四話 Plasma 前編
めっさ遅い
線路沿いに男が二人立っていた。
一人は炎を身にまとい、もう1人はまだ秋だというのに分厚いトレンチコート、手袋に耳あてまで付けている男だ。
「俺に会ったが運の尽きだな。"Ice"の男。」
「…」
「俺の炎でおまえを消し炭にしてやるぜ。覚悟しな。」
「…死ぬ前に一つだけ言ってやる。」
「なんだ?命乞いか?」
「私は"Ice"などではない…」
トレンチコートの裾、袖、襟から冷気が漏れだす。
「ひっ…うっうわああああああああああああああああ!!!!」
「……」
「……」
「…さあ、どうしたもんかね…」
「彼はルールに従っていた。しかし…」
「あまりに人道的で無かった。ってわけだ。」
「あなたの判断は間違っていない。あのままでは人類史が終わっていた。」
「フォローはいいよ。だが…次、あいつのようなやつが増えたら…」
「…そうだ。監視役を作るのはどうだ。」
「監視役…俺の力を一部分け与えればいいか。」
「そうだな。だが、監視役という名では手が出せないかもしれない。」
「なら審判にすればいい。審判が違反だと思えば違反だ。誤審はない。」
「なるほど。次回からは改訂しておこう。」
男は一人、こう呟いた。
「…二度とこんな惨劇を起こしてはいけない。ゲームなのだから。」
…ナムーラオスーフィーリピーン…べートナムーラオスーフィーリピーン…
なんだこの歌と思いながら私は目覚まし時計を叩いた。
本当になんの歌だ。誰の曲だ。
いや、あの夢も気になる。
また、あの男の夢。
しかし、今回はなんだか落ち込んでいた気がする。
それに、その前に見た、誰か…
思い出せない。どんな人だっただろう。ただ、その冷たい殺気だけは、覚えていた。
「おはよー…」
「おはよう、杏。」
黙々と食べる。テレビは秋にも関わらず凍死事故が増加していると話していた。
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「Shield…?」
私はあの男が言ったことが理解できなかった。
「Shield…盾か…」
彼は何かに納得した様子だった。
「本当なのか?」
「しっ、知らない!私は能力者じゃない…はず…」
「…もしかしたら俺の勘違いかもしれない。Jetだってありえない話じゃない。」
「…」
「…」
しばらくの沈黙。
私はたまらなくなって話を切り出した。
「…もう帰ろうか。」
「…だな。ここにいても無意味だし…」
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私は本当にShieldなのだろうか。
でも、蘭子先輩と須田宮君が見た夢とは違う。
私は何の能力者なのか言われていない。
…いや、忘れているのかな。
そんなことを考えていたら、部屋にノックが響いた。
「回収に来たよー!」
「お姉ちゃん…」
「どう?東南アジアの歌第一は?」
「なにそれ…自作?」
「ん?これは美神シノの新曲だよ?」
「はぁ…」
世界は広いなあ
「じゃあ明日は第二だねー♪」
「普通に戻して…午前中ずっと気になってたんだから…」
「でも第二も気になるでしょ?」
「…うん。」
「じゃあ決まりだねー。」
私はその日、家から出ずにおとなしく過ごした。
あんなことがあった直後だ。下手に出歩いたら誰かに狙われるかもしれない。
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「…時は来た…開戦の時が…」
皇帝は口を開く。
「これは、世を総べる戦いである!」
「民よ!この戦は…」
荒野に立つ男は呟いた。
「この力があれば、きっと世界すら破壊できる…」
長身の外国人は私に語りかける。
「君は如何なる悪事をも見逃してはならない。それが、君の使命であり、君の力。」
「君は全ての調停をなす者、"審判"としてこの戦いを見届けるのだ。」
めがっさ遅かった