はろー、ぐっばい
最終話です。
俺様王子に連れて来られたのは、なんか広くて豪華な部屋。
一人だとおもってたら味方を何人もかくしていたらしい。胴上げみたいに抱え上げられて、あたしがちょっと小さいからって軽々運びすぎなのよ!!
それになんで椅子にくくりつけられなくちゃいけないわけ?おはぎはベッドで跳ねてるんだけど。
納得できん!
「よお、俺様の女になる覚悟はついたか?」
「はあ?何言ってんの?あんたなんかお金もらってもお・こ・と・わ・りぃー!!!」
「てめえ、視力ねえのか?そのまんまるな目はふしあなか!?」
「ま、まんまるって言ったな!!あたしがまんまるで小狸みたいって!!!むきー!!!」
あたしが、子どもの頃から一番言われたくない悪口。父さんや卯月みたいな切れ長の凛々しい目じゃないって気にしてるのに。
顔が赤くなってるのがわかる。むちゃくちゃ腹立つ!!こいつ、絶対に許さないんだから。
「ああん?なんで腹立てるんだ?異世界人は価値観がちがうのか?この美しい俺様の女にしてやろうって言ってるんだぜ。泣いて喜ぶのがあたりまえだろ。なあ、獣人?」
「そうねえ、あたくしが会った人族の中じゃあ3本の指に入るわね。ちなみに残りの二本のうちの1人は貴方様の父上よ。まばゆいほどの黄金の髪に、陶磁の肌。コバルトブルーの瞳に桃色の頬、立ち姿は女神をおもわせるほどに目を引くわね。あたしもぜひお願いしたいわ!」
おはぎの言葉を聞いて俺様王子をマジマジと見てみる。
確かに、おきれいな顔をしている。黙っていればギリシャ神話に出てくる神々のような後光もついてきそう。
でもなあ、男は顔じゃないのよ。顔じゃ。
(ピクっ)
「俺様は顔だけじゃねーぞ!俺様は未来の王だ。俺様ほど将来性のある男はいねえさ。俺様の国は豊かで武力にも優れている。俺様の女になりゃあ贅沢し放題だぞ。
この国も代々の王の異世界の秘術とやらで栄えているみたいだが、俺様のがその気になればかんたんに滅ぼせる。どうだ、顔だけじゃねえのがわかったか?」
「えー?贅沢させてくれるの?」
「ああ、いいぜ。(ふん、やっぱり女なんかみんな同じだ)何が望みだ?宝石か?金か?それとも嫌いな奴を懲らしめてやろうか?」
「うんにゃ。あんこ。いますぐあんこお腹いっぱい食べさせて!」
「ああ?あんこだ?いいぜ!おい、お前ら、今すぐあんことやらをここにもってこい!」
「「「はっ?ですが、あんことは?」」」
「うるせー!さっさと行け!!」
「「「はっ」」」
「ちょろいな。これで、あの無表情がどんな顔するか楽しみだぜ。」
「ねえ、あんたさあ、なんでそんなにモテないの?」
「「はあ?」」
「だって、将来性のある男なんでしょう?なのに、自分の国には彼女になってくれる人もいなかったの?」
「ちょっと、弥生。何言ってんのよ。もてもてにきまってるじゃないの。あんたもその1人にしてくれるっていってんのよ!」
「ええー、そうなの?うわあーさいてー。無理、絶対無理!一緒の部屋にいたくなーい!!せめて窓開けてよ。同じ空気すうのも嫌!」
「ああん?俺様に惚れたんじゃねーのか?」
「あんこ食べさせてくれるならいいかなあってちょっと思っちゃんだけど、「え?なんであんこ?」やっぱりだめだね。二股最低ー。」
「・・・。」
「男は顔じゃないのよ。もちろん、将来性でも無いね。」
「へ、へえ。じゃあ、男は何が価値あるんだ?言ってみろよ。」
「そんなの、決まってるじゃない!!愛よ!」
「・・・。」
「ふっ、ふはははっははっは!はははっはっはっはっは!!」
「何笑ってんのよ。あんたが聞いたから答えたんじゃない!」
「はっはっはは。ひー、あー、腹いてー。おまえ、それ、マジでいってんの?」
「あたりまえじゃない!!本気と書いてマジです!」
「そんな下らねーもんがいいのかよ。ばかばかしくてへどがでる。そんなもんは、幻なんだよ!!」
「まぼろしじゃあーりーまーせーんー!あたしの父さんは母さん一筋だもん。結婚する前から、死んじゃった今だってずうっと母さんを愛してる。あたしは父さんみたいにあたしだけを愛してくれる人が良いの。あたしだってずっと好きな人を愛し続けるんだから。それで家族を大切にして幸せに暮らすの!」
「幻想だ。好きな気持ちなんて幻だ。好きな男と一緒にいても俺様が声をかけりゃあ喜んでついてくるのが女だぜ。男だって金や地位をちらつかせりゃあ、大事な妻だって差し出すんだ。おまえがおもってるほど気持ちなんて不確かなものなんだよ。」
「だーかーらー。あたしは違うの!父さんだって母さんだって違う。卯月だって葉月だって葉月父だって心に誓ったたった1人の人をずっと愛していくの。あんたの知ってる人やあんたとは違うのよ。」
「・・・・・・。」
だまりこんだ俺様王子の部屋に、兵隊さんを引き連れて卯月と葉月がやってくるまであたしは椅子に座ったまま(縛られてうごけなかったからね)窓から入ってくる新鮮な空気を吸い続けた。
おはぎまで黙り込んでしまったのはなんでかな?
「弥生、お、俺も、お、おま、おまえを「弥生大好き!」卯月ー!!俺が、今、すっげえ頑張ってたのによー(泣)」
俺様にさらわれてから助け出されるまでの話を聞いた2人はいつものように仲良くけんかして。
あたしは2人に「大好き!!」としがみついて、膝からころげ落ちたおはぎを無言で窓から卯月が投げたり、懲りない俺様王子にまたからまれたり、異世界はにぎやかです。
一緒に来たのに一度も顔を会わせない父さんは卯月のための新しいお城を日本文化満載で建てていたこととか(大工だからね)、こっちの兵隊さんと筋肉で語り合っていたとか、卯月父が卯月が女の子服だったのに気付かず男の子として王位を譲ろうとしたこととか、まだまだ話したいことはいっぱいあるんだけど、この辺でおしまいにしようかな。
じゃあ、またね。
読んでくださり、ありがとうございました。
描くのとっても楽しかったです。
楽しんでもらえたなら嬉しいです。