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5

彼女の顔に着いた血を拭こうとして、一度は払いのけられたのだが、

なぜかもう一度試みたら、拭かせてくれた。

彼女は私を守らないとこうなってしまう、と言っているけど私にはもちろん意味がわからない。

トイレットペーパーが、血にこびりつき、それを取るのに一生懸命になりすぎて、少し力が入りすぎてしまった。

「…痛いっ!」

「あー!ごめーんっ!!」

「さっき、私が置き去りにした仕返しでもしてるんでしょ。」

「…ばれた?」

彼女に表情が戻ってきて、私は安心した。

私の方を見ているのに、視線は私の体を通り過ぎて、その先のトイレの壁の、そのまた先の、

裏庭でも見ているのかと思うような、視点がどこにあるのかわからない目だった。


「ねぇ。名前、教えてよ。」

この人から置き去りにされて、病室のベッドで目が覚めたとき、真っ先に思ったのだ。

思い出して、自分なりに記憶を整理したくても、この人の名前がわからなくて、もどかしかった。

「名前なんて、いいじゃない、なんでも。私死んだんだし、知ったところで意味ないよ。」

「えー、ケチねぇ。意味なんかなくていいよー。知りたいんだよー。」

「なんか、今さら名乗るのも恥ずかしいじゃない。そのうち、言うよ。」

「ケチ。」

「ケチで結構。」

「じゃぁさ、花ちゃんって読んでいい?」

「はぁ?なんで『はな』?」

「だってその花柄のワンピース、かわいいじゃん。」

「…わかった。私は花ちゃんね。」


彼女は、その時初めて優しい顔で一瞬だけ笑った。


「あ、笑った。」

「うるさいね。」

「うーん、ママにもねぇ、よく言われる。声が大きいとかね。」

「ママねぇ…。」

「花ちゃんのママは、きっと花ちゃんがいなくて、泣いてるね。」

「私にお母さんはいないよ。」

「え?じゃぁ、花ちゃんは何から生まれたの??卵とか!?あ、卵でも、産んだお母さんはいるよね。じゃぁ、何?何から生まれたの?」

「…ほんと、うるさい上に、面倒な子ね。」

私は、花ちゃんが何から生まれたのかだけが気になってしまい、うるさい子などと言われたことは耳にも入らず続けた。

「あ、私、わかってしまいました。きっと、花ちゃんは、種から生まれたのね。お花のように。」

「…うまい。」

はなちゃんが笑った。

「うまいって??お花のようにが?私うまいよね。だって花ちゃんが花のようにって・・・。くくく。」

「何度も言ったらおもしろくないのよ。」

「くくく…。」

「もうおもしろくない。」

そう言いながら私と花ちゃんは、初めて一緒に笑った。


「私のお母さんは、私を産んでから、どっか行っちゃったんだって。だから知らないの。」

「え、なんで?」

「お父さんが言うには、私よりも、お父さんよりも好きな人が出来たんだって。ドラマなんかでよくいうでしょ、私は捨てられたんだって。」

「知らない。」

「そうよね。」

「…お母さんに会いたい?」

「別に。」

「じゃあさ、これは誰にやられたの?」

「いきなり、そこ?」

「だって、ひどいじゃん。私がやっつけてあげようか。」

「誰というか…。さっき、あなたを置き去りにして、私はまたあの教室に戻ったの、どうやって戻ったのかは知らないけど。」







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