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一ヶ月ほど前だった。親戚のおじさんが亡くなった。私は産まれて二度目のお葬式に両親に連れられて出席していた。一度目はまだ生後数か月の頃に母に抱っこされていただけだったらしいので、記憶にあるのはこれが初めてのお葬式だった。黒い服の人ばかりなのにお花は白いのばかりで、そして薄暗い会場の中ではピアノの伴奏が流れていた。久しぶりに会うらしいおじさんやおばさんが、大きくなったねぇとかわいがってちやほやしてくれるので、中々楽しいなと思っていた。亡くなったおじさんというのも、何度か会ったことがあるそうなのだが、よく覚えてはいなかった。私は母の手を握ったまま、少し浮かれ気分で母に話しかけた。

「ねぇねぇママ。」

「声が大きい。」

 母は自分の地声が大きい事は自覚していて、それがこの子にも遺伝したのねと何かと口にする。私はそれだけいつも声が大きかったのか。

「ねぇねぇ、ママ。」

今度はひそひそ声が大きい私に、それ以上言うのは諦めた母が、「なぁに?」と言いおわらないうちに続けた。。

「今日は大体、何の日なの?」

「・・・えーと。あのね、あそこにね、お写真があるでしょ」

たくさんの白い花に囲まれた写真を小さく指さしながら母が答えた。

「あのお写真のおじいちゃんが死んじゃったの。だからみんなでお別れするの。あ、死んじゃうって、わかる?」

「わかるよ、私。死んじゃうってお空にいくってことでしょ、お星さまになるんでしょ。」

「あ、そうなの?千の風になるんじゃないの。」

私はよく意味がわからずふーんと言った。

「どうなるんだろうね。ママよく知らないけど。ていうか、知ってる人なんていないんじゃないかな、死んだ後なんて。」

「なんで?」

「だって、死んだらお話しできないじゃん。今いる人達は死んだことないからわからないよ。」

「違うよ、お星さまになるんだよ、この前ほら、ドラマでさぁ、あってたじゃん。」

私はその頃人気子役が出演していた、幽霊を題材にしつつも暖かい家族を描いたホームドラマを毎回かかさず見ていた。ドラマの家族が飼っていた犬が死んでしまったときや、出てくる幽霊が成仏する時に、星になってみんなを見守るんだよと言っていたのだ。

「いや、それでもさ、どうなるかなんてわからないよ。」

母は大体優しいのだが、自分が譲れないという話しのときだけは、いくら子供の私相手でも意見を曲げたことがなかった。

「今、お話しできる人は死んだことがないんだから。」

また同じことを繰り返して言った。そして、

「まぁ、いつかはみんな死ぬってことはわかってるんだよ。だから今を楽しく生きていかなきゃ、もったいないんだよ。」

「ママも死ぬの?」私は急に怖くなった。怖くて怖くてたまらなくなった。あそこに飾ってある写真のおじいちゃん。あんなに笑っているのに、もうお話しが出来ないって?星にもならなければ、どうなるかもわからないの?そして私も?いつかそうなるの?

「ママもね、そりゃぁいつかはね。でも星にはならないと思うよ。だってあれは、宇宙ていうのがあって、そこに浮かんでる地球みたいな、なんていうか・・・・」

こんなに不安に駆られている私をよそに母は、持論を展開している。というより、私の不安な気持ちは分かっていて、不安になる必要がないように現実的な話をしていたのだと今は思うが、お構いなしに私は涙があふれてきた。

「ちょっとりこちゃん、そんなに泣くことじゃないんだって。」

母は私の頭を少し大げさによしよししながら、私の顔を覗き込んで笑って言った。

「だってママが死んだら嫌だ。りこはずっとママと一緒にいたいから」

言ってしまって、自分の言葉にまた切なくなり、怖いのと混ざり、えんえんと結構な声で泣いてしまったので、母は私を連れて会場の外に出た。外の空気に触れ、少し冷静になり母を見ると、母が今度は涙ぐんでいた。

