六話 Ice Age
「須田宮君!」
須田宮君はあの冷気の中をくぐり抜け、私のいる方へやってきた。
「あの人…先にあいつを倒すまで休戦だって…」
「そっか…」
私は二人を見ていた。雷と氷がぶつかり合う。
“Ice Age”は冷気をだんだんと弱める。それと比例するように雷も弱くなる。
二人の間に静寂が流れる。その距離わずかに数歩程度であった。
二人は無言で構える。
武道に疎い私には分からないがきっと高尚な武術に違いない。
“Ice Age”が蹴りを入れる。“Plasma”は右手で受け流し、左手を打ち込む。雷は纏っていない。しかし、それは確かに“Ice Age”の鳩尾に入った。それにより、体制を崩す。それを見逃さず、“Plasma”は右手を振り下ろす。が、“Ice Age”は右手で受け、一度距離を置く。
「ふむ。鈍ってはいないようだな。」
「小癪な…貴様は力を使わないつもりか?」
「君が使わないなら。」
激昴、というのが正しいだろうか。
怒りに任せて冷気を纏った拳を突き立てる。
が、巧みに躱して、背後に回り込み、正拳突きを打ち込む。
数メートル吹き飛んだ。
相性は最悪だった。広範囲に影響を及ぼす“Ice Age”では局所的に高エネルギーをぶつける“Plasma”とは相性が悪すぎた。
「君の拳には戦いの美学がない。師匠にも言われていただろう。」
「戦いに美学など不要!ただ勝利こそがあればいい!」
一気に距離を詰める。首をひっつかむ。咄嗟のことでプラズマの展開が遅れる。首が凍っていく。雷の拳を打ち込む。怯ませる程度であったが首を離してしまった。
速すぎた。あまりにも速すぎてついていけない。
“Ice Age”は冷気を指先に集中させる。これまでにない攻撃。恐らくは弾丸のように冷気を射出するのだろう。この短時間で新たな攻撃を編み出したのだ。
即席の冷凍弾丸が放たれる。プラズマの分解速度では追いつかない。
弾丸が腹部を貫通する。肉が凍る。血も流れずただポッカリと穴が空いた。
「ぐっ…」
「俺はお前さえ殺せればそれでいい!お前を殺せばこの世に俺より強い者はいない!」
「そうか…あの試合は君の唯一の負け戦だったのか…」
「その通りだ!貴様さえいなければ!」
「やはり…お前はわかっていない。」
「なんだと…!」
「武道とは強さを追い求めることではない…己が心を律することである!」
雷撃を放つ。体を貫通する。その場に倒れ込んでしまう。
が、その時、大地から氷の槍が“Plasma”に突き刺さる。
お互い満身創痍であった。それでも彼らは止まらなかった。
私はただ呆然とそれを見ていた。
雷撃が私のそばに飛んできた。氷塊が私の隣に降ってきた。
それでも私は二人の死闘を見続けていた。
空が白み始めたころであった。
二人の戦士は互いの胸に氷と雷撃を浴びせた。
片方は憎しみを、もう片方は哀れみを乗せていた。
二人同時に膝をつき、倒れ込む。
この戦いは相打ちに終わった。
「終わったようだね。」
いつの間にかへスースがそばに立っていた。
「つまり、そこの少年が最後の一人になったわけだ。」
指を指した先に、須田宮君がいた。
「さあ二人とも、着いてきたまえ。勝者の部屋に案内しよう。」
私たちは釈然としないような顔を見合わせた。
これでいいのだろうか。
俺は勝っていない。
勝っていないのに勝者だなんて。
いっそ願いが叶うなら…