立て籠もり
これはミステリなのか。それともコメディーなのか。
解釈は読者様に委ねます。
『警視庁より各局。お台場で銀号強盗事件発生。強盗犯は二名。強盗犯は日暮マンションに立てこもった。至急応援を要請する』
午後一時強盗犯の中田はマンションの一室にいた女をガムテープで拘束していた。
「くそ。うまくいっていたら大金が手に入っていたのに、刑事がたまたま銀行にいたなんて知らねえよ」
中田は苦情を呟く。
「まあいい。ここに立て籠れば大金獲得のチャンスを再び手に入れることが可能だ」
中田は笑っていた。しかし相棒のジェイムズは散らかっている部屋を気にしていた。ジェイムズは中田にある相談を持ちかける。
「中田。ただ立て籠もるのもつまらないから、部屋の掃除でもしないか」
中田は目を点にする。
「馬鹿か。お前は。なんで銀号強盗に失敗した男二人が籠城した部屋の掃除をしなければならない」
ジェイムズは部屋を見る。その部屋は一人暮らしの女性に似合わないくらい散らかっていた。
「この部屋は散らかっているでしょう。もしかしたら長時間この部屋に立て籠もるかもしれない。どうせならきれいな部屋で立て籠もりたいじゃない」
そういえばジェイムズはきれい好きだった。
「勝手にしろ」
なんでこんなやつを相棒にしたのかと中田は嘆いた。
中田は金目の物を盗むために部屋を物色し始めた。しかし散らかっているのでどこに金目の物があるのか分からない。
しかたなく中田は女の口に貼ったガムテープを剥がす。
「金目の物はどこにある」
女性は怯える。そんな彼女を見て中田は舌打ちした。
「沈黙か」
ジェイムズはついでに質問する。
「掃除機はどこだ」
女は目を点にした。掃除する話は冗談だと思ったからだろう。
「えっと。確か和室にあります」
「よし。きれいにしてやる」
籠城して三十分が経過したにも関わらずジェイムズは掃除をしている。彼は中途半端が嫌いな人なのだ。だから中田は彼を銀行強盗の相棒にした。
それから一時間後ジェイムズは部屋という部屋をきれいにした。
そのことをジェイムズは女に報告する。
「リビング以外は掃除しておいた。ありがたく思え」
リビングの掃除に取り掛かろうとしたその時突然警察官がマンションの一室に突入してきた。
「銀行強盗犯さん。お前らを逮捕する」
警察官はこの状況を見て笑う。
「そんなことしても罪は軽くならない」
「相棒から離れろ」
中田は仕方なく女の首にナイフを近づける。
突入してきた警察官は説得を試みる。
「やめろ。そんなことしたら罪は重くなる」
「うるさい。警察は一歩も動くな。さあ。車を出してもらおうか」
警察官は指示に従い車を用意した。
「それでいい。じゃあ相棒は一緒に来てもらおうか」
警察官と対峙するように一歩ずつ歩いていたその時どこからか空き缶が転がり、中田は躓いた。
倒れた中田を警察官は確保する。
「何で空き缶が転がっているんだよ。ジェイムズが掃除したから空き缶なんてあるわけが」
丁度その時和室から一匹の猫が顔を出した。
「猫か。たった一匹の猫に倒される結末になるとはな」
ふと中田は考え込む。
(そういえばジェイムズは掃除機を取りに和室に向かった。じゃあなんであいつ猫の存在を教えなかったんだ)
中田は連行されるパトカーの中でジェイムズに質問する。
「何で猫の存在を俺に教えなかった」
「忘れたか。俺は猫派だ。かわいい猫に癒されていたら大金なんてどうでもよくなった。ただそれだけさ」
こうしておバカな籠城事件は幕を閉じた。
一か月後拘置所のジェイムズも元に手紙が届いた。相手はあの籠城事件の被害者だった。
『前略 あの時は掃除をしてくれてありがとうございました。あなたは犯罪者なのに優しいと感じました。あなたなら更生できると信じています・・』
コメディーパートを抽出してできた作品。いかがだったでしょうか。
来月はこの続編ではないかもしれません。
ご了承ください。