「そうだよね、ママもりことずっと一緒にいたい。」

母は気が強いが泣き虫なのだ。母は父とよく喧嘩をして、というより母が一方的に感情をむき出しにして泣いているだけなのだが、よく言っている。「私が泣くのは怒っているからじゃない。、気持ちが伝わらないのが悲しいだけだから」と。そんな母が私の前でもよく泣くのだが、その時は決まって私も本当に悲しい時だった。そのまま私は母に抱きしめてもらい腕の中で母の服の匂いを胸いっぱい嗅いだ。大好きな柔軟剤の匂いと母の匂いが混ざりどんどん気持ちが落ち着いていった。涙を流しながら落ち着いていった。


「ねぇりこ。ちょっと来て来て」

母はよくにこにこしながら、私を呼んで取り込んだばかりの洗濯物の匂いを嗅がせたがった。

「ママねー、この匂い大好きなんだよね~。」

「何の匂い?」私が聞くと母は決まって、

「幸せの匂い。」と答えていた。

そんな事を思い出していた。



「おーい。そろそろバスがでるんだってよ。」

葬儀が終わり、途中で暇を持て余した私を母が自動販売機の前に連れて行き、お茶を飲んでいた時だった。火葬場に行くバスが出発するという事で、父が私たちを呼びに来た。

「火葬場ってどこ?」

母が尋ねる。

「網内のばあちゃんの墓のとこだって。」

「あぁ。いつもお参りに行くとこね。」

「そうそう。その後また戻ってきて、今度はそこで会食だって。」

父はそう言って、外の道路の向かいに見えている、料亭を指さした。

「あら、そうなの。じゃぁ、今日は夕食作らなくていいのね。」

母は一瞬笑みを浮かべて、場違いだったわという感じで口をつぐんだ。

「ほら、行くわよ」

駐車場の方から祖母が私たち親子を大声で呼ぶ声が聞こえて、私たちは急いでバスへ向かった。



今度は何があるのかと母に尋ねると、みんなでおじいちゃんを天国へ送るのよと母が言った。ではさっきの式はなんだったのか。そのままを続けて問いかけると、母は首を傾げて目線をバスの左の方の天井へうつし、少し間を開けて

「知らない。」

とだけ答えた。私達の前の座席に座っていた祖母が、シートの右横から顔だけ出して振り返り、りこちゃんはお葬式静かによく頑張ったね、と言ったのだが、答えをはぐらかして話を変えているのが、子供心にもなんとなく分かり、

「うん、りこ頑張ったよねぇ。でも暇だったぁ。途中でわがままいったしね。」

と答え、それ以上何も聞かなかった。まわりの親戚のおじさんおばさんがどっと笑い、私も笑った。通路を挟んで祖母の隣りに座っていたそれまで、神妙な顔をした祖母に似たおばさんも微笑んで座ったまま上半身だけ私の方へ振り返り、

「りこちゃん、今日はありがとうね。」

と言って飴をくれた。

「ありがとうございます。」

「あら、ちゃんとお礼が言えて偉いね。」

私は母を見て少しはにかんだ。

「りえさんも、いつも妙子さん達に孫かわいがらせてくれて、ありがとうね。」

そのおばさんが、母にもそう言ってほほ笑んだ。

「おばちゃん、りこのおばあちゃんに似てる。」

私が座席から身を乗り出し、祖母とそのおばさんを見比べながら言うと、

「だって私りこちゃんのおばあちゃんのお姉さんだもの。」

とまた微笑んで答えてくれた。

「それで、この写真のおじいちゃんは、おばちゃんの旦那さんよ。」

そういって、おばさんは胸に抱えた、先ほど葬儀の時に、母が指さしして教えてくれた死んでしまったおじいちゃんの遺影をそっと撫でた。

バスがコンビニの交差点を右に曲がり、国道をそれて山道に入ると、それまでの街並みの風景とはがらりと変わり、一気に紅葉の山々が迎えてくれた。そのまま十五分ほど道なりに進むとそれまでの雑木の小道から、きれいに植栽された長い生垣の小道に変わった。

