らないが、それ以来博士が私にゲームを持ち掛ける事は無くなった。


 無くなってから数日後。私はエルシェンバラの星々を眺めながら見知らぬ誰かの記憶を思い浮かべる。今日見えた記憶は、瓦礫の上に寝そべって退屈な空と退屈な塔を眺める誰かさんの記憶だ。



 戦うという選択肢がある限り、その者は何度でも戦うことが出来る。

 戦うという選択肢がある限り、その者は何度でも勝利の機会を得ることが出来る。

 戦うという選択肢がある限り、その者は何時でも勝負を諦め敗北することが出来る。


 それは、希望の器に絶望が満ち足りるまで。

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