五話 Over the rules
何が起こったのか私にはわからなかった。
「やっぱり、“Plasma”は強いね。さすがは第二回王者か。」
「第二回…」
「ああ。審判が必要になった原因の試合さ。」
私は記憶に問いかけた。もちろん、そんな記憶などあるわけはないが、審判の権限で過去の試合を見ることが出来るようだ。
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それは、地獄だった。
Plasmaは決して雷を操る能力ではなかった。
そもそも、プラズマとは端的に言えば原子の分裂である。
雷とは正と負の粒子に別れることで電流が起きるだけである。
“Plasma“の能力はこの現象を意図的に操れるのだ。
つまり、人体を粒子分解することすらも可能であった。
第二回は凄惨を極めた。
ただ1人“Plasma”を残して全てが粒子へと消えた。
危険だと判断したハスースはその不死性を利用し、王者権限を奪った。
それから、二度と争いに関係の無い人間を殺さないために“審判”を制定した。
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「今回の“Plasma”は危険人物じゃなくてよかったよ」
それを聞いて私は背筋が凍った。
そうだ、一歩間違えたら須田宮君は存在を消されていたんだ。
「くっそ…」
須田宮君は立ち上がった。肩で息をしている。威勢よく吹き出していた蒸気も今は湯気と何も変わらない。
「まだ立ち上がれますか。なかなか手強い相手だったようです。」
“Plasma”はメガネを軽く上げる。そして、第二撃を放とうとする、その直前であった。
「貴様ァァァァァァァ!!!」
私の後ろから、怒鳴り声、それと同時に突風が吹く。
「ひっ…冷たっ!」
振り向くと目を疑うような、しかし、一度見てきた光景があった。
街が、凍っていた。
噴水も、草花も、ビルに至るまで凍りついていた。
その中にあのダッフルコートを着た季節外れの男。
「“Iec Age”…漸く到着か。」
ハスースは男を睨んだ。その目は第二回の“Plasma”に向けられたものと同じだった。
しかし、男の目は違った。彼は間違いなく“Plasma”の方を向けていた。
「おや、久しぶりですね灰夜君。10年振りくらいでしょうか。」
「貴様貴様貴様ァァァァァァァ!」
冷気を放つ。私は咄嗟に“盾”の構えをする。が、
「ダメだ!」
ハスースは私を引っ張って建物の脇に投げ飛ばした。
他の三人は冷気に晒されている。
須田宮君は蒸気を張って凌いでいるが、間に合っていない。
“Plasma”は粒子分解により熱を発生させている。それで須田宮君をも庇っている。
ハスースは…だめだ。完全に凍りついている。死なないからと言って痛くないわけじゃないと言っていたのは誰だったか。
「“Steam”の少年。ここは休戦を提案します。彼は私に用がある様です。が、あなたが彼とともに私と戦いたいと言うならそれでもいいでしょう。」
「…休戦でいい。あれと組むのは無理そうだし。」
「ええ。彼は人と合わせることは決してしませんから。」
「あいつと知り合いなのか?」
「はい。同郷の後輩です。」
「恨まれるようなことでもしたのか?」
「…覚えがありませんね。」
「じゃあ逆恨みかなんかだな。」
「恐らくは。私はそろそろ攻めます。離脱は任せますよ。」
ゆっくり、ゆっくりと。
左手を突き出し、大気を分解し、雷霆を想起させるような程のエネルギーが生まれる。
冷気と雷。ぶつかり、鬩ぎ合う。
一時も見逃すことの出来ない接戦である。
果たして勝者はどちらか。
姿無き声は報告書を仕上げ、転送した。
上から言われた、今回は面白くなると。
確かに、大一番にふさわしい2人だが、面白くない少年が1人いる。
まさか漁夫の利で神秘に触れるつもりなのか?
そうか、もう生き残りはこの3人だけか。…あのバカは除いて。
この戦いも愈々大詰めである。ここからが本番だ。5回も繰り返して漸く本番が始まったのだ。心せよ。そして、とくと見よ。