「ほら、着いたよ」

祖母が、私の手を引いてバスから建物へと連れて行ってくれた。

駐車場からその建物へ続く歩道を歩きながら、祖母は私の手を握り、紅葉が見事な木々の名前を教えてくれた。そのすぐ後ろから先ほどのおばさんも一緒に歩き、その隣りをおばさんの息子さん家族が歩いていた。おばさんには孫にあたる男の子は私の一つ年上らしく、私たちはすぐに仲良くなった。旦那さんの遺影を抱えて歩くおばさんの後ろから、秋も終わりの木漏れ日が優しく降り注ぎ、おばさんの髪を金色に縁取っていた。

仲良く遊ぶ私たちを見ながら、おばさんはまた微笑んで、

「おじいちゃん、今日は天気が良くて気持ちがいいですね。」

となんとなしに呟いた。すると、今までねこじゃらしを引っこ抜き、私と遊んでいた男の子が、

「ばあちゃん」とおばさんを呼んだ。

「じいちゃん、死んじゃったんだから聞こえないのに。話しかけたりして変なの。」

「え~、死んじゃったら聞こえないの?ばあちゃん、知らんかったよ。」

すると男の子のお父さんが、

「きっとおまえのじいちゃんの事だから、『こぉら~。誰が聞こえんかぁ』って今日の夜あたりお前のところに出てくるかもしれんぞ。」と言った。そしてみんながまた笑った。


建物に入り、おばさんが受付で何か手続きをして、すぐ戻ってきた。

長い長い大理石の廊下を抜けると、高い天井が抜け、 炉が十程並んでいた。おじいちゃんの入った棺が奥から三番目の炉の前に運ばれ、私たちはそこを囲んだ。

「お父さん」

おばさんがおじいちゃんの棺に呼びかけた。

「お父さん」

鼻をすする音が聞こえるけれど、誰も何も言わなかった。


「よろしいですか。」

黒いスーツを着た係りの人が、おばさんに静かに言った。

おばさんはおじいちゃんの棺を両手で優しく優しくさすり、「はい」と答えた。

棺から手を離したとき、おばさんは泣いていた。ありがとうと言っていた。


そのまま流れる涙を気にもせずにおばさんは、胸の前で両手をこぶしにしてさすり、、目を閉じて一呼吸した。

赤い大きなボタンの前に息子さんと一緒に進んだ。

息子さんが、おばさんの背中をさすり、おばさんがそのボタンを押すと、ボンと大きな振動がして、ゴーッと音が聞こえてきた。

おばさんはその後もずっと胸の前で両手をこぶしにしてさすっていた。



その後お菓子を食べながらお茶を飲み、小一時間ほどみんなで広間にいた。

そこにはいくつものソファがあり、みんなそれぞれ固まって話をしていたようだ。私は先ほど仲良くなった男の子と少し遊んで、それから一人で座っている母のもとに座った。そこからななめ方向にある窓際の一角のソファで、お坊さんをおじさんおばさん達が五、六人で囲み、やつぎばやに質問しているのが聞こえてきた。

「死ぬとどがんなるとですか?」

「やっぱりこの年になっても死ぬのはこわかですね」

そんな感じだ。

お坊さんがにこにこして答えていた。

「誰でもそういう思いはあるんですよ。こういう葬儀の一連も言い換えれば残された私たちの為にしているようなもので。精一杯一人一人が己の人生を生きていくことしかできません。」

