始まりはいつも唐突で…5p
「このっ…怪力女っ!!」
昇は片手で襟首を掴まれながらそう呟いた。
「たっ…確かに、前回の遠征に連れていかなかった時に約束したけど今回は流石に手間を取らせる訳にはいかないと言うか…」
輝斗はもう逃げれないと観念したのか、輝斗はその場で尻餅をついたまま弁解を行った。
「それでも私も呼んでもいいだろうがバカッ!」
ゴツン。と握られた拳で軽く叩かれる。
だが、その拳は痛くなく、力が入ってなかった。
「…ごめん…。」
軽く殴られたからこそ、この少女の心境が少しだけ垣間見える、この少女は単純に寂しがり屋なのだ。
昔ながらの隣幼馴染みだからこそわかるが、この少女の親の父方は他界し、母親はビジネスマンで、なかなか家に居ないので昔から輝斗の自宅にお世話になっていたのだ。
その影響からか、性格は男勝りになり。
さらに、人見知りな性格が元々有ったせいで女友達に恵まれず。
部活に入って知り合いを少しでも増やそうとしたが、その有りすぎる実力からか、逆に近寄りがたくなってしまい彼女が部活でよく話す人と言えば、部活にあまり顔を出さない顧問の先生ぐらいだ。
「さみしがり屋なのに何で人見知り何だよ…(小声)」
「まぁでも小中までは結構一緒に遊んでいたのに、高校になってから遊ばなくなったからか?…(小声)」
「兎も角!私は付いていくからな!」
捕まれてる二人のこそこそとした会話を聞かずに、杏奈はそう言った。
「…はぁ、解ったよ…こうなったら杏奈は意地でも来るだろうし…」
ズレた眼鏡をかけ直しつつ、輝斗は諦めたようにそう言った。
「ん?でも杏奈、お前準備は?」
ふと、剛がそう言うと。
杏奈はそこそこに膨らんだ胸を前につき出して偉そうに言った。
「出掛ける時に持っていくものは何時でも出掛けられるように常時準備はしてる!」
「…やる気有りすぎだろ…」
呆れたように昇は襟首を掴まれながらそう言った。
それからしばらくたって、杏奈はせめて風呂は入らせろと言って自宅へ一旦戻り、残った昇達は外は暑いので輝斗の自宅に車を駐車し、家の中で杏奈が来るのを待つ形となった。
そんな中、輝斗はテレビを付けて昇と剛に飲み物を出す。
テレビはニュース番組がやっており、女子アナが沖縄の天候についてのリポートを行っていた。
『現在!ここ沖縄ではかなりの晴天が続いており、まさに海水浴シーズンとなっております!!』
テレビではもう夏休みも一週を切っているからと言うもの、若い男女がわいわいガヤガヤとビーチではしゃいでいるシーンが撮された。
「そう言えば、輝斗達は何回海に行ったんだ?」
出された冷えた麦茶を飲みつつ、剛がそんなことを聞いた。
「ぁあ、5回は行ったなあ。」
昇が、扇風機を付けつつやる気の無い声でそう呟いた。
「剛は行ってないのか?」
「一応部活の打ち上げで行ったが、海には入っては無いな。」
空気の入れ換えと言う目的で輝斗は窓を開け放ちながら言い、剛はそれでもなお暑いのか着ていた白いTシャツの袖をまくりながら答えた。
外の風はいまだ蒸し暑く、やはり夏本番と言ったところか少しは風が吹いていても涼めるといった程ではなかった。
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