四話 Plasma 後編
「天統べる戦い…」
「その通り。」
へスースと名乗った男は答えた。へスースってなんだ呼びにくくて仕方ない。
しかし、彼はそんな私の考えも知らずに続ける。
「見たまえ、君の仕事はもうすぐそこだ。」
指さされた1つの画面にはまだ暑いにも関わらず、真冬のような格好をした男がいた。
「彼は“Ice”そして、それを超えた者。」
「超えた…?」
「そう。彼の能力はもはや“Ice”と呼ぶには強大すぎる。我々は彼を“Ice-Age”と再定義した。そして彼はこの街に近づきつつある。」
「それは裁定者が関わることなんですか…?」
「それだけじゃ動かないさ。通ってきた街はこんな感じだ。」
そこにはまさにIceage─―氷河期のような風景が広がっていた。
逃げ惑う人々、ビル、路傍の草花に至るまで全てが凍りついている。
ただ一つ、その中央に映っていた男を除いて。
「止めなければこの街も滅ぶ。被害を最小限に食い止めるんだ。やってくれるね?」
断る理由などなかった。しかし、口は開こうとしない。怖い。怖い。
「これを止められるのはきっと、君しかいない。」
わかっている。わかってるのに。
「君の大切な友人が、それだけじゃない。家族がいなくなってしまうかもしれないんだ。」
──友人、家族。
「わかりました。」
短く、重く。自分の体を、本能を拒むように出た言葉。
「それじゃあ、急ごうか。」
へスースは元々窓があったと思われる淵に立つ。
「乗って?」
「えっ。」
「大丈夫。私は死なないから。なんと言っても“Life”の能力は死なないことだからね。」
「いや、そういう訳じゃな」
言い切るか言い切らないかの時間に私の手を引き、11階から紐なしバンジーを食らわされた。
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「ここに来るんですね。」
「これまでの進路から想像すると、ね。」
なんだかこの男は信用ならないが、確かに11階から落ちても無傷だし、色々教えてくれたから味方なのかな…?
「あれ、鏡さん?こんな所で何やってるんだ?」
聞き覚えのある、懐かしいと感じる声。
「須田宮くん!どうしてここに?」
へスースは何かを思いだしたように言った。
「あいつが協力者を呼ぶみたいに言ってたからたぶん彼じゃないかな?」
「誰だ?あんた。」
須田宮くんは若干不機嫌そうに聞く。まあ、女子大生とはいえそんな人間と一緒に歩いているおっさんは一般的には不審者だ。
「君の味方じゃないけど君たちの味方だよ。」
「なんだそれ。鏡さんとはどういうご関係で?」
ああ、不良みたいな絡み方してる…
「…!喧嘩はまたあと、誰か来るみたい。」
確かに、靴音が聞こえる。闇に紛れてどこにいるか見えない。
「誰?どこかにいるの?」
私が聞くと、どこからか声がする。
「3人…?私はこれからトーナメント形式だと聞いてやってきたのですが…?」
街灯に照らされた姿一言で言えば平凡だった。
きっちりとしたスーツに、黒縁の四角いメガネ、サラリーマン御用達のカバンまで持っている『theサラリーマン』って感じの人だ。
「君は…“Plasma”だね?僕らは審判だから気にしないで。君が戦う相手はこの少年。」
「なるほど。これはご無礼を。では少年。準備はいいな?」
須田宮くんはまだ状況を飲み込めていないようだったが、
「…ああ。やってやるよ。」と、答えた。
蒸気が私たちに吹き付けられる。須田宮くんが大地を蹴り、男の方へ向かっていく。
一瞬、目を背けてしまったことを私は後悔した。
再び2人の方を向いた。
そこには、膝をついた須田宮くんと、掌からバチバチと音を鳴らす“Plasma”がいた。