ところどころのセリフしか聞こえないが、母と聞いていた。

母はお茶を一口飲み、茶菓子をつまみ、あまり興味がないようでいた。年をとっても死ぬ事って怖いんだなぁ、何気なくそう感じた。それから母はまた少しお茶を飲み、また菓子をつまんだ。

「これ、結構おいしいよ。そう、この白い包装のこの最中。」

「え?最中⁉食べる食べる。」

私はケーキ等はあまり好んで食べず、せんべいや羊羹などと言った和菓子の方が好きだった。初めて食べる最中はやはり私好みであった。あと二口ほどで食べ終わるかと言う頃、火葬が終わった旨を伝える館内放送が流れ、また親族一同が呼ばれた。母は行っていいものか戸惑っていたが、祖母に呼ばれ立ち上がった。私はそれから何をするのかもわからず、ただついて行った。ロビーから廊下に出て皆でぞろぞろと歩いた。重たそうな扉はすでに開いていて、何か焦げ臭いような匂いが鼻をついた。そのまま母に連れられてその部屋に一歩踏み入れた途端、中央の台の上の、白いものが目に入った。

「こわい」

私は母の手を握ったまま行きたくないと立ち止まった。母は小声で

「怖くないんだよ」

と言った。

「なにあれ」

私が言うと、母は私を抱っこして耳元でささやいた。

「さっきのおじいちゃん。の骨。でもね、死んじゃったらね、もうここにはいないから、大丈夫なんだよ。」

大丈夫って何がどう大丈夫なのか理解できなかった。、とにかく説明は不要な怖さであった。初めて見る人の骨というものが、こんな匂いと共にそこに存在している。焼いたのだという事は理解できた。人は死んだら焼かれるのだ、と。そのまま母の首にしがみつき、私は無言で骨を見下ろしていた。何か考えていただろうか。その骨の白さと、部屋の焦げ臭いにおい。他には何も覚えていない。


帰りの車中で私はすぐに寝てしまった。着いたら先ほど出発した葬儀場のすぐ向かいの料亭だった。眠さでもう歩きたくもない私は今度は父に抱えられ、その店に入った。広いお座敷の部屋には長いテーブルが四列、その卓上にはすでに今日の私たちの夕食が豪勢に並べてあった。私は一番手前の席に座り、向かいに座った父は、すでに到着して着座していた隣りのおばさんに久しぶりだねとか、立派になっちゃって等と話しかけられていた。火葬場で仲良くなった男の子を見つけ、私が立ち上がろうとした時、真ん中の列の一番奥の方に座っていたおじさんが、立ち上がり、話し出した。先ほどおばさんが火葬場でボタンを押したときに背中をさすっていた、息子さんだった。

「今日はお忙しい中、父のために集まっていただき、また火葬場までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。皆様のお力添えにより、無事葬儀を終えることが出来ました。今日はささやかではございますが、精進落としの膳を用意いたしましたので、しばらくおくつろぎ頂ければと思います。」

