彼女の話 4
「何こぼしたの?ここ、濡れてる。」
女が、膝間づき父の膝に置いた手を、父の隣あたりのソファに置き、立とうとした時だった。
私がさっきまで泣いて父を呼んでいた場所だ。
もしかして、私の涙…?
また胸が高鳴った。
「あぁ。朝から飲んでて。」
父がテーブルの上にある空き缶をぶらぶらさせながら、
少し笑った。
「こぼしたんなら、拭かないと。」
笑った父を見て、少しほっとしながら女がハンカチを出していた。
私は、無力感で、自分の部屋へ移動した。
…歩いたつもりだ。
はたからどう見えていたのかは知らない。
見えてもいないのだろうが。
私の勉強机に、友達に借りっぱなしのノートがそのままに置かれていた。
明日、返す約束だったのに……。
ノートをぱらぱらとめくり、また涙がこぼれた。
私、死んだの?
裕子の丁寧な文字が並ぶ。
5年生になり、同じクラスになってから、とても気があった。
初めて好きな男の子が出来た。
山中君という、少しお調子者の男の子だった。
裕子と交換日記をつけて、裕子にだけ、その事を告白した。
もうすぐ、クリスマスだから、
どちらかの家でパーティをしようと約束していた。
裕子が、山中君がいつも遊んでいる公園へ、そのあと行こうと言ってくれた。
山中君も、私の事が好きらしいと、他の男子から聞き出してくれたのも、
裕子だった。
涙だけが、ぼろぼろこぼれた。