ほとんど私には理解できず、目の前にあったメロンを口に入れてみた。

「うわ、このメロンおいしーい。」

タイミングよく、悪く、ちょうど息子さんの挨拶の区切りの部分で言ってしまい、またみんながどっと笑った。母は私の手を軽くパチンとたたき、

「こら、まだ食べたらだめでしょ!」と顔を赤くして言った。息子さんも立ったまま笑いながら、

「では、長々と挨拶もなんですので、献杯をしたいと思います。ご準備をお願いします。」

と言い、グラスを片手に持った。母が私にも子供用のプラスチックのコップを持たせ、母も自分の分のグラスをとった。

「献杯。」

言いながら息子さんは軽く手に持ったグラスを顔のあたりにあげた。すると母は

「乾杯。」

と、隣りに座っているおばさんとグラスをカチンとならした。その後、

「!もしかして!乾杯じゃなくて、献杯ってけんぱい???グラスならしちゃだめなやつ!?」

と父に小声で言っていた。頬はさっき私がメロンを食べた時より明らかに赤く、かなり目がきょろきょろしている。

「献杯って知らないの?」

父が少し呆れたように言った。母はうつむいて携帯電話をバックから取り出し、ネットで献杯と検索しながら、

「だって私あまり親戚いないから、お葬式でこんな席まで来たこと子供の時以来なんだもん。」

と言ってすこし怒ってまた顔を真っ赤にして、メロンを食べた。そして

「やっちゃった。」

と私ににやにやしていた。



自宅についたのは午後八時を少し過ぎた頃だったろうか。玄関に入る前に、父が母の背中を埃をはらうような仕草でパンパンとはたいた。母は笑いながら、

「そんな事しなくたって大丈夫よ。」

と父に言った。父は少し戸惑った表情を見せた。、

「いつも、かあちゃんがしてたんだよね、お葬式の後は。だからつい癖でね。」

「それって、死んだ人がついてきてるかもしれないから、払ってるってこと?」

「さぁ。」

「死んだからって、いきなり誰かに着いてくるとか、着いてきたら何かするとか、あるわけないじゃん。」

「まぁね。ま、これで気が済むんだから別にいいでしょ。」

「まぁそれもそうだけど。でも死んだからって失礼な話よね、本人にしてみたら。少し前は塩とか振ってたんでしょ。笑っちゃう。」

父はそれ以上何も言わず苦笑いしていた。それでも母は続け、

「大体、万が一ついてくることがあっても、私に来てもらっても何も出来ないから、そもそもそのくらい見抜けるでしょ、人について来ることが出来るくらいなら。だからどっちにしても大丈夫ね。」


お風呂に入り母と布団に入った時だった。目を閉じると火葬場で見た光景が蘇ってきた。窮屈そうな箱に横たわり、そのまま鉄の扉の中に入っていった。ロビーから見た煙突の煙。あれはおじいちゃんを焼いて出た煙だったんだ。鉄の扉から戻ってきたおじいちゃんは、骨になっていて、焦げた匂いを出来るだけ吸い込まないように、浅く鼻だけで息をしていた。母はいつかは誰でも死ぬと言っていた。いつかは、母も同じような骨になるのか。そして私も。死んだらどうなるのか。今のように、真っ暗なのか。真っ暗と感じることもないのかもしれない。だって死ぬんだから。死ぬって何。怖い。何も無くなるの?無くなるってなんなんだろう。私はここにいるのに。私がいなくなるって、どういう事なんだろう。

「え?え?どうしたの??大丈夫?」

目を閉じたまま泣いていた私に気づき、母がティッシュで涙を拭きながらおでこを撫でてくれた。

「ママが、いつか死んじゃうなんて嫌だ。」

そういいながら目を開けようとするのだが、すでに涙は目を開けるのには追い付かないほどあふれ出ていて、天井の常夜灯の橙色がかろうじてにじんで見えるだけだった。鼻からも息が吸えないほどになってしまい、母はいったん私の上半身を抱えて座らせた。

「ちょっとちょっと、やめてよ~、ママ、まだ死なないよ~。りこが大人になって、結婚して、子供が出来て、ママがおばあちゃんになって、もういいやーやり残すことなーいってなってからだから、まだまだずっと先。だから大丈夫だよ。」

「やだ、ママが死ぬなんて嫌だ。」

ティッシュで鼻水をふき取ってもらいながら、それでも死ぬという恐怖が離れず涙が止まらなかった。

「りこもいつかおばあちゃんになって死ぬなんて嫌だ、ママとずっと一緒にいたい。いつか死ぬなんて嫌だ。」

母はおいでといって、座ったまま私を赤ちゃんのように抱っこした。そのままよーしよーしと言いながらゆらゆら揺らしてくれた。それでも怖さは収まらなかった。答えが見つからないのだ。えんえんと泣き続けて、母は私を揺らしさすり続け、私はいつの間にか眠ってしまっていた。



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